短編『報告書:異世界現代ナイズド禁止令 前編』
私はこの異世界に暮らす国王である。厳密には異世界ではなく”この世界”である
近年この世界は異世界人による現行文明への過度な浸食《異世界ナイズド》が顕著な問題となっている。
この問題が顕著になったのは聖歴2,000年前後。発端となったのはこの世界へと転生してくる自称”現代人”の転生者であった。
現代人はこの世界を異世界と称しているが、この世界に生きる我々にとってはこの場所こそ世界であり、彼ら現代人のいた元の世界こそ異世界なのだ。
異世界から来た現代人とこの世界に生きる我々人類。ややこしいので以後現代人のことは”転生者”と称し転生者が元々暮らしていた世界のほうを異世界とする。
────この世界において近年問題になっているのが、この世界の異世界化=異世界ナイズドである。
どうやら転生者がもともと暮らしていた異世界の文明はこの世界の文明よりも数段科学力が進歩した世界だったらしい。転生者の科学技術には目を見張るものがある。
転生者がもたらした技術によってこの世界は大いに発展した。
馬車が主だった物流はエンジンと言う魔法の技術で動く鋼鉄の車にとって代わり。町と町を繋ぐ線路の上を電車と言う箱が定刻を刻んで運航している。
食べ物は町のスーパーマーケットへ行けば手に入り、一家には一台冷蔵庫があり食べ物に不自由することは無くなった。
子供たちは外で体を動かして遊ぶことを止め、毎日家で携帯ゲーム機というものを夢中で遊んでいる。
おまけに転生者たちはチートスキルと言う魔法のような力まで持ち合わせている。無論この国に魔法など存在しない。
このようにこの世界は異世界からの転生者がもたらした技術で大いに発展した。
しかしこの世界の異世界ナイズドで多くの物が無くなった。
長閑な農耕を営む田舎は大規模な畜舎が立ち並ぶ広域放牧地帯となり、畑はトラクターやコンバインが収穫を行う大規模圃場となり農家が手作業で作物を育てる農家はいなくなった。
石造りの建物が美しく立ち並ぶ街並みはコンクリートのビルが天を覆い隠すオフィス街となり、人々は時間と労働に追われるようになり自由な生活を忘れつつある。
この世界はかつてのような穏やかな暮らしを忘れ急速な発展を続け、その発展に着いていけず取り残された者たちは町を去っていった。
そして今やこの国に暮らす者の多くが異世界からやって来た転生者たちだ。
さらに来年からは王政による政治決定は共和制の議会方式になり、議員は選挙というもので決められることになった。
こうしてこの世界に元からあった文明は侵略的なまでの異世界ナイズドにより崩壊の危機にあった。
この国最後の国王であるこの私は、この異世界ナイズドに抵抗するため最後の法令として“異世界現代ナイズド禁止令”の発布を決めた。
「ああ神様、お願いします。我らの文明をそっとしておいてください。年間1万人も転生者を送り込まないでください」
文明の発展は素晴らしい恩恵をもたらすがそれは急速にもたらされるべきではない。
────なによりこの世界に魔王など存在しないのだ。




