第二部 サキュバスになった私の幸せ プロローグ カイルに甘やかされて
※におわせる程度に性描写あります。ご注意ください。
カイルさんと一緒に暮らすようになってから、私は家の中でやることが増えた。仕事は相変わらず簡単な入力作業で在宅ワークだけど…
「今日はこれでいいかな?」
私は姿見に全身を映して確かめる。お気に入りの紫色のフレアワンピースに白いレースのカーディガンを羽織って… カイルさんは淡い色のコーディネートが多いから、それに合わせて濃い色の服を着ることが増えた。
やることって言うのはこれ。カイルさんは仕事のちょっとの時間さえ私のために使おうとするから、彼に合わせたオシャレをして待っているようになった。
『詩織、今下にいるんだけど、出られるかな?』
スマホのオープンスピーカーがそんなことを言うから、急いで鍵を閉めて外へ出る。マンションのロビーで今朝お見送りした時と同じ格好のカイルさんが立っていた。
「やあ、ただいま」
誰が通るか分からないのに、当たり前の顔でハグして顔中にキスを落とす。爆発的に売れ出したから、誰かに見られるって怖くならないのかな? なにかに怯えるカイルさんなんて想像もつかないけれど。
「おかえりなさい。車で待っていてくれてもよかったのに…」
「そんなことはしないよ。俺の仕事も幸いなことに忙しくなってきたからね。その分、君との時間を大事にしたいんだ」
幾度か唇を重ねるだけのキスを交わしながら言ってくれるから、幸せってこういうことなんだって噛み締めちゃう。…何にも怯えなくていいし、何かに縛られることもない生活ってこんな風なんだね。
「さあ、仕事の合間にお気に入りのホテルを予約したんだ。明日は休日だし、今夜はのんびりしようか」
「うん! カイルさんのお気に入りってどんなの?」
そんなことを話す私の額にもう一度だけキスを落として。カイルさんは当たり前の顔で私をエスコートしてくれた。今日は薄く化粧をしているままだけど、大体はメイクを完全に落としてくる。
本当は素顔が一番好きで、家でのんびりしているのが一番落ち着くんだけど、カイルさん曰く、私はもっと外の世界を知った方がいいということなので言わないでいる。
「本当は在宅ワークもどうかと思う所ではあるんだけどね。家に閉じこもっててばかりも良くないから」
「そうだったの? 私は今の仕事も嫌いじゃないけれど…」
「俺の古い知り合いで上手くやっている男がいるんだよ。恋人ができる女性だからって自分のマネージャーにしてしまってね。いずれ紹介するよ」
運転席に座って、ホテルへ向かいながら言うカイルさんは少し羨ましそうに笑っている。どんな人だろう? カイルさんの友達って… きっとカッコいいんだよね。
昴流和希さんもすごいタイプが違うけど、空気までキラキラ輝いて見えるようなイケメンだったもの。背丈はカイルさんの方が高かったけど。
「カイルさんの友達… 私みたいに学生時代からの付き合いとか?」
「簡単に説明すると、あっちの下積み時代に同居していたことがあるんだ。俺は祖父の遺産を継いだばかりで、モデルとしての収入なんてなくても生きていけたからね。それを頼ってきたんだよ。だから、今でも多少の無理は聞いてくれる」
「そうなんだ。義理堅い人なのね。昔の恩義を今でも大事にしているなんて。なにをどれだけ世話したのか分からないけれど」
うっかり言うと、カイルさんは目を丸くした後で、
「あははっ! それはそうだ。至れり尽くせりでお世話したからね。あまりに甘えっぱなしなんで、家政婦代を要求したこともあるくらいだったんだよ。無料でどこまでも世話したいと思ったのは詩織だけかな」
どんな生活だったんだろう。懐かしそうに笑みを浮かべて続けて語る。カイルさんが忙しくアルバイトを掛け持ちしたりなんて、想像つかないけれど… でも、モデルだけじゃ売れなかったこともあるのかな?
もしも、その頃に出会っていたら何か違ったのかな? 想像もできないけど。
「さぁ、着いたよ。ここのスィートを予約したからのんびりしよう」
いつの間に用意していたんだろう。小さな旅行鞄を片手に私をエスコートしてくれる。その様は何度見ても素敵で完璧だ。仕事で疲れたとか思わないのかな? それとも、これからずっと一緒にいればそういう所も見ることになる?
チラリとそんなことを思ったけれど… 今はこの空気を大事にしたいから。
「スィートって… すごいのね。泊まったことない!」
「それはよかった。グレードをどこまで上げるか悩んだけれど、スィートにして正解だったかな」
エスコートされるままホテルへ入っていきながら素直にカイルさんに甘える。
夢魔族の一人になった私だけれど、急に体がカイルさんみたいになるわけじゃないらしい。ご飯は一人分を食べないといけないし、色々な感覚が鋭くなって疲れやすくもなった。
その分、カイルさんの飢餓が劇的に満たされて、その一点だけは嬉しくあるけれど。そして、同族になったからなのか。カイルさんとのエッチなあれこれも遠慮がなくなった気がする。
「なんか… もっと対等になれるんだと思ってた」
シャンパンで乾杯した後、ふと本音を漏らすと、テーブルに並ぶオードブルを少しずつ食べていたカイルさんが笑みを漏らしてシャンパンを呷り、
「詩織はまだまだ変化に適応し切れていないからね。ゆっくり順応していけばいいんだよ」
私の大好きな優しい笑みを浮かべて言ってくれた。急にカイルさんみたいな小食になるわけでもないし、パワフルに動けるようにもならない。いつまでもお姫様扱いのままでいていいわけもないと思うんだけれど…
「俺の為に、もうすこしだけお姫様でいてほしいな」
なんてことを言うから、おなかの中に貯まっていたちょっぴりの不安が消え失せる。カイルさんの笑みは不思議。いつも私に安心をくれる。
「それにさ。俺は俺なりに対等に扱っているつもりだよ。特に君を愛するときはね」
悪戯っぽく笑って言われると何も返せなくなる。その通りだと納得しちゃうから。…いつも私の体全部を愛してくれる。言葉と行動で私への愛情を示してくれる。
「カイルさんって、時々ずるいかも」
「色々と経験しているから、その違いだよ」
そう言いながら席を立ちあがって両手を広げてくれる。カイルさんがなにを思って仕事をしているのか? 今はまだ考えもつかない。けれど、その忙しい時間の中にちょっとでも私が入りこめていたらいいなあと思う。
そんなことを思いながら私はカイルさんの胸に飛び込む。カイルさんは笑みを浮かべたままで私を軽々とお姫様抱っこしてしまう。
「オプションでフラワーバスを注文したんだ。入ってみようか」
「お花が可愛そうかもだけど… 入ってみたい」
「今はそれでいいよ。詩織なら素晴らしいレディになれるから」
頷いてカイルさんの首に両腕を絡めて甘えた。なんだか甘やかされすぎて不安になることもあるけれど、カイルさんがいいって言うんだからいいんだよね。
胸の奥底でそう言い聞かせて、私はカイルさんの腕に身を任せた。ちょっとセクシーな仕草で唇が触れてきたら、あとはもう止まらない快楽に溺れてしまうばかり……
お待たせしました( ^^) _旦~~ カイルくんと詩織ちゃんの第二部です。これにはまたもファンタジー色が濃いめになるのかな? まあ、そんな感じで緩く参ります。
あんまり緩くならない所もあるかもしれませんが、楽しんでくだされば幸いです。感想くださればもっと幸いです。