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#41 長き夜の問いかけ

「じゃあ……そうだね。今日の夕食、美味しかったね」

「……本気かしらね? 今日の給仕は来なかったじゃない」

「プルートさんは、どうやって夕食抜きをやり過ごしたの?」


 何か適当な話題、そう思って聞いたことだった。


「メイドを探そうとしたわ。でもやっぱり見当たらないから今日はもうやり過ごす気でいたわよ」


 夕食は流石に誰にとっても切実な問題みたいだ。


「うん、私たちもお腹が空いちゃったよ」

「……そんな目で見られても、食糧なんかないわよ? この部屋」


 可愛く彩られたプルートの部屋に、そんなものは無かった。


「そういやここ救急箱ないの? お姉さん」

「救急箱ならそこの隅にあるわよ」

「ありがと」


 紗矢ちゃんが部屋の隅から目当ての物を持ってくる。


「ってもうお構いなしに部屋を散策するのね……」

「え? このままじゃみおっちの出血で部屋が汚れるよ?」

「早く手当てしてやりなさい」


 どうやら部屋にこだわりがあるのか、プルートは拒むことなく手当てを薦めた。ところでなんでここ救急箱もあるんだ……? 紗矢ちゃんが紫塔さんの手当てを進めているうちに、私は次の質問をする。


「えっと……この部屋は、プルートさんの趣味?」

「そうよ。……あ、その目……」


 私の目を見るなり、プルートさんは睨んでくる。


「24歳のいい大人が、こんなカワイイ全開の趣味って痛い……そう思ったでしょ?」


 ……申し訳ないけれど、否定は出来なかった。


「ふん、あなたたちには分からないでしょうね。ロリータ趣味っていうの」

「いや……まあ……人それぞれなんじゃないですか?」


 痛い、と思ったことは否定できないけれど、それはそれ。人の趣味はその人の物だ。


「まあいいわ。ねえ……ところで、さ……」


 プルートさんの視線がチラ、と横を見る。その先にはブロンドの幼馴染の姿がある。


「あの子とちょっと話してみていいかしら? どうも気になるのよ」

「人見知りだけど……」

「いいのよ、何か『通じ合う』ものを感じるのよ。私のシックス・センスが」


 どうも上機嫌な口調でプルートが頼んでくるので、一応、シェリーを呼んでみる。彼女はヘレナと何か会話していた。(言葉で通じ合えるのだろうか?)


「え、えっと……」

「はじめまして。私はプルートよ。あなたのことを聞かせてもらってもいいかしら」

「私はシェリーです。……何か用ですか?」

「あらんまぁ~……」


 ん? なんか嫌な予感がする。


「こんなに、お人形さんみたいな子、初めて見たわねぇ~」

「……さっきあなたと戦った時、一緒にいましたよ?」


 一応プルートさんに説明しておく。いたんだよ、この子は!


「さっきは暗くて良く見えなかったの! こんなに可愛らしい子と出会えるなんてねぇ~」


 だけれどシェリーの表情は曇る一方だ。私は理由を知っている。




「……見た目だけ、ですか?」

「え?」

「見た目だけ、っていうのなら、もう私たちのやりとりは終わりです。さようなら」

「え、ちょっと!」




 昔からシェリーは見た目をからかわれてきた。だから、見た目だけ褒める、とかそういうやり方が大嫌いなんだ。


「悪手でしたね。シェリーの地雷を綺麗に踏んだ」

「そ、そんな……」


 これ以上粘ったって、シェリーは首を縦には振らないぞ。


「変な気を起こしたら、私があなたを撃ち抜きます」


 撃ち抜く感覚はどことなくわかる。(てのひら)にエネルギーを溜めて放出。それだけだ。


「……。早く本題に戻りなさい」


 ああ、そうだった。正直世間話とかそういう和気あいあいとした雰囲気はないけれど、この人の素性を探らなくちゃいけない。


「じゃあ、改めて質問します。どうして紫塔さんを狙ったの?」

「簡単よ。オクトパスを出し抜くためよ」


 ……ほう。なんだか興味のある文言。私も思ったし、視界に入った紫塔さんもちょっと興味がありそうだ。


「聞いた話だと、あの魔女、『純血』とやらに拘って、そこの子に接近しているそうじゃない」


 プルートさんは紫塔さんを見て言った。……どこから聞いた話なんだろう? そんなことを言いふらすような奴にあった覚えはない。でも確かにその話は合っている。


「『純血』が私たちのような魔女と何が違うのか……それは、あなたが見た通りの結果かもね」


 プルートさんの目は私を見る。私の右手の指輪、それがその『結果』だろう。まだこの指輪から力の流れを感じる。


「ねえプルートお姉さん、どうしてヴァサ子を出し抜きたいの?」

「ヴァサ子?」

「『ヴァサーゴの悪魔』の血を引いているからヴァサ子」

「……随分なネーミングね」


 一度呆れた後、プルートは、間を置いて答え始めた。


「いけ好かないじゃない、あいつ。私たち『混血』の魔女の事、誰も名前で呼ばないのよ?」


 ああ、と私は頷いた。思えばアイツから、私は一般人だとかしか呼ばれたことがない。レジーナと戦う時も、アイツはレジーナを名前で呼ばなかった気がする。そういえば二葉さんのことも『メイド』としか呼ばない。


「だから、私は爪を研いで研いで、その時に備えて……そしたら、アイツの求めているものが『純血』とやらと分かった。だから、そこの子を捕えてしまおうと思ったのよ」

「……具体的にどうするつもりだったの?」


 紫塔さんを捉えたとして、どうやって戦力にするつもりだったの? 魔女のやり方というのは分からないし、目の前のロリータの魔女の事ならなおの事データがない。


「どうとでも? 人質にするもよし、アイツが血を求めている、というのならきっと取引材料の枠に血液を並べていたわ」


 ……なかなか、非道な手も(いと)わない性格みたいだ。この人と、シェリーを近づけるのはかなり抵抗がある。


「でも……まさか、私が魔女じゃない人間に……いや、今は……あなたは魔女?」

「ん? どういうこと、はるっち?」


 紗矢ちゃんがツッコんでくる。紗矢ちゃんはまだ、私に起きている変化を把握できてなかったみたいだ。

「あら、分からなかった? この子、あの岩みたいな指輪を付けてから、魔力を生み出しているのよ?」


 言葉にされると、ちょっと、ズキンと気持ちに来る。なんだか、人をやめてしまった、……というか、なんか自分が自分じゃなくなったような……。


「へ? はるっち魔女になっちゃったの?」

「……きっとプルートの言う通りよ、紗矢」


 紫塔さんが、難しい顔をして紗矢ちゃんに説く。


「晴香は……魔力を使って、プルートを追い詰めたのよ」

「それって、指輪の魔力じゃなくて?」

「……たぶん、晴香自身の」


 そう言われたとたん、紗矢ちゃんは目を輝かせた。突然肩を叩かれて振り向くと、同じように目をキラキラさせたシェリーもいる。


「あなた、戻れるのかしらね? その指輪、外れる?」


 なにかからかうような言い方だったけれど、私はプルートの言う通りに、指輪に手をかける。


「……。外れない」


 外れなかった。指が思い切り締め付けられているわけでもなく、ただただ、指に据えられたゴツい指輪が動かない。無理して動かそうとすると、外しに行っている左手が悲鳴を上げる。


「……あらあら、こちらの世界へようこそ、と言ったほうがいいのかしらね?」

「バカなことを言わないで!!」


 急に、紫塔さんが声を荒げた。


「紫塔さん、落ち着いて」

「晴香はこっち側に来ちゃいけないのよ。あなたはギリギリで、引き返せる位置にいるべきだわ!」

「みおっち、いったん、ね?」


 表情、息遣い、全てが冷静ではない紫塔さんを、紗矢ちゃんとシェリーがが宥めに行く。


「魔女って、この世界には居場所はないわよ?」


 それでも、プルートはあくまでも続ける。私の心を折る気なのだろうか?


「わかってる」

「解ってないと思うわよ? まあ、今に見てるといいわ」


 そう言って、プルートは一つ、大きなあくびをして、目をつむった。


「もう夜ね。あなたたちは眠くないの?」

「眠くないよ。まだ続ける」


 私はそのつもりだった。そう告げると、プルートはめんどくさそうな流し目を見せた。

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