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【幸せは衣食住から始まって】


 アオイと一緒に薬湯のお風呂に入らせてもらって、すっかり体が温まった上に、細かい傷も癒された。

 湯船から上がって脱衣所に戻ると、いつの間にかボロボロだった白装束が無くなり、代わりに色鮮やかな女袴が置いてあった。

 皇都では『どれす』の次に女性に大人気だという海老茶袴えびちゃばかま


「こ…これは…!」


 これは所謂―――『海老茶式部』と呼ばれるやつでは…!

 私は初めて目にする()()()()な衣服を前に、鼓動が高鳴り、頬が潮紅したのが分かった。


「むむ。これが置いてあるって事は、用意したのはツムギだね。アヤは東洋の『ぶらうす』と『すかーと』を選ぶはず」

「つむぎ? あや?」

「ここの同居人。家族・・の内の二人」

「同居人さん?」

「そう。この後、広間で朝食だから、その時皆を紹介する」

「ほ、他にもいらっしゃるんですか?」

「うん。二人を除けばあと四人くらい」

「あと四人も!?」

「お屋敷の外にも”あやかしまじり”は居るけど、主の養子になった後継者候補は、うちらも合わせて八人。他はウデさんと、アカツキ、【憂楽街ゆうらくがい】の外での移動を手伝ってくれる朧車のトドロキ

「ッ……あ、妖も普通に同居してるんですか?」

「うん。轟はお喋り出来ないけど、愛嬌があって可愛いの。きっと好きになるよ」

「そう…ですか?」


 朧車に愛嬌? 全く想像が出来ませんが…。


「それより、早く着替えよ。手伝う」

「あ、ありがとうございます」


 初めて目にする海老茶袴に四苦八苦しながらも、葵の手を借りて何とか着付けが完了した。


「素敵…」

「良く似合ってる」

「そう、ですか?」


 葵からの誉め言葉が素直に嬉しかった。

 葵は入浴前まで着ていた巫女装束ではなく、白を基調とした、青い紫陽花の絵柄が入った、お淑やかな雰囲気の着物姿になっていた。


「葵も綺麗ですね」

「ありがと。これも皇都で主が買ってくれたの。お気に入り」

「あの巫女装束は?」

「あれは……此処に来る前まで居た場所で、着てた服。うちの勝負服」

「葵が此処に来る前に居た場所って…」

「皇都よりずっと南の方。ずっと熱い地域だった」

「そうなんだ」

「うん。”赤又アカマタ”の所為で混じり者にされた後、主に見つけてもらって、此処に来られた。だらしない主だけど、うちはあの日からずっと感謝してる」

「そう、なんだ…」


 そう語る葵は、“妖まじり”にされた悲しみと、主様に出会えた喜びが入り混じった表情だった。

 ナツメさんも言ってた……冷遇されるはずの”妖まじり”になったのに、今は幸せだって。


「さっ、朝ご飯食べに行こう。もう皆集まってると思う」

「あ、はいっ」

「今日のご飯は何かな~」


 葵が私の手を引いて、広間まで駆け足気味で連れて行ってくれた。

 お腹が空いていたのだろうか、葵は楽しそうにしている。

 脱衣所から一番離れた場所にある、大きな襖の部屋―――その先から、焼き魚の香ばしい匂いが漏れ出ていた。

 葵が襖に手をかけて横へ引くと、その先には二十畳ほどの広さの部屋があり、配膳が終わった朝食が左右均等に置かれ、上座には笑顔の主様が座られていた。

 そして主様のすぐ傍には、西方衣装から着流し姿に変わった棗さんの姿があった。

 西方衣装の時は凛々しく美しい印象だったが、着流し姿は気取らない爽やかな印象になって、これはこれで目を引いてしまう。


 ―――と、棗さんに気を取られ過ぎて、周りに居た人達の存在に少し遅れて気が付いた。


 そこには、私や棗さんや葵と同じ、人の姿でありながら、人ならざる部分が備わった者達が座っていた。

 端正な顔立ちをした短い黒髪の青年には、漆黒の羽が―――

 橙色の癖が強い髪をした華奢な女性には、大きな猫耳が―――

 美しい顔を更に化粧で飾る高身長の…男性(?)には、背中から四本の蜘蛛の足が―――

 ”妖まじり”にしては体格が良く、男性の風格が残った大男には、岩の様は肌が―――

 そして、自分の席から立ち上がり、此方に駆け寄ってくる人物が一人。

 向日葵色の髪に、赤い隈取をした少年の姿をしたその人物は、その髪色に負けない程に明るい笑顔を私に向けて放った。


「やぁっ! お前が新入りだな? 俺はテン。今日から葵と一緒にお前の世話と護衛を任された。よろしくな!」

「は、はじめまして、天さん! 此方こそ、よろしくお願い致します!」

「堅苦しいのは無しで良いぜ? 俺の事も呼び捨てで良いし、敬語もいらねぇよ」


 天さんは、中性的な顔立ちだが言動は豪快な男性らしさがあり、何処か不思議な雰囲気を醸し出していた。

 それは”妖まじり”特有の妖気ではなく、寧ろもっと神聖・・な……。


「三人とも。先に食事にしよう。冷めてしまってはもったいないよ?」

「あぁ! 悪い、じっちゃん! ほら、席は俺と葵の隣で食いな?」

「は、はい。失礼します」

「けーいーごー」

「あ……う、うん」


 つい癖で敬語で返すと、天さ……天はむすっとした顔で指摘した。

 その様子を見ていた主様や棗さん、そして他の方達も肩を震わせて笑っている。

 ちょっと、恥ずかしい…。


「主、お待たせ」

「うんうん。どうだった? うち自慢の温泉は?」

「とても気持ち良かったです。傷も癒えて、妖力も安定したように思います」

「ふむ……確かに妖力が大分安定したね。寒くはないかい?」

「は、はい! 寧ろポカポカしてて、お腹も―――」


 「空いてきました」と言おうとした言葉を、盛大な腹の虫が搔き消した。

 他でもない……私のお腹から聞こえた音で……。


「~~~っぷ!」


 居た堪れない沈黙の後、耐えかねて噴き出したのは、岩肌の大男さんだった。

 その横に座る蜘蛛の足を生やした男性(?)は、袖で顔を完全に隠しているが、全身が震えるほど笑いを堪えているのが分かったし、猫耳の人は命一杯天井を見上げて何かに耐えようといる。


「ッ~~~~」


 恥ずかしすぎて、この場から逃げ出したい…!

 顔を両手で覆う私の頭を、源が「おーおー腹の虫も元気になったな!」と嬉しそうに笑いながら撫でる。

 それが更に居た堪れなさを増す要因となっている。

 困っている私を見兼ねてか、棗さんがわざとらしい咳払いをすると、蜘蛛の足の方と、猫耳の方はすぐさま姿勢を正した。

 岩肌の男性は隣に座る黒い羽根の青年に脇腹を小突かれて、ようやく笑いを止めた。


「さぁさぁ! お嬢さんも空腹な様だし、先ずは美味しい食事を頂こうじゃないか!」

「しゅ……しゅみましぇん……ッ」

「良いからお座りよ」


 苦笑する棗さんに促されて、私は葵と天の間の席に座った。

 全員が着席すると、主様がパンッと手の平を打ち合わせて、一言。


「では、いただきます!」

「「「いただきます!」」」


 まるで本当に家族の食事時のような言葉を交わし、一斉に目の前の食事に箸を伸ばした。

 皆さんの食事は、焼き鮭や出汁巻き卵、味噌汁といった定番の食事だが、私の前に置かれた食事は一人用の土鍋で、そこからは柚子の良い香りが漂っていた。


「三年間も質素な食事しか摂ってなかったみたいだからね。胃腸が弱ってるかもしれないから、食べやすいお粥にしてみた。食べれるだけ食べな? 残しても構わないから」

「は、はい! いただきます」


 どうやら棗さんが気を使ってくれた様だ。

 確かにがっつり味の濃い物は、今の私の内臓が受け付けそうになかったけど、この香りを嗅いでしまったら、我慢なんて出来ない…!

 立ち込める湯気が頬に触れて温かく、真っ白なお米に柚子の黄色と焼けた鶏肉の茶色と刻み葱の緑色が映えて、視覚にも美味しいと分からせられる。

 意図せず口内に唾液が溜まっていく。

 ゴクッとその唾を飲み込み、私は手を合わせて、心から歓喜の「いただきます」を口にした。


「うちがよそってあげる」

「あ、ありがとうございます」

「俺の卵焼きも一個やる。いっぱい食えよ!」

「うん。ありがとう」


 葵がお椀によそってくれたお粥を散蓮華で掬い取り、粗熱をふーふーと吹き消して、まだ熱のあるお粥を口に含む。

 とろとろなお米と柔らかい鶏肉を、出汁と柚子の柑橘系の香りが包み込んで、口の中で甘美な味わいになって、飲み込めば温かいまま胃の腑に落ちる。


「お……おいしい…ッ」

「お粗末様」


 あまりの美味しさに涙腺が緩んだ。

 素直に出た感想を受けて、棗さんが嬉しそうに微笑んだ。


 この美味しい食事だけでも、既に私の幸せ度数が天元突破しそうです…!




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