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補給支援艦小雨の人々

一頻り落胆した後、勝手に搭乗して良いものだろうかと小雨を前に悩む俺に嗄れた声がかかる。


「あんたが今度の補充兵かい?」


軍服を着たお婆さん。片手で杖を突き、ノートパソコンを片手にこちらを伺いながら近付いてくる。階級章は大尉。


「はい、本日付けでこの艦に配属されました三等空士大空幸助です」


俺の精一杯の敬礼は返してもらえなかった。俺の腕にノートパソコンを押し付けるお婆さん。


「私は副艦長の村沢弥生ムラサワ・ヤヨイだよ。ついて来な」


それだけを言うとさっさと愛想笑いすらなく先を歩く副艦長。厳しそうな副艦長だ。また、ひ弱なそうなの送って来て等、上層部への不平不満をブツブツ呟きながら歩く副艦長に俺の気分は落ちる一方だ。

俺だって、上層部に文句を言いたいよ。こんな艦に送りやがって。


「竹下、噂の新米が来たよ」


婆さん副艦長の後に続いて入ったブリッジ。俺に視線が集まる。と言っても四人だけ。四人だけですか?停留中だから、皆持ち場を離れてるだけだよね、うん。

ブリッジに居た四人に、今日三度目になる自己紹介をすると小雨のクルーの紹介が始まると俺の気分はドン底に落ちる。


真っ先に口を開いたのは、三十代だろう。眼鏡の男性。軍服より、ビジネススーツの方が似合いそうだ。


「あぁ、待っていたよ。僕はこの小雨の艦長の竹下灯タケシタ・トモルだ。これから宜しく御願いするね」


新米三等空士に頭を下げる艦長……。どこぞのサラリーマンじゃないんですから。


「原田君、護衛隊を呼んで下さい。あっ、彼は通信士の原田勘助ハラダ・カンスケ君」


ヘッドフォンを付けて、音楽を身体を揺らし楽しんでいた男は、マイクを前に艦内放送を始める。命令を聞いてはいたらしい。


「俺は操舵手の鍛原カジワラな。お前は酒はいけるほうか?」


何やら琥珀色の液体の入ったプラスチック瓶をあげながら、気さくに話かけてくる操縦席に座る男。あれは麦茶だと信じたい。この艦は飲酒運転されていたりしないよな?


「砲撃手の田幡タバタです。よろしくね!」


田幡さん。まともだ!砲撃手には思えないが、唯一このブリッジでまともそうな人だ。そして、軍服が似合う美女。とても扇情的なお身体です。


「ところでさぁ、大空君、彼女とか居るかな。私はフリーだけど、今夜どぉ?」


今夜どぉって!いかん。この人危険だ!俺の貞操が。


「田幡。新米を誘惑するんじゃないよ!」


副艦長が俺の運んだノートパソコンでにじりよって来た田幡さんの頭を軽く叩く。


「ごめん。お婆ちゃん。でも、大空君。いつでも待ってるからね?」

お婆ちゃんのお陰で助かりましたよ。えーと、勇気が有ったらお声を掛けさせていただきます。


ブリッジの扉が開く。響く乱暴で煩い声。


「よっしゃあ!今度こそは男だ!鍛えがいがあるぜ!」


振り返ると二mは在るんじゃないかと思う筋肉質な大男。


「俺が小雨CR隊隊長、轟木一平トドロキ・イッペイだ!ビシビシ鍛えてやるからな」


「大空幸助です。お手柔らかによろしくお願いします」


差し出された逞しい手を握り俺はこいつトレーニングマニアかもしれない。厄介な人の元に来てしまったかなぁ。


その轟木隊長の巨体の後ろから現れた女性。西洋人なのか、ポニーテールに纏めた金髪で茶色い瞳で俺を見る。スタイル抜群、何とも素敵な西洋女性。しかし、何故に木刀をお持ちですか?


「拙者、リア・フーリレスと申す。轟木殿のCR部隊に仕えている者だ。貴殿と共に戦える事を嬉しく思う所存だ」


恭しく頭を下げる先輩。流暢な日本語だけど、これは日本語が御上手なのだろうか?


「あー、リアは侍マニアでな……。悪い奴じゃないんだ」


轟木隊長が俺に耳打ちをする。轟木隊長の耳打ちにならない声を聞き、リア先輩は柳眉を吊り上げる。


「あの……」


この二人と登場していたのに、今まで気付かなかった存在に顔を向けると、顔を反らされてしまった。

赤面して俯く少女。150cmぐらいの身長は巨体轟木隊長の隣では、さらに縮こまって見える。どうでも良いが恥じらう姿が可愛らしい。この子が俺よりも先輩だと言うのか。


「裾花さんは少し赤面症でして……、裾花さん、大空君に挨拶してください」


艦長の言葉を聞き、赤顔の中にある黒い潤んだ瞳が俺を見る。


「あ、あの裾花結スソバナ・ユイです。よろしくお願いします」


天使だ。こんなところにこんな素敵なプレゼントがあるとは!これは、こちらも赤面せざるを得ないじゃないか!


「大空です!此方こそ、よろしくお願いします、裾花先輩」

あぁ、こんな先輩が居るなんて、地獄に天使様だ。


「アララ、大空君も結ちゃんに撃墜されちゃたかぁ。悪い事は言わないから私にしておきな~。結ちゃんの本気を見たら、大ショックを受けるよ」


俺と裾花先輩以外から苦笑が漏れる。裾花先輩の本気?CRの操縦技術が凄いということだろうか?目の前で耳まで赤に染まる女性がそこまで凄いのか。いや、CRの操縦技術に見た目は関係ないだろう。


「轟木隊長、自己紹介も済んだところで、大空君に彼の愛機を見せてあげてください」


この艦長の言葉に俺の心は揺れ動く。俺の愛機。四神シリーズ。な訳は無いだろうな。この艦に、現在まだ各型二台ずつしか造られていない最新鋭のCRが配備されるとは思えない。各地に配備されている低コストCR流星ぐらいが妥当だろう。


「しかし、艦長さんよぉ。本当に新米をあれに乗っけるのか?」


あれとは何なんだ。もしかして、新造CRなのか。少し期待が高まる。


「彼は中々の成績で卒業しています。彼ならばきっと乗りこなしてくれますよ」


艦長から囁かれる甘美な言葉。俺ならば乗りこなせる。

俺の愛機。これは期待出来るかもしれないぞ。案外、俺はこの艦に乗って良かった。

次回、幸助の愛機とは……。

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