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フィンブルの春 -FimbulSpring-  仇討ち依頼

作者:

 青と黒を混ぜた肌寒い空に、紅い満月が浮いていた。

 不吉を思わせる月の存在を、地上で電気の光を得た人々は気が付かないでいた。それでも、電気の光の届かない場所では、輝く月が不吉の予感を地上へ落としていた。

 電気看板の光が照らす石畳の敷かれた道を、ブーツの音、ヒールの音、革靴の音、様々な音が闊歩している。

 まだ寒さの残る季節、夜が更け大通りも徐々に人通りも少なくなってゆく。そんな中、一組の男女が周囲の目を少しだけ引いた。右手を歩く女は、まだ顔に幼さを残した可憐な少女だ。吸い込まれそうな青い瞳。幼さの中にガラス細工のように完成された美しさを持ち合わせており、ネオンの光が照らすその肌は陶磁器の様だ。

 しかし恰好はそれとは不相応に全身黒づくめ。腰にポーチをまいており、背負っている直方体は少女の後姿を覆い隠すほど大きなものだ。だれの目から見ても、不釣り合いという言葉がこれほど似合う少女もそうはいないだろう。

 しかしそのせいか、少女には他人の目をひきつける魅力があった。

 右に対する左の男は、整っている顔とは言えるものの少女に比べれば格段に劣る物がある。服は赤を基調とした派手なものを着た若い男だ。

 人目も気にせず、少女にまくし立てている。

「ねえねえ! 君は何か好きなもの無いの?」

「そうね、好きなものは……銀ね」

「ところでさ! その背負ってる箱なに入ってるの?重いなら持つよ?」

「大丈夫。これには大切なギターが入っているから、自分で持っていたいの」

 そういうと少女は背のギターケースを肩越しにそっと撫でた。

「へえ、音楽やってるんだ。こんど聞いてみたいなぁ」

「友達と二人でやってるから、そのうち見せられると思う」

 二人の素振りは家族、知り合いといった様子ではなく、会話は男が身振り手振りで話しかけ、少女がそれに応えるような形だった。

「ところで、何か食べた? おなか減っちゃってさ」

「そうね、後で食べましょう」

「その前にメインディッシュがあるわけだね」

 この言葉を少女は無視。男は話題を変えてまたしゃべり始めた。

 話の内容も踏み込んだものではなく、当たり障りのないものばかりだ。

 すれ違う人々は2人を流し目で見ては関心を失いすれ違っていく。

 そのうち二人は徐々に人の多い大通りを離れ、二十分以上の時間をかけながら、ゆっくり、ゆっくりと街灯の光も少ない方へ移動していく。

 人通りも殆どなく、ゴミもない綺麗な広い通りから右路地に逸れると、そこは昼には賑わうオフィス街のを形成する大小のビル群のその裏側、間を縫うように作られた路地だ。裏路地は表と違い、地面はただ無機質にコンクリートで固められ、少なくないゴミが落ちている。左右はコンクリートのビルで固められ、圧迫感を与える路地。ビルの影響で月の光も差し込まない。そんな道のゴミをよけながら七分程度歩いていくと、十字路に差し掛かった。少女は迷うことなく左へ曲がると、男もそれに追従して曲がった。

 丁度、2人の進行方向は淡い影が先行していた。光源である月は雲に隠れかけ、ビルの隙間から僅かに二人を照らしている。途中、男の大きな足が空き缶を蹴り飛ばし、遠くとなった大通りの人々の音も寄せ付けないビルの谷間に、アルミの出す衝撃音が吸い込まれていく。

「あーあー人もいなくなると響くねえ、あっちの音も響いちゃうかな?」

 自分で蹴飛ばした缶の音に驚いた男の表情が、少女に対する卑下た言葉と共に劣情を混ぜ合わせた不自然な笑みへと変化する。

 しかし、まだ男は手を出すことはなかった。今はまだ隣り合って歩ける程をの道をさらに奥へと進んでいく。

 曲がってから五分ほど歩くと、右以外の選択がない場所に突き当たった。少女がやや先導気味に右折をする。

 さらに七分ほど進んだところで、十字路に行きついた。右には隠れきった月が雲に影を作っていた。左の狭い道を手ごろだと思ったのか男は少女を手招きする。まっすぐ進もうとしていた少女は男に「そっちは行き止まりだよ」

 と言われると、目線をかすかに右へ向ける。左右のビルに比べ、背の低いビルが行き止まりを作っていて、その後ろに別のビルの上部、黒い影が覗いていた。少女は男に気取られないように視線を戻し、男の手招きについていった。

「それ邪魔じゃない?」

 男が指差したのは少女の背のギターケースだ。

 指摘された時にはもう斜め掛けされていたケースを少女は降ろそうとしていた。

 少女は路地入口の壁にケースをそっとに立てかけ、狭い路地へ入っていく。一人で歩くなら十分な広さだが、二人で並んで歩くには狭い程度の道だ。

 そこからさらに二十歩程度進んだところで、男が立ち止った。振り返った男に対して少女も立ち止まり壁に背を預ける。

 今にも襲い掛かりそうなほど興奮した様子の男を焦らすように、黒いジャケットとインナーを僅かに捲り、そこから覗く白い肌に右手の指を這わしている。そんな少女はあまり表情を変えないまま、目を細め、男を見つめる。

 その様子に我慢できなくなったのか、唇を重ねようとするかのように少女へ顔を近づける。それに合わせるように少女も右肩を下げ、顔を少し傾ける。表情は先ほどと同様、乏しく変化がない。

 一方、少女へ近づけられる男の口元は、キスをする気が有るのかというほど笑みに歪んでいる。

 その時、唇がかすかに動いた。

「「死ね」」

 小さな声が重なり、直後に軽い発砲音が路地に響いた。ビルへの僅かな反響を残し、一筋の真鍮が響かせる金属音を残し、静寂があたりを包む。

 静寂を破るように男の顔が天を仰ぎ、頭頂部が少女と反対側の壁へ鈍い音と共にぶつかる。そのまま後頭部を壁に擦りながら男は座り込んで動かなくなった。少女の側の壁へと足があたり、くの時に足が開かれている。

 先ほどまで男の顎の下が存在したそのあたりには、少女が自身に這わせていた手とは逆の手が。芸術品を思わせる、美しく細い右手には無骨な黒塗りの拳銃が握られていた。

 少女は一呼吸着くと、動かなくなった男を見る。少女の表情が微かに歪む。快楽殺人の笑みではなく、物事がうまく進まないかのような、イラつきを僅かに含む表情。男を視界から外すと、持ち物をあさるでもなく、ただ、少女は熱くなった薬莢を素手で無理やり拾い、安全装置を掛けた拳銃と一緒にポーチへと突っ込む。そして再び男を見向きすることもなく、ケースを置いた路地の入口へと息を切らすほど全力で走る。

 その時後ろで、走る少女には聞こえない、小さな音がした。

 雲に隠れていた月が再び暗闇の路地を紅く照らす。月の紅光に照らし出される男のくの字に広げられた足の間には、潰れた銀色の弾丸が落ちていた。銀は月の紅を反射し、怪しく光る。

 先ほど、死ね、と言ったのは少女だけではない。

 男がゆっくりと、先ほどの動きを逆回しするかのように壁に後頭部を擦りながら立ち上がる。その動きはひどく緩慢であるが、その表情は先ほどの興奮した目とは違う、憤怒を宿した獣の眼だ。グリンと首を右へと回し見つめる先にあるものは、月の元、少女が先ほどケースを置いたの出口。そこを出ようとしている少女の姿だ。男はもう、少女の正体に気が付いている。

「てめぇ!! 嵌めやがった糞狩人が!!」

 憤怒を怒鳴りあげた男の顔が醜く歪む。怒りだけで顔がゆがんでいるのではない。顔の肉がはがれるような音と共に人としてはありえない動きをしながら変形をしている。

 男が地面をも砕かんばかりに走り出す。

 先ほどまで男の整っていると言えた顔は今や犬のように鼻が突出し始め、それに合わせるように顔面を毛が覆っていく。全身が肥大化し、派手な赤色の服は無残にも裂けていく。

 男は今まさに、狼男となった。それを見た少女は顔に驚きの色を浮かべる。

 少女は狭い路地を出て、急ぎケースを取ると左へと走ってゆく。

「俺が拳銃で殺せる程度だと踏んだか!? 残念だったなクソ狩人!! 今のお前を一噛みで殺すのはさっきに比べてたいそう楽しいだろうぜ!?」

 少女への暴言を吐きながらいまだ肉の軋む音を上げながら肥大化する狼男は加速をかける。

 しかし路地を抜ける直前に、肥大化した体が両側の壁と接触し、速度が落ちる。それでも男は白い息を吐きながら、力任せにコンクリートの壁を抉り、狭い路地を脱する。僅かに残っていた服がちぎれ落ち、コンクリートの破片と共に宙を舞う。

 勿体ぶる様に男が左を見ると、月の光もない暗闇でギターケースを持った少女が立ち止まっていた。

「馬鹿が、行き止まりだって言っただろうが!!」

 狼男となった男の眼には、暗闇の少女の姿もしっかりと映っていた。狼の顔ながら下種の笑みを浮かべた狼男は深く、白い息を吐き出した。狼男の肉体はまたも軋みを上げ変化を開始した。

 狼男の下半身に残された衣類も、変化と共に千切れるが、脱落することはなく、男の下半身を何とか覆っている。

 走り出した狼男はもはや二足歩行を捨て、四足歩行となり完全に狼と化した。狼男の大きさをそのままに、先ほどより広い路地でさえ狭く感じる大きな狼が姿を現す。

 そして狼は少女へ向け全力の突進をおこなう。

 凶器の笑みを浮かべ、疾風のごとく接近する狼を前に、行き止まりで待ち受ける少女の表情には変化ひとつなかった。その顔には、恐れなど一つもありはしない。

 少女は狼が突進を開始する中、手に持ったケース脇の留め具を外し自身の脇に立てる。ロックを外されたケースはカチリと音を立て、蓋が横にスライドし、慣れた手つきの、しかし急ぐ少女の手を受け入れる。

 そして疾走する狼の見たそれは、ギターケースの中から少女の手へと移し出されたそれは。

 男の眼にはしっかりと見えている。艶消しされた漆黒の武器が、殺すという一点に特化した人類の英知。火薬の力で高速で弾丸を射出する殺戮兵器。

 少女の手にある銃が、男を待ち受けていた。しかし、もう男も止まることはできない。あと数歩、あと数歩飛ぶだけで憎き狩人と言えども柔らかい少女の首に牙を突き立て、興奮を覚える極上の腹の肉や腕、すべてを食らうことができる。そんな欲望が狼男を突き動かし、突進を続行する。

「またお預けなんてのは勘弁だ、食わせやがれ!!」

 狼は自身の欲望のために自身の性能を見誤った。

 少女が伸縮式の銃床を引き、最適な位置へ固定、左ひざを立てしゃがむ。スイッチを押すと、銃に装備されたライトが点灯。暗闇の中、少女へ向け疾走する狼を浮き出させる。

 右手親指で安全装置を解除。一連の動作を流れるように行う。

 少女は頬を銃床へ押し付け照準器を覗き込む。狼を中央へ捉える。

 間髪入れず、空気が鳴動した。

 突撃銃から発射された初弾が狼の足へ命中。足の一部を抉りとる。反動を制御しきれず、初弾の狙いが逸れた。

 銃内部でガス圧によりピストンが動き、ボルトキャリアを叩く。退したボルトから加熱された薬莢が排莢口を通し少女の右側へ舞う。

 そして再び、拳銃とは違う銃の爆音がビル群に木霊する。

 少女は正確に命中させようと、三発、、三発、三発というリズムで撃ち続ける。爆音の隙間には、薬莢と地面がぶつかり合う高い金属音が聞こえる。銃口が燃焼する火薬で輝くたび、少女の顔が映し出され、空中を舞う真鍮色の薬莢が鈍く輝く。

 少女は、銃口の撥ねあがりを必死で抑え、覗き込む光学照準機の中央をライトで照らされる化け物の狼へと向ける。小柄な体格は巨大な反動相手に、後ろに突き飛ばされないよう足を踏ん張り、照準が狂わないよう上半身を踏ん張り、全力で対抗している。額には汗がにじんでいた。

 少女が放った弾丸群は狼の頑強な皮膚を突き抜け、そこから真っ赤な血を吐き出させる。

 狼は噴き出す血を糸のようになびかせながら、壁へ跳躍し射線から逃れようとする、狼がこの路地で弾をよけるには縦の移動でしかなかった。

 その動きで外れた弾丸が壁に僅かな丸い傷をつけるが、ほとんどは狼の体の中心、胸のあたりに着弾する、血が噴き出し、苦痛にゆがむ顔から息が押し出される。それと共に狼は勢いを失い、少女から五メートルほどの地面に落ちた。

 狼は立ち上がり少女へ突進を続行しようとするが、傷が深く、動けない。動物的に喉を唸らせるだけだ。

 至近の拳銃弾をものともしなかった強靭な体も、強力なライフル弾には耐えることはできなかったのだ。

 三十一発の弾を撃ちきった少女は、ケースから次の弾倉を引き抜き、空になった弾倉を落とす。強化プラスチックの弾倉が地面に向け落ちる。それが立てた音とほぼ同時に素早く取り付けられた弾倉がカチリと填まる音がした。コッキングを行い薬室へ弾丸を送り込み、ガチンという音と共に射撃可能状態となる。

 その一連の動作の間、動けない狼は黙ってそれを見続け、体の回復をしようと試みる、しかし傷口に残る銀の弾丸が回復を阻害し。素早い再装填のせいで、どうにか立ち上がる程度までしか回復できなかった。

 成す術の無くなった狼は、自身の体を再び変化させる、少し体が縮み、先ほど狭い路地を通ったような二足歩行の狼男へと戻る。しかし先ほどとは違い狼男の顔にはもはや笑みはない。声が、唸り声から罵声へと変化する。

「くそが! 糞が!! クソが!!」

 しかし罵声のまま、狼男は少女へ再び突進してくることはない

 第一目的を少女の捕食から自身の生存をへと変更した狼男は、ただこのまま路地を逃げれば少女の追撃を受けると思ったのか、後ろの十字路付近まで下がると、砕いた路地と反対側のビル壁面に指をめり込ませ、急ぎ上り始めた。

「させるか!!」

 逃げようとする狼男を前に少女は突然、変化に乏しかった表情に激情を現した。そして喉が切れんばかりに叫ぶと、狼男に向け再び発砲した。死に物狂いでビルの上部へ登っていく狼男へ、銃を乱射する。しかし、胴体に当たって血が吹き出ようとも、狼男は無視し、壁を上がり続ける。少女は当たりやすい胴体から狙いを変え腕へと狙いを変える。ほぼ水平に壁へ接触した弾が跳弾を起こす。それでも数発が壁へとつかまっていた狼男の両腕を打ち抜き、少女の背丈の五倍以上はある高さから落下させる。

 落下する狼男を追撃しようとするもトリガーが空を切る。弾切れに気が付き再びケースより弾倉を取り出す。少女の額から汗が伝い、コンクリートへ落ちる。

 背中から落下した狼男がすぐさま起き上がる。衝撃の影響で動きが鈍い。狼男の荒く、高熱の息が白くそまる。

 空となった弾倉が地面と鳴らすプラスチック音に、ビクリと狼男が少女を見やる。コッキングを行いながら少女がじりじりと近づいていく。

「糞! 来るんじゃねえ!! こ……」

 少女が近づくのと同じ速度で、じりじりと下がりながら、再び悪態をつこうとしたその瞬間、強力な運動エネルギーを持った弾丸が、空気の裂ける音と共に少女の後方より飛来。同時にに狼男の眉間に朱が生まれ、後頭部が弾け飛んだ。後方の地面にガキンッという音と共に穴が開く。狼男は声を上げることもできず、上体が後ろへのけ反り、眉間と弾け飛んだ後頭部から青白い火が噴き出す。遅れて、微かに銃声の残滓が、青白い炎に照らされる路地に届いた。

 頭から発生した青白い火が狼男の全身を舐めるように覆い灰へと変えていく、狼男だった火へ少女はゆっくり近づくと、ただそれを無感動に、無表情に見つめ、右手の指で右目をこすった。少女が数回瞬きをしたころには路地裏は暗闇に戻り、そこには灰の山だけとなっていた。

 少女は銃を右手に持ったまま、左手でポーチを探る。

 ポーチ内の他の物に邪魔されながら、傷だらけの携帯電話を取り出した。静電気を感知する電話の画面の、登録された番号へ電話を掛ける。草原を子供が走り回っているような、軽く呑気で、陽気な呼び出し音が鳴り続けるものの、出る気配がない。

 すると少女は後ろの背の低いビルを見た後、灰の山へゆっくりと近づき、再び背の低いビルの方を見る。その後ろには別のビルの頂上が見えていた。、そこへ携帯電話を持った手を振った。暗闇に光る電話の画面にはアルファベットでCannonと映されていた。

 振る手の電話から聞こえる呼び出し音が一巡したあたりで音が消え、向こう側へと繋がった。

『もしもし? ごめんシルファ、音出ないようにしてたから気が付かなかったよ』

 通じた電話から聞こえる声は謝罪の色を混ぜながらも、呼び出し音と同じくとても陽気な声色だった。声を聴いた少女の口角が僅かに上がる。

「ううん、大丈夫。それにしてもカノン。完璧な狙撃だったわ」

 シルファ、と呼ばれた。先ほどまで突撃銃を乱射していた少女は少し優しげな声色を混ぜながらカノンを褒めた。

『フッフーン! そうでしょ! でもシルファが動きを止めてくれたからだよ!! とりあえず片付けたらそっちに行くから、そっちも掃除よろしくね』

「了解」

『じゃあまたね! バイバーイ!』

 カノンがそう言うと切れ、シルファも電話が切れたのを確認すると雑に携帯電話をポーチにしまう。手に持った銃に安全装置を掛け、マガジンを抜きコッキング。薬室から弾頭の付いたままの薬莢を取り出し、マガジンに入れる。そして丁寧にギターケースの中へ突撃銃と共にしまう。こんなものを堂々と持っているのを見られたら、警察のお世話になるどころではすまなくなくなってしまう。

 派手に撃っても良い様、人気のない場所を選んだものの、もしかしたらもあるためシルファは急ぎ掃除を始めた。

 ギターケースからライトを取り出すと、まき散らした薬莢を急いで回収し袋に詰める。そしてやはりギターケースに仕舞う。落とした弾倉はやや適当にケースに放り込み、元から落ちているゴミなどは無視。先ほど狼男が出てきた狭い路地の十字路まで銀弾が落ちていないか、五分程度の時間をかけ確認をし、見つけたものは拾う。ついでにカノンの開けた穴から潰れた弾頭をくりだし始末する。灰の山は無視した。

 掃除をしていると、遠くで警察車両の物であろうサイレン音が聞こえてきた。一瞬体を委縮させシルファが思わず周囲を見渡すと、、十字路を紅く照らす月が空に浮かんでいた。

「綺麗な月ね」

 シルファが思わず独り言をしてしまうほど、赤い満月は異様な美しさを持っていた。

 しかし、美しい月を見つめるシルファの眼には、感動とは別の違う光も宿っていた。それは狼男へ露わにした激情の根源的なものだった。

 数秒間月を見つめた後、右目を指で擦った。

 それから数分、掃除を終え壁に寄りかかりながらシルファが待っていると、コンクリートをを軽快に駆ける足音が聞こえてきた。

「やっほー、お待たせ!」

 そう言って暗闇から駆け寄ってきたのは背中に巨大なケース、コントラバスケースを背負った少女だ。シルファと対照的に、白いフリルの付いた服を着ている。シルファとはまた違う方向性で未熟な、未熟ゆえの美しさを持っていて、ライトに映る褐色の肌はまるでマシュマロのようであり常に微笑む口元はプリンのようだ。シルファが美術品の世界から迷い込んできたような美しさを持つなら、カノンは童話の中から飛び出してきたようなかわいらしさを持っていた。

 唯一、背中、コントラバスケースがシルファと同じ不釣り合い感を醸し出している。中に入ってるのは、先ほど人狼を一撃で殺傷した大口径の対物ライフルの改造品だ。

「カノン、こっちは掃除、大体終わったからホテルに帰りましょうか」

「そうだね! まだ寒い季節だし、おなか減っちゃった」

「……ルームサービス頼めたらね」

「やったー!」

 カノンが喜ぶ声が路地裏に響く。喜びの声を上げた後カノンが、ハッとしたように硬直。関節部が錆びた人形のようにぎこちなくシルファの方を見る。

 シルファを見つめる、カノンの澄んだ翠眼が少し泳いでいる。

「良い報告と、悪い報告だけあるけど……どちらを先に聞く?」

「なに? 悪いことなんてあった?」

 軽い雰囲気から突然暗い雰囲気に入る落差の激しさに、シルファは質問に質問で返してしまう。

「じゃあ、その、悪い方からその、ね? 私が警察無線傍受してるのは知ってるよね?」

 カノンが趣味で無線傍受をするのは知っている。お蔭でこういう都市でも仕事がしやすい。

 ……まさか、という予感がシルファの内で発生した。先ほどから警察車両のサイレン音が付近を回っている。

「私の撃った、狙撃の発砲音が警察に、通報されていたみたいで……」

「さっさと帰りましょうかカノン」

 シルファがすぐさまギターケースを背負い、体の向きを表通りへと向きなおす。

「待って待って、いい報告もあるよ!」

「こんな状況じゃよほどのことじゃないとよい報告には……」

「オーディンに連絡したら、偽犯情報を回してくれてね。警察が全体的にそっち行ってるらしいよ」

 良い報告だった。

「良い報告じゃない」

「ただ、やっぱり付近の捜索はまだやってるみたいで」

 先ほどから遠巻きで聞こえるサイレン音はそれの様だった。

「それは私たちが何とかしろってことね」

 そうそう! とカノンが大げさに頷き、全身で肯定を示す。

「本格的な後処理はいつもみたいにやってくれるみたいだから、さっさと帰ろう!」

 カノンが、その場で駆け足を始める。

 示し合わせたかのように二人が同時に走り出す。カノンのケースが引っかからないようかなり狭い路地は避け、比較的離れた明るい大通りまで全力で疾走する。出た途端、走ることはやめ、シルファは切れる息を抑え込み、普通を装った。

「カノンはなんで息切れないの?」

「んー鍛えてるから?」

 私も鍛えてるんだけれど、とシルファは思いながらも、ホテルへの移動を開始する。

 夜も更けているとはいえ、まだ人通りはかなりある。そこに紛れ込みながら移動する。こんな夜中に少女二人が歩いていたら、発砲事件関係なしに声を掛けられてしまう。

 しかし結局二人は警察と行き会うことも捕まることなく、大通りから無事にホテルへとたどり着いた。ホテルに入ると二人は胸をなでおろす。

 ホテルはかなり大きく、夜中にも拘らず、無駄に豪華なドレスやスーツで着飾った富裕層な人々がロビーなどで談笑している。

 ホテルの大きさに引けを取らない美しい装飾ながら落ち着いた雰囲気を出すフロントには女性が立っていた。

「六○一号室を借りている者ですが」

「……ハイ、こちらが鍵になります」

「今日、何かあったんですか?」

「……ハイ、パーティーが開かれておりました」

「ルームサービスありますか!?」

「……申し訳ありません。時間外となっております」

 カノンがしょぼくれる。

 機械的に受け答えする女性は終始伏せ目で、シルファとカノンを見ることはなかった。というよりは、見なかったことにしようとしている様だった。

 カードキーをを受け取ると、フロントの反対側のエレベーターへ向かう。

 途中、談笑をしていたドレスを着た女性達やスーツの男性たちを迂回した。一人の女性がシルファ達を見るとすこし顔を紅潮させ、すごいものを見たといわんばかりに、他の女性やスーツの男へとシルファ達の存在を知らせる。談笑する集団は迂回するシルファ達に見とれたような視線を向けた。談笑の話題も変化し、かわいらしい少女達のそれになる。

 それを一切無視し、エレベーターの呼び出しボタンを押す。一階に止まっていたエレベーターの扉がすぐ開き、さっさと乗り込む。六階のボタンを押す。扉が閉まると途中止まることなく一気に六階に着く。

 シルファには無駄を感じさせる豪華な赤いカーペットの敷かれた無人の廊下の一番奥、非常口の脇の部屋へ行く。電子施錠を受け取ったキーで開け、扉を引く。しっかりとした安心感を与える重さをを持っている。

 扉を開けるとセンサーがそれを感知し、自動で扉近くの照明が点灯する。その光を頼りにスイッチを押すと部屋全体を照らす明かりが点く。広々とした部屋は二人で使うにはかなり広い。奥には大きなダブルベッドが置いてあり、手前には靴を脱いで上がれる座敷が設置されている。バスルームとトイレも当然のごとく別々にある。

 部屋の片隅にはすでに荷物が置かれているが、綺麗に直されたベッドのシーツ以外、この部屋の物に手が入れられた痕跡はない。

 カノンは入ってくるなり奥のベット前へ移動する。律儀に靴だけ脱ぐと綺麗にたたまれた布団と、綺麗に敷かれたシーツの上へ、コントラバスケースを背負ったまま、うつ伏せに倒れこんだ。ベッドに髪の毛がぐしゃりと広がる。薄暗い中ではただの黒髪にしか見えなかったが、明るい照明の中では、黒っぽい茶色だということがわかる。光沢を持った美しい髪だが、巨大なコントラバスケースが背にあるせいで、押しつぶされた死体の毛の様だ。

「おなか減ったー寝るぅ……」

「せめて背中のもの下して寝なさいよ……」

「えぇ……面倒だよぉ……お腹すいたよぉ」

 そういって反応しなくなったカノンをシルファは放っておこうかと思ったが、十秒もたたずに

「重ぃ……」

とカノンがうめいた。シルファがため息をこぼす。

「それ見なさい」

 倒れこんだカノンに背負ったケースの肩紐から腕を抜かせるとケースを退け、歯を食いしばりながらベッドの脇に置く。平然とカノンは背負っているが、シルファにとってはかなり重く、ベッドの脇に置くだけで重労働だ。

「ありがとうしるふぁー、おやすみなさい」

「はいはい、お休みなさい」

 カノンがそのまま夢の世界に旅立った後、カノンの体の下にある布団を無理やり引き抜き、カノンにかける。

 カノンの世話が終わると、ブーツを脱ぎ座敷に上がる。そして背負っていたケースをゆっくり横向きに置く。その前にシルファは正座を崩したように座るとゆっくりロックを外し、蓋を横にスライドさせる。シルファはポーチから拳銃、ギターケースから突撃銃をと油差し、清掃道具を取り出し、掃除を始めた。

 シルファの使う突撃銃は、黒塗りの無骨な物体その物で、これ以上ない銃という形を取っている。二十年以上前に改良された銃で、突撃銃として非常に完成度が高い。細腕のシルファではやや扱いにくいものの、シルファでも扱える程度には反動制御がしやすく、整備も比較的簡単にできる。しかも耐久性が高く、様々な環境で撃つことができる。欠点と言えば

 シルファの銃はコンパクトモデル、つまりその銃を小型化した物だ。師匠が特別に取り寄せてくれたもので、整備方法も師匠から教わった。しかし、当の師匠が現役時代使っていたのは、この銃の改良設計前の物だ。

 ピンを外すと銃が二つ折りになる様に開いた。手慣れた手つきながら綺麗に磨いていく。シルファは整備の大切さを知っている。

 武器が錆びれば如何なる達人でも死に至る。師匠からシルファが教わった言葉だ。

 銃身内部を磨く。

「今日の人狼は、オーディンの情報と違うから、やっぱり」

 習慣となった作業をしていると、思っていることが思わず口に出る。

 ふと、作業の手を止め、シルファの碧い瞳が窓の外を見た。

 光の反射で、暗い外は見えず、銃を磨く自身の姿だけが見えた。

「どこに……?」

 ぽつぽつと独り言を言いながら銃身を磨き終わり、注意深く、銃全体を綺麗に磨く。全体に小さな傷などがあり、金属部分は塗装が剥げ銀色を見せているところもある。最後に油を丁寧にさし、油差しや清掃道具と一緒にギターケースに仕舞った。拳銃の方も同様に掃除し、次にカノンのコントラバスケースに入っている銃の整備にも取り掛かる。

 ブーツを履き、ベッド脇に置いたコントラバスケースをのそのそと重い足取りで座敷まで運ぶ。ゆっくりと慎重に座敷の上に下すとコントラバスの張子の中から、大型の銃を慎重に取り出す。シルファの手がプルプルと震えた。

 ボルトアクションの対物銃。打ち出す弾はサイズだけでシルファの銃の実包5.56x45mm弾の倍以上ある12.7x99mm弾を使用し、破壊力なら数倍以上に上る。人狼を一撃で仕留めたのも納得の破壊力を持つが重くてシルファでは使えない。これを背負って走り回れるカノンのすごさがわかる。

 カノンが普段使うのは中距離用のセミオート狙撃銃で、そちらは7.62x51mm弾を使用する。

 セミオートに比べ、構造が単純なため、掃除自体は簡単なものの、重さがスムーズな掃除の邪魔をし、独り言をいう暇もなく、重さにうめき声をあげながらシルファは清掃をした。ネジも硬く、掃除には一苦労だ。掃除を終えると再び腕をプルプルさせながらケースに戻し座敷の隅に寄せておく。

「そうと決まれば明日の準備もしておいて……」

 細かい清掃を終え、重さからも解放されたシルファはもう、疲れから眠気の限界に来ていたようで、大きく欠伸と背伸びをする。

 眠気で薄目と涙目になりながら、最後の力を振り絞り、学生などが持つ教科書などが入りそうなサイズのバッグへそれぞれ二つの銃をを入れベッドの脇に置く。

 電気を消すと着ていたジャケットとベルトの付いたパンツを脱ぎ、そのままカノンの寝ているベットに潜り込んだ。体温の低いシルファにはカノンの入っていた布団はとても暖かった。


 次の日、時計の針の音と寝息が僅かに聞こえるだけの部屋で、時計の長針が0を差そうとしていたとき、仰向けで眠っていたシルファが覚醒した。滑るように目を大きく開くと、そこから数度、ゆっくりと瞬きをした。それを終えた時には大きく開いていた眼は半目になっていた。腕を立てて起き上がろうとするが、体が動かない。

 布団が恋しくて体が動かないわけではない。寝るときに潜った布団はシルファに覆いかぶさっていなかった。シルファが頭を持ち上げると、布団の代わりにカノンがシルファに抱き着いており、布団はぐしゃぐしゃの状態でベット脇に落ちていた。春先の朝は寒いが、カノンの体温がかなり高い様で布団がない状態にもかかわらずシルファは寒さを感じず、むしろ暖かった。

 抱き着いたカノンを無理やり引き剥がすと、下に落ちていた布団をそっとカノンに掛け、服を脱ぎ捨てながら紙にメッセージをさらさらと書く。照明はカノンがかわいそうだとシルファはつけなかった。目覚まし代わりにシャワーを浴びると備え付けのドライヤーで髪を乾かし、先ほど脱ぎ捨てた服と似た服を着る。全身黒ずくめである。脱ぎ捨てた服はホテルの洗濯サービス籠に突っ込む。

 行き先は決まっていた。ロンドンに来ていたしあとで寄るつもりだったシルファだが予定を早めて先に会うことにした。座敷に置いたギターケースを背負い、扉を出る。オートロックが作動したのを確認してシルファはホテルからある場所へ向かった。

 ホテルからそこまで遠くはないが、そこはバスが運航していないので徒歩で移動することにした。

 シルファは道中、海外でも有名な観光地になっている橋を渡り川沿いをやや速足で歩いていく。日差しはまだ低く、空も曇り気味でシルファは何となくうんざりとした気持ちになった。

 川に沿った歩道を三十分ほど歩いたのち街中へ向けて歩き出す。人通りが多くなってきた中、背中のケースをぶつけないように少し慎重に歩く。コンクリートなどで作られた現代的な建物から、やや近代的な面持ちを持つ建物が多い地区へ入っていく。奥へ進むと昨夜の裏路地程ではないものの道幅が狭く、それ以上に複雑に路地が絡み合っていた。

 シルファはそんな中を迷いなく歩く。人の姿は全くなく、外から聞こえる車や飛行機の音とシルファの歩く音ばかりがさびしく響いていた。

 入り組んだ道の端の家の前に着くとシルファが背負ったケースを手持ちにし扉をノックもせず中に入る。シャラランと扉があいたことを知らせる金属のベルが鳴る。

 中は古ぼけた壁紙に黒い床板をしいていて、手前に二つの丸テーブルと椅子が置かれていた。希少なフィラメント電球の照明が優しげな雰囲気を店内に醸し出している。

 奥の空間とはガラスケースで仕切られ中には銃の部品などが置いてある。右端にはカウンターが置かれ、向こう側の壁には扉、そして置かれた椅子には年老いた男性が据わって新聞を読んでいた。

 縁なしの眼鏡をかけ、白髪交じりの単発をした壮年の男性だ。ベルの音でシルファに気づいた男性はニヤリと笑うとあいさつ代わりに皺だらけの手を挙げた。丸テーブルにケースを置きながら、シルファもそれに応えるように微笑みながら手を挙げる。

「お久しぶりです。師匠」

 先に口を開いたのはシルファだった。カノンに話しかけるのとはまた違う声色。どちらかと言えば肉親にでも話しかけるようでもある。師匠、と呼ばれた男性は少し照れくさそうに白髪の混じった髪の毛を掻く。

「よせよシルファ。もうお前も一人前だからな。……ところで、なんかあったか?」

 さすがは師匠、と心の中でシルファは男性を称賛した。

「ししょ……いえ、ジョンさん。銀杭を貰いたいんです」

 ジョンの眼の色が変わる。

「どうした突然? 人狼は殺ったとさっき機関の奴から聞いてたが」

「確かに、昨夜殺しました。狼型の人狼を。簡単に引っかかってやや拍子抜けだと考えていたんですが、狼型だったんです。」

 ジョンはシルファの言いたいことがわからなかった。ジョンはシルファの受けた依頼の内容を知らないからだ。

「私が受けた依頼は“妻の仇の人狼を殺すこと”殺害状況や死体の具合からでは人狼の種類の特定は困難でした」

 ジョンが新聞を畳んでカウンターの上に置く。シルファを見ながら、右手人差し指で耳たぶをつつく。

「……別件ですがロンドンでは、人狼被害と思われる事件が発生しています」

「知っている。心臓だけを食す人狼らしいな」

「ジョンさんは知らないみたいですが、死体に残った歯型から爬虫類系、特に巨大なトカゲのようなものであると推測されています」

 ほう、とジョンが感心した声を挙げながら髪の毛を掻いた。シルファは話を続ける。

「あとはジョンさんの言った通り心臓以外に一切手を付けない偏食性を持っていることです。やはりこちらも、昨日の人狼は私の顔か首を狙ってきていました」

 なるほど、とジョンが椅子から立ち上がる。

「そういうことか、いいだろう聖堂級の祝祷銀杭を出してやろう。あと銃のオーバーホールもやってやる、後でカノンを連れてくるといい」

カウンターから出てシルファの方にジョンが歩いてくる。床板が少しきしむ。シルファに比べてジョンはかなり大きい、頭二つ分は違いがありそうで、筋肉の鎧をまとっており、実際の大きさよりもさらに大きく見える威圧感を備えている。顔の老け具合に釣り合わない屈強な肉体だ。

 ジョンがシルファの前に立つと、大きな手がゆっくりとシルファの頭に置かれる。ゆっくり、割れそうな卵でも触る様にやさしくシルファの頭を撫でた。シルファが少し気恥ずかしそうな嬉しそうな顔をする。

「無理はするなよ、シルファ」

「はい、師匠」

 ジョンは師匠という呼び方に何も言わなかった。代わりに

「紅茶でも飲んでいけ」

 と、奥へ入っていった。


 一方、カノンが起きたのはシルファが部屋を出てから三時間以上が経過してからだった。目を開き、惰性のままにシルファに抱き着こうとするが、ベッドにはすでにシルファが居ない。起き上がってブーツをかかとをつぶさないよう爪先立ちで変な歩き方をしながら浴室へ移動するとシャワーを浴びる。

 十分ほど誰もいない部屋にシャワーの音が流れていた。

「ふー! さっぱり!!」

 すっきりとした顔でカノンが下着姿で出てくる。白を基調としたタンクトップと短パン、ソックスを穿くとそれの上から漆黒のロングコートを羽織った。このコートは昨日は着ていなかったがカノンのお気に入りで、一日おきに着ている。髪を乾かしたあと、輪ゴムを二つ用意し、片方を口にくわえると右側頭部にサイドテールを作る。口にくわえたゴムを今度は左側頭部にサイドテールを作り、ポニーテールにする。気合を入れるようにパチンと頬を叩くととりあえずシルファはどこに行ったのかと電話をかけてみようとした。

 が、電話帳を開いているときに視界の端に紙が映った。それは朝シルファが用意していた伝言のメモだ。それをカノンがゆっくりと読む。すると大きくため息をつき、肩を落とす。

「ぎゃふーん……石が三年だねぇ……」

 そういうとコートだけ脱いでまたベッドに寝転がってカノンはシルファの帰りを待つことにした。


 何時間かが経った後、ドアがノックされた。が、部屋の中から反応はない。カノンが二度寝をしていたからだ。ノックの回数五回目にしてようやく目を開けたカノンはのぞき穴から外を見る。そこに映っていた人物を見てカノンはすぐさまドアを開けた。

「シルファー! お帰り!」

 昨夜振りのシルファにカノンが抱き着くとシルファが右手に持っていた大きい紙袋が中でビニールがすれ合うような音を立てた。

「ただいま……ってちょっとドア閉まっちゃうから廊下で抱き着かないで!」

 左手にも紙袋を持っていて両手のふさがっていたシルファは、抱き着かれ危うく後ろに倒れそうになる。

 オートロックが作動しないようにドアに足をぶつけて閉まるのを阻止すると抱き着いてきたカノンと一緒に部屋に戻った。背中にケースを背負っているせいで重心が悪い。

「ひどいよ~シルファ! お師匠さんの所に行くのに連れて行ってくれないなんて!」

 頬をふっくらと膨らませたカノンを見てシルファは思わず笑ってしまった。

「ごめんなさいごめんなさい。ちょっと道具貰ってきただけだから」

 左手の紙袋をカノンの前に出す。右手の物は座敷に置いた。カノンがそれを受け取って中身を見ると首をかしげた。

「これって必要なの?」

 うん必要。と返すとシルファはケースをおろし、ベッドの脇に置かれた電話機に触った。

「お昼ホテルで食べちゃおうと思うんだけど、何食べる?」

「パスタ!」

 カノンが即答した。

 シルファもカノンと同じものを頼んだ。届いた料理を座敷で食べるとき、ついてきた調味料を迷うことなく目前の料理へかけようとするシルファをカノンが泣きそうな顔をしながら止めていた。

 食事を終え、食器の回収や歯を磨くなどの後始末を終えるとシルファが座敷から降りて靴を履く。

「ちょっと電話してくるね。取りあえずこれにカノンの銃を詰めておいて。私のは自分で詰めてあるから」

シルファが大きめの紙袋から取り出した二つのバッグはちょうど学生が持ってるような大きさのスポーツバッグだ。エナメル製で、それぞれ黒と白を基調としたバッグだ。側面中央に猫の形をしたブランドのマークが入っている。

「わー! 可愛い! わかった入れておくよ!」

 シルファが電話している間にカノンはせっせと必要なものを入れる。カノンがしまった銃は装弾数が五十発もある護身銃で、過去にはボディーアーマーを貫通することが可能な特殊な銃でもあった。

 現在ではそういうものの防御性能が格段に向上したせいでさらに貫通力を高めた弾丸を使用するこの銃の改良モデルも存在するが、対人狼のためには貫通力と打撃力をある程度両立しないといけないためカノンは旧モデルを使用している。銃を専用のカモフラージュケースに入れ、四十九発入り弾倉も二つに入れる。こっそり飴などのお菓子も入れた。後でシルファと食べようとカノンは考えていた。

 シルファも電話を終え戻ってくると先ほどの小さめの紙袋をバッグに入れ金槌も入れる。ベッド脇に置いておいたケースを開けると小銃に取り付けられていたショットガンを外し銃床を取付ける。カノンと同じようにケースに入れ、それからバッグにしまう。

「よし、じゃあ依頼主の所に行こうか」

「え、明日の準備とかじゃなかったの? お昼寝しようよー」

 カノンが座敷からベッドに一足飛びで飛び込んで抗議する。シルファはそれを無視して座敷の縁の下に並べられたカノンのブーツを持ってベッドまで歩く。

「あんまり変なことするとベッドが壊れちゃうからだめよ? あと一緒に寝るのなら帰ってきたらでいいでしょ。ね?」

「うー、わかった……」

 それじゃあさっさと行こう! とカノンがブーツを履いて部屋を飛び出そうとする。扉を開こうとしたときシルファがカノンを制止した。

「まって! これ持っていくから!」

 シルファの言葉に飛び出したカノンが戻ってくる。

「やっぱりやることは依頼主に見せないとね? あと一応であっちも持っていくから」

 カノンはシルファの言うことに従い、二人ともスポーツバッグを持って部屋を出た。

 自動券売機で券を買い、最近復活したばかりの二階建てバスに乗り込む。

 しばらく赤いバスの中で揺られながら街並みを眺める。

 特徴的な橋を渡り、バスが右折して少し行ったところで下車する。

 見かけが対照的な二人が一緒に歩くと目立つようで、時折声をかけられながら、建物の灰色と自然の緑の間の道を歩く。依頼者のいる球根のような形をした建物に入っていく。

 許可を取り中へ入ると螺旋階段がある。内側の照明と外の光とが合わさって青みを含んだ白い色合いをしている。そこを上り、指定された部屋の前に二人は着いた。ここに至るまでに徐々に人が少なくなり、三階したで完全に人の気配がなくなっていた。

 ノックをすると、どうぞ。と返事が来たのでシルファを先頭に中に入る。失礼します、と言い中に入る。

 中は会議室のような広めの空間だが、窓が一切なく、出入り口もシルファが入ってきたところ以外に一切ない特殊な部屋だった。大きな円卓の丁度シルファの反対側には白髪を大事そうに七三分けされた中年の男性が座っている。優しげなな雰囲気を持っているが後ろに立つ黒いスーツの大男が紳士に威圧感を付与している。依頼を受けたときにはいなかった。

 シルファが二人を見ると一瞬大きく目を見開き口を開きかけるが後から入ってきたカノンがコンニチワー! と大声を出したのでシルファは開け掛けた口をふさいで平静を繕い、紳士を再び見た。

「やあ、元気だねこんにちわ。早速だが依頼は成功したかね?」

 単刀直入に聞いてきた。本音を言えば成功とはいえないが、今この状況ではとシルファは嘘をつくことにした。

「ええ、何とか成功しました、私みたいな女に簡単に釣れてくれる単純な奴でした」

「それでもすごいさ、人狼をたったの二日で見つけて、退治できるなんて私には無理なことだ」

「……ま、まあ、私には眼がありますから」

 この言葉を紳士は“経験がある”という意味で受け取ったのか

「若いのにすごいねえ」

 と感心した。

 シルファは紳士とボディガードには見えないよう、手信号でカノンに合図を送る。手信号の意味を理解したカノンの顔が強張る。

「おや、元気にあいさつしたと思ったが、後ろのお嬢ちゃんはこういうのに慣れてないのかな? そうだ、ブレット君。何か飲み物持ってきたまえ」

「しかし……」

「大丈夫。このお嬢さん方は私に危害を加えたりしないさ」

 そう言われ、ブレットと呼ばれたボディーガードが、飲み物を取りに部屋を出ていく。

 シルファにとって期せずして好機が訪れた。

「しかし、私の溜飲も下がるというものだよ。妻の仇を打ち取ってもらえたわけだ。さっき出て行った彼もね、妻を守ろうと大怪我をしてね」

 シルファがバッグの中でショットガンをケースから取り出しす。

「……そのことなんですが、彼をボディーガードとして雇ったのはいつですか?」

 脈絡もない突然の質問に、なぜそんなことを?? と言いたげな顔を紳士は少し見せたが、シルファの真剣な表情を見て、口を開いた。

「彼を雇ったのは丁度、三か月ほど前からかな? 妻が死んだのは1か月前だ」

 少しの沈黙が部屋を支配する。

「単刀直入に言わせてもらいます」

「彼は……人狼です。それも、おそらくですがあなたの奥さんの仇です」

 この言葉に驚いたのは紳士だけではない。先ほどの手信号は警戒という意味だけで人狼が居るとはカノンも思っていなかった。急いでバッグの中のケースから銃を出し射撃可能な状態でバッグに戻す。

「ハ、ハハハ何を言っているんだ。彼が人狼だって?」

「お願いします。信じてください」

 紳士がシルファから目線を外し考え込む。しかし長く考えることはできそうになかった。

 ドアがノックされる。

「ちなみに、ここで銃撃をおこなったら、もみ消しはできますか?」

 これまた唐突な言葉にしかし、紳士は首を縦に振った。

「どうぞ」

 紳士は先ほどと変わらないよう、ノックに応える。

 先ほどのボディーガードが、ポットとカップを持って入ってきた。思わずカノンの、バッグの中の銃を持つ手へ力が入る。まずシルファとカノンにそれぞれ紅茶をだし、砂糖の入った瓶を置いて紳士の方へ向かう。同じように紅茶をだすと

「そうだ、ご主人、砂糖はいつもど……」

 一瞬紳士の方を向いた隙にシルファが合図を送る。

「倒れて!!」

 シルファが叫ぶと同時に紳士がすぐさま横に倒れた。シルファはショットガンを発砲。装填された弾薬はバックショット12ゲージ弾九粒。軍用にも使用されるそれが壁に三つの弾痕を生成。残りは円卓対面のボディーガードに直撃していた。

 ボディーガードが持っていたポットとカップが宙を舞う。

 間髪を入れずカノンがバッグからすぐさま銃を抜き男に向け乱射する。特殊形状をした火器が薬莢を床に撒き散らせながら、軽快な連射音を部屋に響かせる。

 ボディーガードは壁に縫い付けられたようにぶつかり撃たれるまま動かない。紳士は銃撃に巻き込まれないよう這ってその場から離れる。

 銃声が止み紳士が立ち上がるとそこには穴だらけになったボディーガードが壁に寄りかかっていた。

(やったのか……?)

 紳士の考え方は無理もない。全身穴だらけになれば誰だって死ぬだろう。だが、相手は人狼である。そもそも、穴すら開いていない。

 ボディーガードがゆっくりと動き出す動きに合わせて服の隙間から潰れた銀弾が落ち、床とぶつかって金属の音楽を奏でる。

 穴だらけの服に対してしかし、人狼のボディーガードには一切効いていない。僅かに出血を起こした場所から潰れたシルバージャケット弾が、排出され、傷が治癒する。まさしく人ではないありえない治癒の仕方だった。

「まさか、ばれるとは思いませんでした」

 男の体が軋みはじめる。それと共に体表がまるで鱗のようになり、爬虫類のように変化する。

「どうしてわかったんでしょうね、ぼろを出した覚えはないですし」

 その問いをシルファは無視した。代わりに紳士が男に向け問いを投げる。

「まさか、本当にお前が妻を殺したというのか!? お前が守ってくれようとしたんじゃないのか!?」

「いえ、守ってましたよ。大切な食糧です。まさか食事の日に仲間に襲われるとは思ってもみませんでしたが」

 にこりと紳士にボディーガードだった男は笑い掛けた。あまりに自然な笑みは逆に真摯に不気味さと恐怖を与えた。

「まあいいじゃないですか。ここで三人とも死んでもらいます。

 人の形は保っているものの顔はトカゲのように変質し体が肥大しボロボロのスーツが無残に破ける。カノンが弾倉を入れ替え射撃をするがまるで水鉄砲でもあてられているようにそれを無視しながら男がカノンに迫る。円卓の机を破壊し鱗で弾を弾きながら。発射サイクルの早い銃は瞬く間に四十九発を撃ちつくすがトカゲ男には一切のダメージが入っていない。僅かに速度が落ちた程度だ。その間、シルファは装填されていた弾を撃たずに排出。新しく弾を込めると迫るトカゲ男とカノンの間に円卓を跨いで割って入る。

 その行為を愚かで無駄な行為と断じた男は、シルファを撥ね飛ばしカノンへ向かおうとした。

 シルファの手にはショットガンが握られている。先ほど通じなかったショットガンだ。しかし、今度は弾薬が違う。

 トカゲ男へ向けシルファは引き金を引く。口から絶叫が漏れ出る。

「し……ねえぇぇぇぇ!!!」

 絶叫をかき消すように再びショットガン特有の発砲音が響く。しかし打ち出されたのは先ほどの12ケージバックショット弾九粒ではない、たった一発の弾丸。スラッグ弾と呼ばれる一つの大きな弾が撃ちだされたのだ。

 スラッグ弾は重い弾頭重量と初速の遅さにより遠距離では威力が落ちるしかし、ほぼ接射にちかいこの状況で大質量のスラッグ弾の発射直後の破壊力は大口径ライフル弾に匹敵する。

 銀で覆われたスラッグ弾がトカゲ男の胸元へ激突。強固な鱗と弾丸がせめぎ合い、弾丸は潰れながらも鱗を砕き、衝撃でトカゲ男を殴り飛ばす。男は、鱗の破片をまき散らしながらシルファの横へ転げるカノン手前の円卓を叩き割りそこに仰向けに倒れた。すぐさま立ち上がろうとするトカゲ男シルファは再び撃つ。防御の要である鱗がない場所への衝撃のせいでトカゲ男は僅かな間ながら行動不能に陥った。

「カノン!」

 持っているショットガンのグリップを引き、薬莢を排出。三発目を発射

 ガキンとけたたましい音を立て、再び傷口を覆おうとした鱗をちぎり飛ばす。

 シルファの叫びに合わせるようにカノンが手に金槌と銀の杭を持ってきた。

 師匠からシルファが預かった聖堂級の祝祷儀礼の銀杭

 カノンはシルファが弾き飛ばした鱗の隙間に、杭をあてがう。

「ま……まて! やめ」

 トカゲ男が暴れようとするが、カノンが全力で抑え込む。懇願に対してもシルファが聞く耳を持つわけがない。

 一撃、、銀の杭を無理やりねじ込む金槌の音、そして爬虫類男の悲鳴が部屋に充満する。祝祷を受けた銀杭が抵抗するトカゲ男の心臓へ向け突き進む。

 暴れ狂う爬虫類男をカノンが必死に抑え、シルファが渾身の力で杭をたたき続ける。

 十撃を超えたあたりでとうとう男の悲鳴は途切れた。噴き出す血が止まり、杭の突き刺さった胸元から青白い火が付く。その火が通過するとすぐさま灰になり、床を赤く染めていた血も火に炙られ乾き、灰へと変わっていく。

 あまりの出来事に、息を切らすシルファとカノンの二人に対して、紳士は声をかけることができなかった。

 代わりにシルファが先に口を開いた

「心臓を、抉ら、れた被害者の歯形は、トカゲのそれに類似、あなたの、妻に残されたのはは、狼と、トカゲ、両方が、のこされていました」

 シルファがいったん口を止目に入りそうな汗を拭う。呼吸もゆっくり吸っては吐くを繰り返して整える。

「なので、近辺の人狼は、一匹ではない、ということがわかると思うんですが、こういうことだったみたいです」

 息切れするシルファが指をさす先には、銀の杭が突き刺さった灰の山ができていた。

「依頼は完了しましたので、私たちは帰らせていただきます、お金は、指定されていた口座にお願いします」

 カノンが灰に刺さった銀の杭を抜き、手ですこし掃うとバッグへしまう。同じく先ほどまで乱射した銃も弾倉を抜き、安全装置を掛けバッグにしまった。

 シルファも同じくショットガンをしまい、灰の付いたショーとパンツを叩く。

 紳士が、立ち上がり、二人に近づく。

「ああ、約束通り以上に金額を払おう。私のもう一つの……危険、も無くしてくれたのだからね」

「構いませんよ、先ほどの人狼の問題をここの機関本部は危険視して賞金を懸けていました。その賞金を貰えますから」

 紳士は、フッと笑うと、シルファとカノンを見た。

「君たちは若いのに、すごいのだな。私のボディーガードが人狼だと見破る経験の多さも含めてね」

「見破ったのは経験の多さではありませんよ」

 男性は、ん? となってしまった。

「先ほど初めて目にするまでは人狼が居るとは思っていませんでした。この銀杭だって本当は使用するものを見せて信用してもらうと思って持ってきたものです。まさか使うことになるとは思いませんでしたが」

「備えれば病気無しだね」

 突然のカノンの言葉に一瞬シルファと紳士が固まるがシルファは頭を振って言葉をつづけた。

「さ、最初に言いましたよね、私には、眼があり、見えるんです」

 そういいながらシルファは自身の右目を指差した。

 今度こそ紳士は、シルファの言っていた“眼がある”の意味を理解した。

「そうか、見えるのか、君は」

「依頼を受けるときは居なかったのでわからなかったんです。すいません」

 頭を下げ、シルファが謝ると、紳士は「そんなことはない」と返した。

 紳士はまだ幼い彼女たちがこんなことをしているのは間違っているのではないかと一瞬思った。だが紳士はまず言わなければならないことがあった。

「君たちは妻の仇を取ってくれた。ありがとう」

 続けて言おうと思ったことがあったが、察していたのか偶然なのかシルファがすぐに

「では失礼します」

 シルファがお辞儀をするとカノンもお辞儀をして部屋を出ていった。紳士はゆっくりと壊れなかった椅子に座ると天井の照明をゆっくりと眺めていた。

 シルファとカノンが疲れた顔をしながら螺旋階段を下りていてもやはり誰もいないこれなら騒ぎにはならないだろうと二人は安心した。

 螺旋階段を下りきり、球根のような建物を出る。

 するとカノンのお腹が、シルファにもはっきりと聞こえるほど大きな音で空腹を訴えた。

「お仕事終わりだし、疲れたエネルギー補給に何か食べようよ!!」

 カノンが催促する。シルファが携帯電話をチラリとみるとまだ三時程度だった。

「まあ、うん。何食べたい?」

「日本食食べてみたい!!」

「日本食食べたことないなぁ、まあしょうがないレストラン探そうか」

 再び緑と灰色の間の道を通り、大通りへ出るとと、2人は日本食レストランを探すことにした。

「ジャパニーズカイテンスシだって。お菓子あるみたいだよ!」

「苺イソマキ!? 何これ日本食すごい!!」

「これが……日本食……すごい」

 二人は日本食を誤解することとなった。


小説って難しい

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