半額シールの戦士
北海道・札幌。
巨大フード企業によって支配された近未来。
高級食材だけが価値を持ち、A級グルメ以上しか“料理”として認められない時代――。
そんな世界の地下で、人知れず開催されていた。
それが――
D級グルメバトル《ディーグル》。
ルールは単純。
安い。
体に悪そう。
ジャンク。
でも、妙にうまい。
そんな“D級グルメ”を武器に戦う料理バトルだった。
「……また売れ残りか」
スーパー『ビッグギガフーズ琴似店』。
夜九時。
高校二年生・灰崎ポン太は、半額シールの貼られた焼きそばパンを見つめていた。
細身。
目つき悪め。
ジャージ姿。
将来の夢、特になし。
だが唯一、異常な才能があった。
――安いメシの“本当のうまさ”がわかること。
「この時間の焼きそばパンはソースがパンに染みて完成するんだよな……」
そう呟いた瞬間。
バチン!!
突然、店内の照明が落ちた。
「!?」
棚の奥から、黒スーツの男たちが現れる。
「確認した。
対象は“D級適合者”だ」
「連行しろ」
「はぁ!?」
次の瞬間。
ポン太の首元に、熱々のフライドポテトが突きつけられた。
「動くな。揚げたてだ」
「意味わかんねぇよ!!」
気づけば、地下闘技場。
観客席には大量の人間。
誰もがカップ焼きそばや串カツを食いながら叫んでいる。
「今日のメインは誰だ!?」
「新入りのD級か!?」
「胃薬持ってこーい!!」
中央リング。
そこに立つ司会者が叫んだ。
「今夜のバトルはァ!!
《炭水化物デスマッチ》!!」
ドゴォン!!
炎が吹き上がる。
「挑戦者は半額パン使い――灰崎ポン太ァ!!」
「対するはァ!!」
巨大な腹を揺らしながら男が現れる。
モヒカン。
タンクトップ。
両手には大量のマヨネーズ。
「コンビニ唐揚げ界の王!!
“油王”アブラギッシュ滝沢ゥゥゥ!!」
「ウェェェーイ!!」
滝沢が唐揚げにマヨネーズをぶちまけながら叫ぶ。
「ガキぃ!!
D級をナメんなよ!!
本当にうめぇのは身体に悪いモンなんだよォ!!」
「いや知らねぇよ!!」
審判が宣言する。
「ルール説明!!
互いにD級グルメを調理・実食!!
先に“うますぎて限界突破”した方が勝利!!」
「どういうルール!?」
「なお、嘔吐は敗北です」
「最低だ!!」
滝沢が動いた。
「奥義!!
《マヨネーズ二度がけ唐揚げ丼》!!」
ドバァァァ!!!
唐揚げの上にマヨ。
さらに追いマヨ。
仕上げに砕いたポテチ。
観客がざわめく。
「出た……!」
「血管殺し!!」
「三日は胃もたれするやつ!!」
滝沢がニヤつく。
「食ってみろガキ」
ポン太は一口食べた。
――うまい。
悔しいほど。
暴力的に。
「なんだこれ……!」
「油と塩分はなァ!!
人類の本能なんだよォ!!」
だがその瞬間。
ポン太の脳裏に、幼い頃の記憶が蘇る。
金がなかった家。
母親と半分こした、スーパーの見切り弁当。
『安くても、おいしいものは幸せなんだよ』
「……」
ポン太は静かに焼きそばパンを持った。
「俺のターンだ」
会場が静まる。
「まさか……」
「ただの焼きそばパンだぞ?」
ポン太は焼きそばパンを開き――
そこへ。
カップ焼きそばの“追い麺”を挟んだ。
「は?」
さらに紅しょうが。
さらにマヨ。
さらに砕いたベビースター。
「完成――
《炭水化物・極》」
「バカだーーー!!」
一口。
滝沢の目が見開かれる。
「!!!!!」
ソース。
マヨ。
麺。
パン。
すべてが“雑”なのに。
奇跡的にまとまっていた。
「こ、これは……
ジャンクの向こう側……!!」
観客席が揺れる。
「うおおおおお!!」
「炭水化物の暴力!!」
「胃が!!胃が喜んでる!!」
滝沢が膝をつく。
「俺の……負けだ……」
ドサッ。
審判が叫ぶ。
「勝者ァァ!!
灰崎ポン太ァァァ!!!」
観客が熱狂する。
だがその時。
VIP席から一人の女が立ち上がった。
黒スーツ。
銀髪。
片手にはカップ麺。
「面白いわね、あなた」
「誰だよ」
「私は《四天王》の一人――
“カップ麺の魔女”白雪シオ」
ズズッ、と音を立てて麺をすする。
「あなたをD級グルメ地獄へ招待してあげる」
その瞬間。
地下闘技場全体が揺れた。
そしてポン太はまだ知らなかった。
D級グルメ界には――
“最悪の料理”と呼ばれる禁断のメニューが存在することを。




