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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

それが勝負の報酬って勝手すぎだろ

作者: 葵麻智香

お題は「診断メーカー」さんの 「#三題で創作」からいただきました。

https://shindanmaker.com/1208420

「油断した」「途中」「脚」

X(旧Twitter)にも投稿した作品です。

「油断した」


 長距離走であいつに抜かれた。途中まではおれの方が優勢で勝っていたのに。


 いまは高校の体育の時間だ。冬になると行われる長距離走はひたすらに運動上のトラックを走り続けるだけで本当にきついしつまらない。もちろん薄いジャージを着ても凍えるほど寒いし、風も冷たいし、だいたい曇ってる。今日も外はどんよりと曇り、憂鬱な気持ちが増すだけだった。先生たちは忍耐力がどうとか、大人になってから基礎体力がなければなにかをなすことは難しいとかいろいろ言うけど、体力の限界まで走っただけで、なにか未来が変わるとは思えなかった。体育前に教室で体操服に着替えながら文句たらたらだった俺に、あいつはニヤニヤ笑いながら提案したのだ。


「じゃあおれと勝負しようぜ? 負けた方は勝ったやつのいうことをなんでもきく」

「……なんでもってなんだよ?」


 長距離走は得意ではない。でもちょっとでもこの時間がマシになるなら、誘いに載ってもいい。しかし勝負でもし負けたとき、むちゃぶりはされたくなかった。


「なんだよ? 自信ないのか?」

「んなわけあるか! じゃあおれが勝ったら奢れよな!」

「おれが勝ったらこの前の続きな」

「……なんだっけ?」

「お前が忘れたフリしてるやつ」


 そう言ってあいつは先に運動場へ向かった。


 すでに長距離は終盤だ。男子は五キロも走らなきゃならない。なんの拷問だと思う。酸欠で頭は朦朧とするし、空気が冷たくて息をするだけで、乾い痛いし、息も切れていて、苦しい。


(忘れたフリしてるやつってなんだよ)


 あいつの背中を追いかけながら考えても、さっぱり見当がつかない。だが、俺が忘れたフリをしていると告げたあいつは眉を寄せ、とても辛そうにしていた。


「ハァ……ハァ」


 自分の呼吸する音だけが聞こえる。そんな中、朦朧とした頭にふと数日前の会話が蘇った。


 帰り道、あいつと駅まで一緒に歩いた。別れ際に「じゃあまた」のかわりに「好きだ」とあいつに言われた気がした。だが俺は気のせいだと思った。だってさっき勝負の話をしていた時のように、あいつは眉間に皺を寄せていて、とてもとても告白する雰囲気ではなかった。


(アレ、もしかしてマジだったのか? ……告白なら告白らしくしろよ。もっと雰囲気出すとかさぁ……)


 別に、星空を一緒に見上げながら告れとは言わないが。


(アレじゃ本気かどうかわかんねぇよ。……あー勝負に負けたら返事しろって?)


 トラックはあと一周でゴールだ。もう心臓はバクバクだし、自分の呼吸はうるさいぐらいだ。だが、俺は最後に足に力を込めた。

 あんな適当な告白に返事なんてできない。俺が勝って、告白をやり直しさせるのだ。返事はそれから考える。

 長距離は苦手だが、短距離の脚力には自信がある。ラスト一周であいつを抜いて俺が勝つ。あいつの背中を見ながら、俺は地面を蹴った。 


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