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小雨、発艦!

地獄のトレーニングで、体力も精神力も使い果たした俺は、艦内自室に案内された後、ベッドに倒れた。そんな寝耳に艦内放送。


『皆様、御早うございます。艦長の竹下です。当艦は皆様ご存知の通り、本日午前十時を持ちまして、横浜基地を発ちます。乗組員の方々は九時半までには必ず乗艦している事をお願い致します。最後になりますが、CR隊の方々は御手数ですが、九時半にブリッジの方へお越しください。ご報告は以上です。今日も一日頑張りましょう』


えーと、これは軍の指令通達なのでしょうか?それとも、社内連絡?とにかく九時半にはブリッジに行かないとな。


着けたまま、寝てしまい腕を痛くした原因である腕時計を確認。八時か。昨日、あの地獄から解放されたのが、六時前だから十四時間も寝ていたのか。それだけ疲れたって事か。


九時半まで有った一時間は自室のシャワーを使い、迷いながらもたどり着いた艦内食堂での食事で直ぐに無くなった。


「おはようございます!」


軍人たる者、いや人間ならば元気良い挨拶を心掛けるべきだ。


「あぁ、お早う。良く寝れたかい?」


「あっ、はい。ぐっすり寝させて頂きました」


返事をくれたのは副艦長だけというよりブリッジはガラガラ。他には、音楽の世界へとトリップなされている原田さんと俺の挨拶に少し頭を下げるだけの裾花先輩のみ。


他の面々はともかく呼び出した艦長はどうした?


「遅れて申し訳ありません!少々此方の方で立て込んで下りまして!お呼び立てしておきながら当人が遅れるとは、お詫びのしようも無い次第で」


轟木隊長とリアさんと共に、開いた扉から現れ、ペコペコと頭を下げる艦長。いや、二、三分遅れただけですし、隊長達も遅れて来たし、貴方はこの艦のトップなんですから、お詫びしなくても良いと思いますよ。


「竹下、そんなことやってないで早いところこの新米に今回の仕事を教えてやりなよ。あと、原田!あの酔っ払いと色情魔を呼び出しな」


何ででしょう。このお婆さん副艦長が、艦長の鑑に見えます。この艦、唯一の良心だ。


「そうでした。早急になりますが、時間も無いことですし、今回の任務について説明をさせて頂きます」


轟木隊長に並ぶリアさんの隣に行く裾花先輩。俺もその横一列に加わる事にした方が良さそうだな。


「ドュリズル、世界地図を出してくれませんか?あっ、ドュリズルと言うのは、時田君の造ったこの艦のコンピューターの制御ナビでして、少し寡黙ですが優秀なナビですよ」


開いたウィンドウに世界地図を映るとナビの説明を挟む艦長。寡黙なナビ…。時田さんは性格に難のあるAIしか造れないのでしょうか。


「私達の任務は今いる横浜基地から、黒龍の奪還したインドのカルカッタ基地へ補給物資を届ける事にあります。今回の航路は…」ウィンドウの世界地図に現れる航路。確かに仕事の早いナビだ。


「チベットを通んのか…」


「そうです。海路を通っても良いのですが、火星の潜水艦は厄介ですので。そこでCR隊には警戒を怠らないようにして頂きたいのです」


隊長のぼやきに答える艦長。火星は中国からの独立を餌にチベットに協力させている。強力な軍隊があるわけではないが、火星から貰ったCRによる神出鬼没なゲリラ攻撃は、地球連合軍に手を焼かせている。


「全二日の行程です。明日にはチベットに入りますが、攻撃を受けない可能性もありますし、チベット以外で不意撃ちに合う可能性もあります。各自、気を引き締めて頑張って下さい」


俺の初陣は明日になるのか。今日は寝れるかな。


「あー、二日酔いだぁー。これは迎え酒が必要だな…」


「あら、大空君。昨晩はどうしたの?お姉さん部屋で待ってたのに」


艦長の説明が終わったと同時に入って来る酔っ払いと色情魔。各々個性的な挨拶をして各々の席に着く二人。ところで梶原操舵手、今、一杯煽った液体には勿論、アルコールは入って無いですよね?


「ブリッジクルーも全員揃いましたし、予定通り後三分で発艦出来そうですね」


「えっ、ブリッジクルーってこれだけなんですか!」


「地球連合軍も人員不足でして、この艦には人があまり回ってこないんです。でも、皆さん優秀でして、一人で数人分の働きをしてくれてますので、大丈夫ですよ」



いや、いくらなんでも、副操舵手も、サブオペレーターも無しなんて。本当に大丈夫なんですよね。それよりも俺は今から降艦しても良いですか。


無情にもドッグの赤灯が回りだし、青空な景色と明るい陽光を注ぎ込みながら上部ハッチが開いて行く。既に乗降口はロックされているでしょうね。


「…了解しました。艦長~。管制塔のお偉いさんが航路クリアだから、とっとと出てけ、とのことです」



原田さん、本当に管制塔のお偉いさんがそのいかにも厄介払いする台詞を言ってそうで怖いです。


「では、梶原さん。出航しましょう」


「りょーかい」


えっ、ここは『戦艦小雨出航する!』とか格好良く言うシーンじゃ無いんですか。この艦長が俺の気分が盛り上がる台詞言う訳無いですよね…。


俺のテンションがだだ下がりの中、小雨のメインエンジンが点火。徐々に下降気味な俺の気分が上向きに。小雨が地を離れる。

俺は今から戦地へと飛び立つのだぁー!


「梶原さん。右に寄りすぎっすよ」


ドッグから艦橋が出た感動的瞬間に右翼が壁に接触。派手に揺れる小雨。原田さん、忠告遅いっす。


「何やってんだい!」


「ウッセェよ、近くで怒鳴んな、婆ちゃん。ちょっと擦っただけだろ。それに避けねぇ壁が悪いんだよ」


餓鬼の言い訳ですか、それは。俺には理解出来ません。その屁理屈もこの人が操舵手やってるのかも!


「…梶原さんの気持ち分かります」


裾花先輩、この大人げ無い言い訳を分かちゃうんですか!


「…前をノロノロの走ってる邪魔な車をせっついて怒られるって嫌ですよね」


やったことあるんですね?そんな可愛い顔して。CRだけじゃないんですね、貴女が悪魔になってしまうのは。


「結衣ちゃん、私も分かるよ。トロい車見ると、私の車にミサイル付けたいなぁ~って思うもん」


田端砲撃手、それで何を撃つつもりですか?


「艦長。管制塔から、映像通信です」


『竹下~!テメェ~またやりやがったなあ~!何度、うちのドッグを傷付ければ気が済むんだ!』


「申し訳ございません。今後このような事は無いように致しますので、何卒、御勘弁の程を」


管制官殿が怒るのも仕方ないです。そして、一生懸命に謝る艦長。土下座を始めそうな勢いだ。


「そんな必死に謝る事でもねぇのに」


梶原さん。あんたは反省しろ。戦艦運転しながら酒を煽るな。

そして、何故誰も止めない?大事故になるよ。何で皆さんは平静なのですか?あぁ、この艦の非常識な常識なのですね。


大空幸助、悟りました。

辞表の前に遺書を書いておこう。

お父様、お母様。幸助は戦死すら出来ずにこの艦と運命を共にするかもしれません。


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