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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

救済

「では…」

僕は片手を頭に当てて頭痛に耐えながら、医師に視線を向けた

「治す手立ては無い、という事ですか」


医師は「そうではないですが」と前置きした上で、「まずは痛み止めを飲みながら、経過を報告して下さい」「いずれ、医学が発展すれば…」と言葉を続けた

これで何件目か解らない、話の途中だが僕は席を立った


もう、うんざりしていた


医者にも相談ダイヤルにも行政にも相談したが、解決策は存在しなかった

普通の子供なら両親に話すのかも知れないが、僕の両親は昨年二人とも死んでいた

後に残ったのは、学校にも行かず何もしていない僕だけだ


僕は自分が狂気になっていくのをはっきりと自覚していたが、解決策を有識者に聞けば聞くほど、「解決する手段が一つも存在しない」という事実が明らかになっていくばかりだった


最初はうっすらだった声も、今でははっきりと聞こえる

頭の中で声が、絶えず「人間を殺せ」と僕に強要していた


病院を後にすると、僕は交番へ向かった

「お支払いが済んでいません」と追い掛けて来る看護師が居たが、構わなかった

暫くすると看護師は追い掛ける事を諦め、そして僕は交番に到着した


「僕を逮捕して下さい」

到着するなり僕は警官にそう言った

しかし手を尽くして説明しても、僕が危険である事は警官には伝わらなかった

「いまこの場で刃物を出せば」とも思ったが、そんな物は持っていなかったし、そもそも人に暴力を振るうなんて事が、僕には恐ろしくて出来なかった



そして僕は、気が付けば近所の教会に居た

教会の長椅子に座り、両手で顔を覆いながら涙を流していた


綺麗でない路地をかなり歩いた先にある、よく行く教会だ

幼い頃から、両親に連れられて僕は毎週ここに足を運んでいた


「どうしたんですか?」


声を掛ける者がいる、この教会の神父さまだ

それまで僕は自分の境遇を話した事は無かったが、いまは藁にもすがる気持ちだった


「頭の中で、『人を殺せ』と言い続ける者が居るんです」


神父さまの顔色が変わる


実際には神父さまは笑顔のままだ

だが彼の心の中で何かの波が冷たく引いていくのが、僕にははっきりと解っていた


「そうか…」


「大変だったね」


やっとの事で神父さまは言葉を絞り出すと、僕に小さなカードを渡した

そこには「いのちの相談窓口」という文言と共に、電話番号が記載されていた


「ここに相談を…」

神父さまが何かを言い終える前に、その声が歪み始めた


歪み始めているのは音だけでは無かった

僕の眼の前の景色総てが、渦を巻くように溶けながら回り始めていた



自分が椅子から立ち上がるのが解る

こんなに前後不覚になっているのに、僕は、はっきりと立ち上がっていた


映画を観ている様だ

現実感が無い、というか…自分自身がまるで他人の事の様に感じられた


そのまま僕は神父さまの首を右手で掴むと、花でも手折る様に捩じ切った

首の無い神父さまの躰から、どくどくと赤黒い血が溢れ出る


躰を逆さまに持ち上げると、僕は口を開けた

熱い血が口内に滴り落ちる


「こんな事しちゃ駄目なのに…」


手の甲で血を拭いながら僕が言った

本心からの言葉だったが、にも関わらず僕は嗤っていた



気が付けば、頭痛も声も無くなっていた

意識がクリアーになり、いま自分がしている事の合理的理由も解った


人間は僕の生死に無関心だった

僕も人間の生命に無関心で良いんだ


言ってみれば、他人は虫の様なものなんだ

殺しても良いし、殺さなくても良い



「楽しく生きなきゃね!」


僕は今まで、どうして悩んでいたんだろう

頭の中でまた声が聞こえた


声は、「おめでとう」と言っていた

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