13 決して関わってはならない
『塾講師Kの証言には、一点の曇りも無かった。彼は最後に、私に向かって穏やかな口調を持って言った。
-僕が話せるのはこの程度です。ただ生徒が飛び降り自殺をした。その事実以外に知り得ることはあなた方よりも少ない。何か分かったら教えて下さい-
全くその通りだ。彼を追っても時間の浪費にこそなれ、重要な手がかりを得ることは出来ない。その点では、警察の下した判断は正しかった。警察はとっくに捜査を切り上げていた。後に、そこには別の理由も存在していることを知るのだが。
とにかく、私が彼を追った理由は、自殺した16人の児童を結ぶ唯一の共通項だったからというだけであった。彼は生徒からの人望も厚く、疑うに足る人物では無かった。というのが私の下した結論であった。捜査は振り出しに戻った。
初めに立ち返り、事件についてよくよく考えてみたが、これは物理的な殺人事件ではないのだ。どこかにいる犯人を捜す、という考えそのものが間違っている。単なる集団自殺だったとしても、その理由がどこかには必ずあるのだ。それをあるがままに引っ張り出してやることこそ、重要なのだ。私は犯人探しというスタンスを変更した。ただ情報を集め、そこから導き出される何かを待つより他に方法は無いのだ。
私はジャーナリストという職業柄、知人に警察関係者がいた。彼に捜査の進歩状況を尋ねた所、こんな言葉が返って来た。
「その事件とは関わらない方がいい」
訳を聞いても、彼は一向に話そうとはしなかったが、1時間程説得すると、ついに口を割った。彼によると、事件を捜査していた警察官が、次々に自殺していったそうだ。警察も始めはこの奇妙な自殺の動機を調査したのだが、それぞれ自殺であることが判明したそうだ。自殺者は、4名。警察内部でも、この噂はすぐに広まった。気味悪がって、誰もがその捜査を敬遠していく中、警察はこの一連の児童飛び降り事件を、ただの自殺として結論付けたそうだ。そして、マスコミへの報道規制を行い、この事件を消し去ってしまったのだ。
この事実を聞いた私は、独自に調査を進めた。すると、さらにある事実が浮かび上がってきた。取材をしたマスコミ関係者の中にも、自殺をした者が数名いたのだ。そして、やはり、自殺の動機は不明。検死結果でもそれは裏付けられた。まるで、下手なミステリー小説だ。読者の中には、私が誇張しているように感じる方もおられるかもしれない。しかし、これは事実だ。私自身、信じきれずにいる。そうして恐ろしいことに気が付いて、私は、眩暈に襲われた。私も自殺、あるいは何者かの手によって殺害されるのだ。そして自殺として処理される。自らそうなりたいと願って死んだのだと。この悲惨な憂き目にあう権利が私にも当然あるのだから。
それから私は夜も眠れなかった。幸い、私は今も生きている。しかし、いつ死ぬか分からない。今生きていることさえ、幻のように感じられる。死が形も無く迫ってくるというのは、想像を絶する恐怖なのだ。
私がこの事件について知っていることを全て形にしたのは、それが死んだ後に残る唯一の手がかりとなるからだ。
そして、最後に老婆心ながら付け加えておく。
「この事件には、決して関わってはならない。」




