-エピローグ- 赤い運河
扉の向こうからは、まだ雨音が聞こえる。
自らの頼りない鼓動も聞こえる。もうすぐ途絶えることはすぐに分かった。段々と弱くなってくる。
母は、いつまで息子を待つだろうか。一人では到底食べ切れない量の鍋を前にして。
伊山の頭から流れ出た大量の血液は、絨毯に染み込むことなく、扉の方へと少しずつ流れていった。扉の下で、少し躊躇うように溜まったが、やがて勢いよく外へと流れ出た。血液はさらに砂利の所まで行くと、雨と混じって消えてしまった。しかし、扉の外には運河のように、赤い跡が残った。
そうして伊山は死んだのだった。
-了-
僕は、人を幸せにすることよりは、絶望させる方が向いている。それは、前向きに考えての選択だった。
人を絶望させるような作品に必要なものは、追体験だと思う。小説を読みながら、少しずつ先が分かり、何だか不安な気持ちになるが物語りは進んで、どんどんとよくない方へ向かっていく、、、そんなものを書きたかった。
今作品はそういった意味で実験的な意味合いが強かった。意図したところが決して成功したとは言えないが、見えてきたものも大きかったように思う。
長い連載になりましたが、お付き合いいただき、本当にありがとうございました。