三話 雷撃の恋とカイルの素性
※大人のキスくらいの性描写あります。
ご注意ください。
目が覚めたら見慣れた私の部屋で、時間は夕方ごろだろうか。ものすごくがっかりしてしまう。それに自然と涙が溢れた。鏡の魔法はもうなくなったんだと分かるから。もう二度と会えないかもしれない。
「カイルさん…!」
一生に一度の思い出にできると思ったけれど、思い出になんかしたくない。もっと一緒にいたい。恋しい…! だけど、どうしたらいいの?
そう思った時、片手にきつく握りしめている物があることに気づく。そっと開くと、中は紙切れと小さなカギで。見慣れない住所だけれど、間違いない。カイルさんの家の住所だ。
『いつ来てもいいから。何かあった時は逃げておいで…』
あの言葉が本気かウソかなんてわからないけど、でも、カギをくれるくらいなんだから嘘ではないよね。それなら、それなら…!
私は旅行カバンを取り出して最低限の下着と服を詰め込んだ。今、この判断が正しいのかどうかなんてわからない。きっと後悔するかもしれない。でも、それでも、今の私にできることなんてこれしかないから。
カイルさんの迷惑になるかもしれないことだけが気がかりだったけれど…
でも、あの時間を思い出になんかしたくない。どうしても忘れたくない。好きってこんなに力をくれるんだね。恋しいって、こんな気持ちだったんだ。
私はありったけのお金とスマホを持って家を飛び出した。正直、どこまでたどり着けるか不安だったし、一人で外出なんてしたことないから怖くてたまらなかったけれど。
こんな時の為にもっとスマホを使いこなしておけばよかったとか、色々と考えながらも地図アプリを使って行くと、そこは高級住宅街の一角にある立派なマンションの最上階だった。
「すごい…! あの時は知らなかったけど、こんな所に住んでたんだね」
思わず呆気にとられながら見上げてしまう。
「詩織さん!!」
聞き慣れたばかりの声にほとんど条件反射で振り返ると、さっきまで一緒だった時とそっくり同じ格好をしたカイルさんが立っていた。私は思わず駆け寄って、力いっぱい抱きつく。
「よかった… もしかしたらと思ったんだ。美鈴が君の行動力ならありうるって言っていたからね」
「なにかあってからじゃ遅いと思ったの。ごめんなさい…! こんなの、迷惑かもしれないのに」
「いいや、大丈夫だよ。何も心配しなくていいから」
泣きだす私の顔じゅうにキスを落としながら言うと、私をお姫様抱っこしてしまう。
「あ…! あの…」
「俺の家に帰ろう。君が受けていたのは洗脳と虐待だったんだよ」
どうしたらいいのか分からなくて、小さな旅行カバンを持ったままでおとなしくしているしかない。
「来ても来なくても、俺は待っているつもりだったんだ」
優しく微笑みながらこめかみに唇を寄せて言うと、そのままエレベーターへ乗りこむ。なぜか美鈴と昴流さんが待っていてくれて、なにかあったのか訊きたかったけれど、二人は安心した顔でいてくれたから、何も聞けなかった。
「意外と力強いんだね。日向さんってさ」
「そうかも。和希さんもできる? あんな風にお姫様抱っこして連れて帰るって」
「できるけど似合わないからさ。どうしてもっていうなら二人きりの時にやってあげるよ」
二人ともそんなことを話しながら去っていくのが、閉じていくエレベーターのドアから見えた。
「俺は言ってないことがあってね。まず人じゃないんだ。いろんな魔族の血が混じっているけれど、正式には夢魔族の純血種ということになる」
その言葉で私はすんなりと納得してしまう。だって、ただ唇が重なるだけであんなに気持ちよくなるなんてありえないもの。それに、善良なる魔女を下等だなんだって言ってたし…
「そう、なんだ… 別に驚かないかな。だって、最初からおかしかったもの」
「あははっ! そんな風に見えた? 外では取り繕ってるつもりだったのに」
「いつもあんな風じゃ、ちょっと心配かも。だって、善良なる魔女のことを疑わない方がおかしいって」
そう言う私をそっと床に下ろすと、改めて抱き締めてくれる。私が小柄なのもあるんだけれど、それにしたって背が高い。180センチ以上あるのかも。今までそう感じなかったのは気づかってくれてたからなんだね。
「君を愛しているよ。一目惚れだったんだ」
エレベーターからカイルさんの部屋しかない最上階へ着いて、ようやく中へ入ると安堵したように抱き締めて言った。これでもう息苦しい日常から解放されたんだと思うと、改めて涙が滲む。
「私も恋しいと思ったよ。カイルさん… ほかの誰かなんていや! 絶対にいやだ、カイルさんだけがいい…!!」
広い背に腕を回して言う声は涙交じりでみっともない。でも、もう気にしてられない。大好きって、こんなにみっともない所を晒しちゃうものだったんだね。知らなかった…
「本当なら帰したくなかったよ。だけれど、善良なる魔女に勝てない点が一つあってね。魔術道具を作り出すことだけはできないんだ」
「それでいい。カイルさんが普通の人間でもそうでなくてもいい。一緒に生きていけるなら、それでいいから」
ありったけの思いを込めて言うと、唇がそっと重なってくる。寸前であのきれいな黒い目が金色に光るのを見たけど、何にも怖くないと思った。
「君に触れる許しがほしいよ。詩織」
「許すから… 私、25歳にもなって経験ないけど、いいの?」
「知っているよ。君の異常に男に慣れていない様子を見ていれば、想像できる。俺でいいの?」
私はそっと頷いてカイルさんの首に腕を絡めた。すると、もう一度唇が重なってきて、そっと舌先が唇を愛撫していく。抱き上げられて、ベッドまで連れていかれたら、あとはもうカイルさんに身を任せるままになった。
お待たせしました( ^^) _旦~~
監禁生活だったわりに行動力のある詩織ちゃんですね。
ハピエン目指して頑張ります(`・ω・´) カイルくんのお話は難しいけれど!
お付き合いくだされば幸いです。感想くださればもっと幸いです。