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第2話 好手

僕の名前はマックスウェル・ホーク。実業家だ。


宇宙船ミロクライストの乗組員の1人と言ってもよいが、この船自体、僕の所有物だ。誰を乗せて、誰を乗せないか、そのほとんどを決めたのはこの僕だ。惑星オノコロ移住計画の指揮をとりここまで実現させてきたのは僕なのだから当然の権利だ。


ただ、ほとんど、と言っても、あいつは別。書記官のシバ・ヤスマロ。なんだあのポンコツは。なんであんな出来損ないを僕の船に乗せなきゃならない?


書記官の必要性が決定されたのは世界政府の最後の会議で、中でも大統領の意向が大きかった。宇宙船ミロクライストの計画のほとんどが僕の思惑通り進んでいた。それを土壇場になって彼女、世界政府大統領があの書記官をねじ込んできたのだ。


「ヤスマロは思った通りよくやってくれてるわね」大統領は金色のパダーティ(歩兵)を一マス進めながら言う。ロビーの私たちは4人制チャトランガという古代のボードゲームをホログラムの中で行っている。


「あんなのでか?」僕は言いながらサイコロを振る。その出目で動かせる盤上の列が決まるのだ。僕はガジャ(象)を攻撃的な位置へと配置した。「コムギみたいな過去の遺物を掘り返して何になる?」


それにしても彼女は大した政治家だよ。黒人初の世界大統領。いったいいつの段階で議会の多数派工作をしていたのか?AI議員たちの票と見解は僕が抑えていたはずなのだが。


「チャトランガでの好手というのは前の手を継承するようなものでしょう?」大統領は次の植物学者や以後の指し手を読みながら待っている。「そこに至るまでの流れがあって、次の手が決まる。私たちホモ・サピエンス・サピエンスも『歴史』をおざなりにすべきではない。ヤスマロはそのために必要だったわけ」


この種のゲームに「流れ」などなく、その場その場の最善手がそこまでの経緯とは関係なく存在する。しかもこのチャトランガや麻雀のようにサイコロというランダム要素が介在するゲームはなおさらだ。


しかしそういったことは口に出さなかった。説得の時間が無駄だからだ。大統領との今の微温的な関係を波風たてずそれとなく維持すること。それがここでなすべきことだ。


それも次の我々の目的地惑星オノコロに到着するまでの辛抱だ。あとおよそ1年。オノコロ移住は多惑星間種族を目指す上での最初の飛び石。より豊かな環境の期待できる次の惑星ナーヴァナへの移住計画もすでにスタートしているのだから。


「新しい惑星環境での植物の知識は必須なのよ」と植物学者。慎重に着手を決め、ラタ(車)を自陣に引き上げ守備的な配置を整えた。「歴史上の植物の方がそこでの適応力は高いかもしれない。ヤスマロは今日は『思念の化石』からカラミテスを抽出したわ。第ニ次と第三次の大量絶滅機の間に繁茂していた巨大な植物で後の化石燃料となる石炭の元になったとされているわね。彼のフォグ探索の精度も徐々に上がっているから私たちの知りたい過去へのアクセスもより意義あるものとなるはずよ」


対局している盤上の周りにホログラムのカラミテスが繁茂する。再現されたそれは、竹林のようにそびえ立ち、節ごとに分かれた茎がチャトランガの盤面にも似た幾何学的な美しさを醸し出していた。葉は細長く、茎の頂上から放射状に広がっている。


惑星ナーヴァナへの移住へのボトルネックとされているのがエネルギー問題だった。どこからその莫大なエネルギーを調達するのか。僕はヤスマロが管理しているあの信じ難いエネルギーの集積体「思念の化石」を燃やすことで爆発的なそれが得られるのではと踏んでいるのだが。


燃やせ、燃やせ、歴史を燃やせ!過去に意味があるとしたら、それは未来への燃料となることだ!


「ミルクルミャーオ」、4人目のプレイヤーであった猫が鳴いた。白色のアシュワ(馬)を極めて意外な位置へと跳ねてきた。それは僕たちの読みを遥かに越えた着想だったが、しかし読みを進めるとどうやら好手であることが判明した。

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