四話 蜜月の朝に思うこと
翌朝になって目を覚ますと、隣にすさまじい美形の人が眠ってて驚いちゃう。これが日常になったらいいなあと思いながらそっとすり寄る。重なり合ってる素肌が気持ちいい。
もう一回寝てもいいかもと思うけれど、そうはいかないよね。きっとカイルさんも仕事とかあるだろうし。起こした方が良いのかな。…そもそも今何時だろう。
そんなことを思いながらベッドから抜け出そうと身動きすると、ぐっと抱き寄せられる。
「もう少し時間あるから…」
少しかすれた声で呟きながら胸に私を抱き寄せると、もう一度眠ってしまう。私もまさかの行動にびっくりしてドキドキしたけれど、カイルさんの少し低めの体温が心地よくて眠ってしまった。
考えなきゃいけないことが沢山あって、電源切ったままのスマホとか色々ときになったけれど……
「詩織、そろそろ起きて。朝ごはんができたよ」
そっと囁く声で目を覚ますと、そこにはしっかり着替えてエプロンを着たカイルさんがベッドに座っていて。まだ寝乱れたままの私が恥ずかしくなるくらい眩しい。
「もっと早く起こしてくれてよかったのに…」
そっと身を起こしながら言うと、全裸にカイルさんの差し出したシャツを着る。そういえば雑に選んだ服の中に寝間着はなかったような…
「昨夜、無理をさせてしまったかと思ってね。のんびりしてほしかったんだ」
そう言いながら腕を伸ばして優しく抱き上げてしまう。こういうの好きなのかな。細く見えるのに意外とがっしりしててたくましいんだなあ。
まだ半分寝ている頭で素直に甘えながら首に腕を絡めた。重くないと良いなあ。そんなことを考えたけれど。
「体は痛くないかい?」
「大丈夫。どこも痛くないよ」
ダイニングまで連れていかれながら、私はまるっきりお姫様になった気分で甘えていた。こんなのが日常になったらいいなんて思いながら… だけど、どこまでも甘えっぱなしでいたくないなあなんて考えてもいて。
ダイニングテーブルに並んでいたのはオムレツとサラダにかぼちゃのポタージュスープ、トースト。二人分でなく一人分で、自分の分は薄切りのチーズトーストにサラダと紅茶だけ。ものすごい違いだ。
「ポタージュスープだけは作り置きで申し訳ないけど、どうぞ召し上がれ」
「私が大食みたい! これじゃ…!」
「あははっ! まあ、気にしないで。そのうち慣れるから」
そう言いながらそっと椅子に下ろしてくれる。頬にキスするおまけつきだ。どこまでも完璧な人だなあ。おヒゲが全く当たらないんだもの。きっと私よりずっと早く起きて支度したんだよね。
花嫁修業がんばったのになあ。ちっとも覚えられなかったけれど… でも、もう一回がんばってみようかな。
そんなことを考えたけれど、おなかが空いてたのでかぼちゃのポタージュスープから食べてみる。
「わ、美味しい…!」
「かぼちゃは厳選して、栗かぼちゃを使ったよ。気に入ってくれたのならおかわりもあるから」
自分はのんびり紅茶を啜った後で嫣然と微笑みながら言う。こんな完璧な人の傍にいたら、気を抜くとダメ人間になっちゃいそう。でも、私は長く気を抜けない生活してたんだよね。
ちょっとくらいなら甘えてもいいのかな。カイルさんは優しいから… だけど、カイルさんは誰に労わってもらうの? 他の誰かじゃなくて、労わる役目は私がいい…! それなら、私は…
「私も料理くらい覚えたい!」
「どうして?」
「だって、カイルさんが疲れた時に作ってあげたいから」
どれだけ意外だったんだろう。カイルさんは目を丸くして驚いたかと思うと、笑みを深めて、
「それなら俺が教えるよ。あんまり教えるのは得意な方じゃないけれど」
と本末転倒なことを言った。それじゃカイルさんの仕事が増えるだけだと思うのにな。でも、こういうのを独占欲って言うんだよね。私のことを独り占めしたいって思ってくれてるんだ。私にだってそれくらい分かるよ。
「まずは紅茶の美味しい淹れ方から覚えたい。私、茶道しか習わなかったから。お料理もこんなきれいな洋食じゃなく和食ばかりだったの」
「そうだったんだね。それは嬉しいな。今まで俺の為になにかしようなんて思うレディはいなかったからね」
ちらっと美鈴のことが浮かんだけれど、意識して考えないようにした。美鈴は妹みたいだったんだよね。だって、カイル兄さんって呼んでたし。
いつか話してくれるまで待ってみよう。どうして美鈴からカイル兄さんなんて呼ばれているんだろうとか。お芝居に招待しているのはなんでだろうとか。気になってるけど、簡単に聞いたらいけない気がするから。
そう考えて、私は食事に集中することにした。
お待たせしました( ^^) _旦~~ 甘すぎる四話です。
カイルくんは紳士だなあと思うけど、尽くしすぎか?とも思います。今後もお付き合いくだされば幸いです。感想くださればもっと幸いです。