【由来と衝撃の事実】
「それじゃ、次は紡だね」
「はいはーい」
主様に指名されて……と言うか、無条院家に養子入りが遅かった順番から、次は紡さんが明るい笑みを浮かべながら手を挙げた。
「僕の名の『紡』はね。まぁ本来の意味合いからすると、綿や繭の繊維を糸にする行為の事で、僕に混じっているのが蜘蛛の妖って事と掛け合わせて『紡』って名前を貰ったんだ。……けど最近は、その名前の意味を自己流に改変しようと思ってるんだよね」
「意味を改変、ですか?」
「そう。『紡』には『言葉や物語を繋ぎ合わせる』という意味合いもあるでしょ? だから僕はここ数年の間に物書きを始めて、皇都で自作小説を出版してるんだよね」
「という事は、作家さんなんですか?」
「そう。こう見えて結構人気なのよさ!」
「えっへん」と胸を張る紡さん。
「凄いですね! 作家って何だか憧れます!」
「本当? 嬉しいなぁ」
「作家名は本名ですか?」
「いいや。流石に偽名を使ってるよ。作家名『犍陀多』―――以後お見知りおきを」
そう名乗りながら、紡さんは懐から小さな紙を私の前に差し出した。
その小さな紙には癖のある字体で『作家・犍陀多』と書かれていた。
「これは…?」
「名刺ってやつだよ。初対面の相手に手短に自分の事を紹介する為に使う物で、最近商人の間で広まってきてるんだよ」
「へぇ。初めて見ました」
「まぁ、因習村みたいだった【白城の里】じゃ、まずお目にはかからないよね」
そう呆れたように笑う紡さんに対して、空かさず棗さんが「こら、紡」と注意した。
注意を受けた紡さんも「あっ」と小さく声を漏らして、失言したとばかりに口を掌で覆った。
「ご、ごめんよ? 故郷の事悪く言うつもりじゃなかったんだよ…」
「えっ! 全然気にしてませんよ! 寧ろその通りだと思います」
因習村……なるほど、言い得て妙というか……。
「それよりも、紡さんの書かれる物語の方が気になります。どのようなお話を書かれるのですか?」
私は気まずくなった空気を換えようと、紡さんの執筆する小説について話を戻した。
そんな私の問いに、紡さんは中性的な美しさの顔をニコッと笑顔に変えて―――
「官能小説」
「かん…」
「うん。すっごいやつ」
放心する私に、紡さんは「読む?」と問いながら懐から一冊の本を取り出した。
それを平然と私の前に差し出してくる彼女の手を、左右に座っていた勇さんと昴さんが抑え込み、棗さんが手刀を脳天に叩き付けた。
「あだっ」と声を上げて頭を押さえる紡さん。
棗さんはただでさえ力が強いようなので、大分力を抑えたようだけど……。
(…………人の頭って、あんな音出せるんだ…?)
自分でも素っ頓狂な疑問が脳裏を過ったと思った。
気を取り直し、次は一際目を引く黒い大きな翼を背中から生やした昴さん。
だけど、昴さんは元々寡黙な性格なのか、物凄く簡単に―――
「主に拾われた日。夜空に『昴』が浮かんでいたからだ」
「………そ、そうなん、ですね?」
「そう」
「いや、短い短い」
説明が終わりそうになった所で、またも棗さんが仲介に入る。
「えっと…昴の説明に間違いは無いんだけど、『昴』って名前には他にも『統べる』が転じた言葉でもあって、星が一つにまとまって見える様子を表す文字でもあるんだけど、それが昴の能力によく似てるんだよ」
「能力?」
私がその意味を問う前に、棗さんが昴さんに何やら目配せをした。
言葉が無くとも意図が伝わったようで、昴さんが折り畳んでいた羽根を軽く広げた。
広げられた翼から数枚の黒い羽根が畳の上に舞い落ちる。
すると―――黒い一枚の羽根が一羽の烏に変身した。
「こ、これって…!」
「皇都に古くから伝わる妖の一体―――”烏天狗”の能力だよ」
「俺は、自分の羽を烏に変化させて、情報収集や緊急時の伝達に使っている」
「伝達……まるで伝書鳩の様ですね?」
「あ、それ駄目―――」
ずっと表情が硬かった昴さんが、初めて焦った表情を見せた。
その理由はすぐに分かった。
この時の、私が烏さんを「鳩」に例えた事がお気に召さなかったらしく、昴さんの腕に止まっていた一羽が「カァッ」と大きく鳴いた。
翼をバサバサと動かして、まるで怒りを全身で表しているようだった。
「ごめん。こいつ等、烏としての誇りがあるから…」
「い、以後気を付けます…!」
私は慌てて、すぐに頭を下げて謝罪した。
烏さんは、今度は短く「カァ」と鳴いて、次の瞬間元の一枚の羽根に戻った。
「え、えっと…?」
「小太郎が『次はないぞ』……だって」
「は、はぁ…」
(今の子、『小太郎』って名前なのか……と言うか、昴さんは烏さん達とお話出来るんだ…?)
今度、他の子達にも会わせてもらえるかお願いしてみよう。
「ささ。順番で言うと、次は勇なんだけど、さっき紹介したから飛ばすね。じゃあ、次は綺だね」
「猫!」
「なんか俺の扱い雑じゃね?」
「まぁまぁ、打たれ強いのもキミの長所って事でね?」
「いや意味違ぇだろ」
文句を言う勇さんだったが、主様が飄々とした態度で全て受け流してしまった。
そして順番が回ってきた綺さんは、自前の猫耳をぴこぴこと動かして説明を始めた。
「さっきも言ったけど、アヤはみんなと違って純粋な妖だニャ」
改めて、綺さんは自身が純粋な妖である事を伝え、徐に立ち上がったかと思えば、身軽な動きで体を一回転させた。
瞬間、まるで虹の様な鮮やかな輝きを放つ霊力がその身を包み込み、驚いている間に綺さんの体が一匹の猫の姿に変わった。
その猫は二本の尾を生やしており、噂に聞く猫又の姿そのものになった。
「わぁ!」
「ふっふっふー。凄いでしょ?」
「はい! これが、動物系妖が得意とする妖術“変化”なのですね?」
「猫! その通りだニャ~」
猫の姿のまま、器用に人語を話す猫の姿の綺さんは、またも身軽に一回転して、再び人型へ変化した。
「猫。アヤの『綺』って名前には『華やかで美しい』って意味が込められてるニャ。今みたいにアヤが変化する時には虹色の霊力が溢れ出るから、主様がその名前を付けてくれたんだニャ~」
「華やかで美しい……確かにそうですね」
それにしても、今の変化の際に感じたのは紛れもない霊気だ。
妖である綺さんから発せられるなら、妖気のはずなのに…?
「妖でも、霊気を有する事が出来るんですか?」
「妖の種類によるねぇ。綺みたいに、ただの猫が長い年月生き続けた結果、妖に転じてしまう場合は霊力を同時に有する事が多いよ」
「そうなんですか? ちなみに綺さんは何歳なんでしょうか?」
「アヤ? えーっとねぇ、二百歳超えた辺りから数えるの止めちゃったからニャ~。でも主様と出会ってからは三十年くらいかニャ」
「に、二百……凄い長生き」
百年生きられるだけでも稀なのに、その倍も生きられているなんて……やっぱり妖は長生きなんだ。
「でしたら、”妖まじり”も純粋な人間だった頃より長生きするのでしょうか?」
「うーん、どれほど長生き出来るかは分からないけど、見た目の成長速度は物凄く遅くなるよ。棗君なんか、この見た目で四十を超えてるからねぇ?」
「へぇ……―――」
―――え?
一瞬、主様がサラッと口にした衝撃の事実を理解出来なかった。
私は理解が追い付かない頭のまま、棗さんの方へ視線を向けた。
「…………まぁ、妖って長生きだからね?」
棗さんは明後日の方を向いて、物凄く小さな声で答えた。




