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第二部 サキュバスになった私の幸せ 三話 新しい日常

カイルさんの勧めで、私は一宮琉偉さんという俳優さんの所へアルバイトをしに行くことになった。


「スーツなんて着るの久しぶり…! こんな感じでいいの?」


「着替えたのならこっちへおいで。簡単にだけどメイクしようか」


黒いスカートスーツとブラウスに着替えた私を満足そうに見下ろして、そっと頬に触れながら言った。…どこか不安そうに見えるのは私が心配だからなのかな。そんなことが気になったけど、初仕事の日だからだと答えを出して、ドレッサーの前に座る。


「うん。カイルさんの方がメイク上手いんだもの。なんだか複雑!」


「あははっ、まあメイクができるのも仕事のうちだからだよ。アイシャドウはこれをベースにして、リップはこの色をベースにするよ」


「はーい。似合うかな?」


他愛ないことを話しながらも緊張を隠し切れない。だって、今日まで在宅ワークしか経験したことなくて、外で仕事をするなんて人生初なんだもの。


「俺の友人だからね。心配しなくていいよ」


「どうせならカイルさんの所がよかった!」


「俺の所は忙しすぎるからね。体力的についていけなくなってしまうよ。わがままを言わないで。お姫様」


唇を尖らせてみるけど、お姫様って言葉には弱くて。瞬く間に機嫌を直すしかなくなる。


「さあ、行こうか」


「うん。カイルさんの同期の人だったっけ? 一宮さんって」


「そう。年齢はあっちの方が幾つか上だけれど同期だよ。この間、一緒に暮らしたこともあるって話をしただろう? その彼だよ」


そんなことを話しながらカイルさんの車で一宮さんのマンションまで送ってもらう。…そういえば、カイルさんは疲れたりしないのかな? 考えてもしかたないけど、疲れない人なんているわけないよね。


「帰りは事務所まで迎えに行くからね」


「うん。遅くなるならメールしてね。私、電車で帰るから」


「そんなことはさせないから安心してて」


これも立派なマンションの前でキスして。カイルさんは仕事に向かい、私はエレベーターホールに向かった。



立派な花の飾られたホールの隅で待っていてくれたのはモデルさんみたいに背が高くてきれいな人で。


「あぁ、あなたが日向さんの紹介してくれた人ね。私は小菅五月といいます。今日からよろしくお願いします」


「よろしくお願いします。私、御木本詩織っていいます」


昴流さんと同じくらいあるのかな。そんなことを考えながらも一生懸命に見上げた。すると、それを察してくれたんだろう。


「ごめんなさい。私は昔からこうだったから… ハイヒールなんか選ぶんじゃなかった」


苦笑して私の為に背を屈めてくれた。すると、私が持っているバスケットに気づいて。


「それは? あなたのランチにしては量が多いと思うんだけど…」


首を傾げながら問いかける。


「これはカイルさんから小菅さんと一宮さんに差し入れです。忙しくて朝ごはん食べられないだろうからって。私のお弁当もありますけど」


ちょっと自慢を隠し切れなかったけど、簡単に説明した。そこでエレベーターが止まって、五月さんは驚きを隠し切れない様子で私を部屋まで案内してくれた。


「さあ、どうぞ。琉偉はまだ寝てるけど… 今日は早めに起きてひげ剃ってたかと思ったら、二度寝しちゃったの」


そんなことを言いながら寝室へ入っていく。ドアの隙間からちょっとだけ見えたのは縦にも横にも大きなベッドの上でうつぶせに寝ている男の人で。


「あぁ、もう…! 琉偉! いい加減に起きてったら。あなたの同期が差し入れを用意してくれたから! まだ時間もあるし、一緒に食べましょう」


「カイルが差し入れ…? 俺、差し入れとかいらないって言ったのに」


「そんなもったいないこと言わないで! 私はあなたのせいでおなかすいているの。先に食べるから!」


他にやることがないのもあるけれど、二人のやり取りが新鮮で聞き耳立てちゃう。対等な関係ってこんな感じなんだね。カイルさんが私より遅く起きて、あんな風に怒られながら起きるって想像もできないけど。


「仕方ない。起きますか… カイルの差し入れって美味いのは知ってるから。下積み時代、嫁もらった気分で甘え放題して怒られましたよ。結局、酒奢って許してもらったんだけど」


「あら、そうだったの? それは初めて聞いた」


「こんな格好悪いこと話すわけないでしょ?」


そんなことを話しながら寝室から出てくる人の背丈に、私は二重の意味で驚いちゃう。カイルさんも背が高いと思ってたけど、まるで巨人のように背が高くて。威圧感さえ覚えちゃう所なのに、本人は寝ぼけ半分でギャップが面白い。


ちゃんとしたら、ちゃんとカッコいいんだよね。きっと…


「やあ、小さなお嬢さん。俺は一宮琉偉っていいます。しばらく世話になるよ。五月の助けになってあげてね」


「は、はい! よろしくお願いします。御木本詩織っていいます」


「カイルの差し入れってそれ? 可愛いバスケットに入れてくれたなあ」


そんなことを話しながら私の手からバスケットを取り上げて、中に入るように促す。二人の背丈がバランスのいい差になってて、ちょっとうらやましく感じた。…私はどうしたってカイルさんに合わせてもらわないといけないから。


「相変わらず完璧超人やってるね。俺がベーグル好きなの覚えててくれたんだ。スモークチキンのサンドイッチ、俺のお気に入りなんだ。五月、サラダの作り置きあったっけ?」


「今、用意してる所よ。あなたは急いでコーヒー淹れてね」


「はいはい。インスタントで悪いけど三人分でいいのかな?」


そんなことを話す二人はいい意味で肩の力が抜けていて、間違いなく恋人同士なんだって語っていた。…純粋に尊敬できる人達だと思えた。


「カイルは器用でね。頼むと何でもやってくれたんだ。俺にメイクを教えてくれたし、似合う服を選んでもくれた。今でも頭上がんないよ」


テーブルに並んだ五月さんのお手製サラダを食べながら、一宮さんがそんなことを語る。その顔は寛いでいて優しくて、私にお兄さんがいたらこんな感じかとぼんやり考えていた。


「カイルさんは昔もそんな風だったんですね。今も変わってなくて…

今日は初出勤だからってスーツのコーディネートからメイクから全部やってくれました。家事も私はまだ慣れてないからってほぼ全部やってくれてます。…疲れないかなって心配になるくらい」


「ふふっ、変わってないなあ。俺はよくお礼代わりに酒や洋菓子のうまい店を探したっけ。だけど、そこまでやってくれるってことはさ。考え方を変えると、あいつなりの独占欲かもね」


「あぁ、そうね。そうかもよ。だから、そんなに落ち込むことないわ。私は逆に羨ましくなるけどね。そんな徹底して尽くしてくれるなんて、琉偉も見習ってほしいくらい!」


そんなことを話しながら笑いあう二人を見て、私はなんとなくカイルさんとの日常を思い出していた。本当は帰ってからもやることが沢山あるはずなのに、いつも私のことを中心に考えてくれる。


私に幸せでいてほしいからって言ってくれるけど、カイルさんは幸せなのかな? 一人で考えても分からないし、カイルさんに聞いてみても笑って幸せだって言ってくれるだけで、本当の所は分からない。


私はあんまり頭のいい方じゃないから、カイルさんの本音を察するなんてできないし… 本当にこのままでいいのかな?


そう考えてみたけど、今できるのはカイルさんの恥にならないように目の前の仕事を頑張ることくらいしかなくて。結局、私は胸の奥底にある不安を封じ込めて仕事に集中することしかできなかった。


…なにか思い出さなきゃいけないことがあったはずなのに…

お待たせしました( ^^) _旦~~

詩織ちゃんのアルバイト先は一宮琉偉くんですね。これちょっとだけ裏話があってですね。うまく表現できなかったんですが、カイルくんは自分の仕事姿を見せるのをためらっているというのがあります。まだ勇気が出ないとか、そんな感じ。決して、琉偉くんがヒマなわけじゃありません。次回もお付き合いくだされば幸いです。感想くださればもっと幸いです。

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