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プリンセス・ア・ナイト  作者: 寒咲 薙
序章【宝石と剣の舞】
2/8

あなたの為の騎士・中編

 訓練場の裏手には人の歩く足音すら響いていない。それは付近に誰も居ないことを表している。

 他人の目がないことで安心しきっている私の目から、涙がポツポツとこぼれている。

 向上心の塊、反骨精神を抱く女。

 そんな、自分が思い描いている理想な自分が今この時だけ粉々になって崩れ落ちる。

 本当は辛い。

 死にたくなるほど辛い。

 ただ生まれ持った特徴なだけで忌み嫌われ、悪女だ何だと罵られ軽蔑の視線を向けられ続ける毎日。

 そんなの、耐えられっこない。

 だけど私は、死にたくなかった。

 世界にどれだけ絶望しても、どれだけ裏切られても、まだ生きていたかった。

 生きていたいから、その為に現状を変える努力をしようと決めた。元々無いものを悔やんでも仕方ないと思って、魔法の修練ではなく知識の習得に心血を注いだ。

 セレスアスティア学園の入試には魔法・剣術の実技とは別に、数学や歴史、魔法史学などの筆記テストがある。そこで完璧な点数を叩き出して私はこの学園に入学したのだ。

 学園には、私の価値を証明した。

 誰も見ていないところで頑張った私は、ちゃんと結果を残した。

 あとは、この学園の生徒や国の民草、そして父上や母上と兄弟姉妹に私は悪女なんかじゃないと証明するだけ。

 正直、卒業したからって何かが変わる確証はない。

 でもこれしか思いつかなかった。

 今を変えるには、これしかないと私は思った。

 私には――他に何もないから。

「どうしたの?」

「――っ!?」  

 足を畳んで両膝の間に顔を埋めていた私の上から、誰かがそう呼んで心臓が一瞬だけ止まりかける。

 驚いた勢いで姿勢は正され、自ずと視線は上を向いていた。そこには、私を呼んだ人の姿もある。

「泣いてた……?」

「え?」

 さっき見た白髪の男子生徒だ。と思った矢先、彼からそんなことを言われて私は頬を伝う涙の感触を思い出す。

 そういえば、泣いてたんだった。

 考え込んでたし、今はびっくりしちゃって忘れてた。

 気丈に振舞っていた私の泣き顔を、見られてしまった。焦る場面ではあるんだろうけど、何故だかちっとも焦りは生まれない。

 落ち着いて、冷静に涙を拭う私を、白髪の青年は優しく見守っている。

「ご、ごめん」

「なんで謝るの?」

「あ、いや、それは……」

 どうして謝ったのかは自分でもわからない、という言葉が頭では浮かんでも上手く言葉に出せなかった。

「もう全員終わったから、そろそろ戻らないとリーシャ先生に怒られるから探しに来たんだ」

 そうか、もう終わるのか。

 というかそれよりも。

「わざわざ私のことを探しに来たの?」

 接点なんて何もない、目すらもまだ会ってない私を探す理由が見つからず、戸惑うだけだった。

「まぁね。さっき、キリシェって人に酷いことを言われた後にどこかに行っちゃったから、もしかしたらって思ってさ。余計なお世話かなって思ったけど、どうやらそうでもないらしいね」

 そう言うと、青年は手を差し伸べて「ん」とだけ言った。

 それは、掴んで立ち上がれって意味だと瞬時に理解できて、私は遠慮なくその手を借りて腰を上げる。

 掴んだ掌はゴツゴツしていて、感触だけで相当なマメを作っていることがわかった。

 その手だけで、この青年が日々努力をし続けている姿が容易に想像できた。

 腰に携えている銀と青い束の剣も、とても汚れている。

 手入れされても落とせない傷が鞘にも無数にあった。

「そんなに長く掴まれると、ちょっとドキドキしちゃうな」

 照れながら笑顔で言う青年の言葉を聞いてふと手元を見ると、彼の手をぎゅっと掴んでいる私の手が見えた。

 もう借りる必要のない手を、ずっと掴んでいたのだ。

「あっ、ごめんなさい!」

 初めてかもしれない、異性とここまで長く手を繋いだのは。

 おかげで私の心臓もドキドキしているし、なんだか熱くなってきた。

「あっはは、いいよ。さて、戻ろうか」

「う、うん……」

 なんだろう、この感じ。

 今まで向けられたことのない感情を向けられている気がして、どうすればいいかわからなくなってくる。

 どうすればいいかなんて、そんなのこのまま彼に着いていけばいいだけなのだけど。

「ねぇ、ちょっと質問してもいい?」

 廊下を歩いている途中、白髪の青年は徐に口にした。

「なに?」

「君はどうして、この学園に入学したの?」

「えっと……」

「あぁいや、言いたくないなら別にいいんだ。でもちょっと気になって」

 言い淀んだ私にそう言葉をかけた白髪の青年は、一旦足を止めて続けて言う。

「ただ、君は王女様でしょ? 王女なら学園になんてくる必要ないのに、どうしてかなって思って」

 普通に考えたら、確かにその通りでもある。

 別に学園に入ることを強制する法律なんてどこにもない。

 王族ならなおさら、『普通』であれば未来は約束されているようなものだ。

 しかし忘れてはならない、私は普通の王女ではないということを。

「私がなんて呼ばれてるか、知らない?」

 知らない人間が居るなんて思いもしてないけど、一応尋ねた。

 白髪の青年はハッと何かを思い出したかのように表情を変化させ、そしてこう答える。

「そういえば『悪女』とか、さっきは『魔女』って言われてたね」 

「そう、私は産まれた頃から魔力がないことや見た目のせいで、そう呼ばれ続けてきたの」

 そのせいで、何度も枕を濡らした。

 何度も自らの命を絶とうと考えた。

「そっか……」

 白髪の青年は顔を曇らせた。

 彼の知りたいことを教えるためにも、私は様子を見ながら言葉を続けて繋いでいく。

「理不尽極まりない理由で虐げられてきたから、悔しくて、変えたくて……だからこの学園に入って結果を残せば、少しは変わるんじゃないのかって思ったの。そういう理由で私はここに居る」

 こんなことを言っている私だけど、さっきこの青年に泣き顔を見られてしまったせいで説得力も少ししかないように感じる。

 泣いてたこと、深堀されたらなんて返そう。目にゴミが入ってたっていうありがちな理由はあの場面じゃ通用しないだろうし。

 いっそ本当のことを言う?

 入学したはいいものの、やっぱり辛くて苦しくて逃げたいって、言う?

 言っていいのだろうか。

 誰かに悩みを打ち明けたり、辛いことや苦しいことで相談したことがないから、良いのか悪いのか決められない。

 初対面なのにそんなことを打ち明けられたって、彼は困るだけかもしれない。

 困らせて嫌われたら……今は悪意のない人でも、次からは他の人たちと同じように私を見るようになってしまうかもしれない。

 そう考えると、何も言わないことが正解のように思えてきた。

 青年は私に近づく。

 無理に上げたり伸ばさなくても手が届く距離になって、彼は笑顔を浮かべて言った。

「努力家なんだね」

「え?」

「僕が君なら、もうとっくに折れてる。でも君は折れなかった、昔も今も折れてない。本当に凄いと思う――けど」

 そう最後に付けると、息を改めて吸って青年は言う。

「もう折れそうなんじゃない?」

 何も、言えなかった。

 折れそうって口にしてここで認めたら、一気に今まで積み上げてきたものが消えてなくなる気がしたから。

 頭に詰め込んだ知識はもちろん、周りに見せていた気丈な振る舞いをする私が、ここで崩れてしまう気がした。

 本音を打ち明けたい気持ちと、打ち明けてはいけないという気持ちが衝突しあって沈黙を生む。

 すると、廊下の奥からヒールの足音がコツコツと近づいてくるのがわかった。

 見ると、近づいてくるリーシェ先生の姿。

 見るからに怒っている表情で、彼女は大きな声で私たちに言う。

「おいこら! 何サボってんだ、早く戻れ!」 

 私にはわかる。

 あれは激おこ状態だと。

 このまま何も言わず待っていたら、あの細くて長いヒールで強く踏みつけられるのではと想像が広がった。

 特殊な性癖を持っている人であればご褒美になりそうだけど、生憎私にそんなに性癖はない。

「ごめんなさい! すぐ戻ります!」

 私は頭を下げて謝り、小走りでリーシェ先生の下に近寄った。後ろから白髪の青年の足音も聞こえたから、きっと着いてきたのだろう。

「まったく……心配したぞ、急に居なくなるもんだから。その上お前まで!」

「いぃたたたたたた!!」

 私の後ろを着いてきた白髪の青年のこめかみを、リーシェ先生は手をグーにして挟んだ。

 露出したリーシェ先生の二の腕の筋肉が少し膨らんでいて、それだけでだいぶ力が入ってるいることがわかる。

 耐え兼ねた青年はもがきながら必死に振り払おうとするが、リーシェ先生の手は微動だにせず挟み続けていた。

「せ、先生! 僕も彼女を探しに行ってたんですよ!?」

 痛みに襲われながら、白髪の青年はそう主張した。

 しかしその主張は呆気なく一蹴される。

「無断で授業を抜け出したのは事実だろ? じゃあ同罪だっ!」

「いたたたたたたた!! 痛い痛い痛い、痛いですって!!」

「知らん!」

「なんで僕だけ!?」

「それも知らん!」

 それは知っておこうよ。

 しかし本当に痛そうだ。

 白髪の青年のこめかみがさっきより随分と赤みを帯びている。涙目にもなってるし、そろそろ可哀想になってきた。

「あ、あの、もうその辺にしておいてあげたら……」

 そっと、言葉を添えるようにそう提言すると、リーシェ先生はすぐさま手を離した。

 痛みの余韻が残ってるんじゃないかと思って、私は視線を白髪を青年に向ける。

 案の定、彼は悪夢に苛まれる幼子のように頭を抱えて痛みに抵抗していた。 

「お前の言う通りだな、エデン。少し興が乗ってしまった」  

「楽しんでたんですね……」

 私が言うと、リーシェ先生は鼻で笑って。

「楽しかったぞ」 

 誇らしげにそう言った。

 喰らった本人はそうとう辛そうだけど……。

「さて、茶番は終わりだ。もう戻るぞ、みんなが待ってる」

 空気を変えるために手を叩いて、真面目な口調でリーシェ先生は言う。

 横で今も痛がって呻き声を漏らしている白髪の青年の背中に、私は手を乗せた。

「大丈夫?」

 青年は姿勢を正して答える。

「ひ、ひとまずはね……」

「戻るみたいだから、行こう」

「わかった、ありがとう」

 白髪の青年は朗らかな笑みを浮かべた。

 朧気な煙だけが残る彼に対する記憶は、未だにハッキリしない。もしかしたらもうこれ以上は思い出せないのかもと思いつつも、大事な記憶かもしれないモノを取り戻すために頭を巡らせた。

 その笑みに、口調に、仕草に、上手く言い表せない懐かしい感覚を抱きつつも、私はポーカーフェイスに務める。




 訓練場に戻ると、私たちを待っていたクラスのみんなの視線が一斉にこちらに向いた。

 何だかいきなり数十本のナイフを突き立てられているような気持ちになるくらい、鋭い視線が多く私に集まっている。

 確かに今回ばかりは私が悪い。

「待たせてしまってごめんなさい!」

 頭を下げ、誠心誠意謝った。

 誰かが舌打ちをしたのがわかる、誰かがコソコソ何かを話しているのがわかる、誰もが私に悪意を向けているのがわかる。

 これは今までと同じだ。

 今までも、これからしばらくも、きっとこの悪意の集合体は消えたりしない。

 両脇にいる白髪の青年と、リーシェ先生の態度が特別なだけだ。

 私に対する噂も知っているはずなのに、どうして二人は私にこんなに優しくしてくれるんだろうか。

 それが不思議でならなかった。

「僕も謝る! ごめん!」

 白髪の青年が手を合わせ、みんなに謝罪する。すると陽気な声で、恐らく彼の友人だろうという一人の男子がこう言った。

「サボると留年だぞぉ!」

「んげっ! それほんと!?」

「あっはははは! 焦ってる焦ってるぅ!」

「おいからかうなよ!」

 その明るいやり取りが、私のせいで蔓延っていた陰湿な空気を一気に晴らした。

 クラスのみんなもくすくすと笑みをこぼしている。

「まぁ、それ本当だけどな」

 賑やかになった場所で、リーシェ先生はわざとと思えるような小さな声でそう呟いた。

 そういえば遅刻したら留年だとも言ってたっけ。あの時は半信半疑だったけど、もしかしたら本当の話かもしれない。

 あの時渡された赤い本は今も持っている。捨てようにも人から渡されたものは簡単に捨てられないし、かと言って何に使うか全く不明な、ただただ邪魔な荷物と化してはいるけど。

 今度、時間がある時に訊いてみよう。

「それじゃ、全員揃ったことだし授業はこれで終わる。教室に戻ったら次の授業の準備をしておけよ〜」

 リーシェ先生のその言葉で、授業が終わりを迎えた。

 次の授業は確か魔法の実技だったはず。魔力のない私は魔法は扱えない、いきなり詰みだ。

「あの、先生、私って次の授業参加していいんでしょうか……?」

 先生が立ち去る前に私は質問した。

 先生は気さくに、しかしその表情には何か企んでいるような笑みを浮かべながらこう答える。

「魔法が使えないことを気にしてるんだったら安心しろ。後でこっそりとっておきを教えてやる」

「とっておき……?」

「あぁ。魔力がなくても魔法を使える、とっておきだ」  

 何だか凄いことを教わる一歩手前にいるような、だけどリーシェ先生の含みのある笑みのせいで不気味さも感じる。

「それって、罪に問われるようなことじゃ……ないですよね……?」

「当たり前だ。生徒に罪を背負わせる教師がどこに居る?」  

 ここまでキッパリ言われると信じる他ない。

 ともあれ授業に無事に参加出来る上に、私だけ除け者にならずに済むのであればそれでいいような気もした。

 むしろ充分と言える。

「それなら安心です」

「ふふ、楽しみにしておけ」

「……やっぱりちょっと不安です」

「ふふふふ……」 

 リーシェ先生は自分の世界に浸ってしまったのか、不気味な笑みをこぼしながらその場を去っていった。

 悪戯をする前、或いはした後に子供が見せる笑みをリーシェ先生も浮かべていたせいで、私の不安は結局拭いきれなかった。

「はぁ……」

 意図せず溜め息が漏れる。

 その間、続々と訓練場を後にする生徒たちの足音が耳に入ってきた。

 みんなの足音、それから話し声のおかげで私の気持ちは一気にリセットされる。

「大丈夫?」

 横に居たアレンが私に尋ねてきた。

「うん、大丈夫。とりあえず戻ろっか」

「そうだね」

 そうして、私たちは共に歩む。

 他の誰も私の隣に立とうとしなかった人生の中で、初めて誰かが隣を歩いているという感覚に、私は若干の戸惑いを抱いた。

 だけどその戸惑いも、いつものように顔には出さずに隠し通す。

 気丈に振る舞え、強がれ、己を騙せ。

 自分に言い聞かせるこの言葉は、もう言い飽きる程に繰り返し続けてきた。

 これからもきっと、変わらないだろう。




 魔法の実技の授業も訓練場で行われることになった。

 担当する教師はリーシェ先生。

 授業が始まると、まずは基本的な魔力の操作から始まった。

 基本的と言っても私の場合操る魔力そのものがないから、関係の無い授業だ。でも魔導書に記されていた記述を一通り読んだおかげで、知識だけは一丁前にある。

 魔力とは即ち、生命エネルギー。

 人が生きる上で必要不可欠なエネルギーであり、完全に失えば人は命を落とす。

 空気中にも魔力は漂っているおかげで、人は息をするだけで失った分の魔力を徐々に回復していける。

 内に宿る魔力を触媒に行使される魔法は、万物万象の理すらも無視できる万能の力だ。

 水のない所に水を出し、風のない場所に風を吹かせ、火のないところに火を点けられる。

 神業とも言えるその力を、人間は持ち前の知恵で実現可能にした。

 私が読んだ魔導書には『人類が初めて行使した魔法とは何か』という問いが、本の最後のページの片隅に書かれていたのを覚えている。

 その本の著者は魔法の頂点に立ったとされる故人で、名は『ヴァン』。

 ヴァンは数々の偉業を残した人物だ。何をしたかを詳しく語るとかなり長くなるから、それは後の話に。

 とにかく、そんな優れた力であり誰もが持っている万能の力を、私は持っていないのだ。

 いくら知識で魔法のことを熟知していたとしても、魔力が無ければ魔法を扱うことはできない。

 それどころか、魔力を持っていないだけで忌み嫌われる存在になる。

 ハンデという言葉が酷く軽い言葉に聞こえるほど、私はこの場にいる誰よりも力の面で劣っている。

「【ウィンドネス】!」

 風を操る魔法の詠唱が聞こえた。

 詠唱と言っても、扱う魔法に付けられた名前を唱えるだけの簡単なものだけど。

 しかし名前は、魔法においてはかなり需要な鍵になっている。

 今、一人の女子生徒が唱えた風魔法の【ウィンドネス】は、掌で照準を合わせ、ターゲットに向けて風の刃を放つ攻撃系統の魔法だ。

「え、風魔法!?」

 ふと冷静になった私は状況を理解した。

 攻撃系統の魔法を扱えだなんて指示は、リーシェ先生からはなかった。

 ただ魔力の操作をこなすだけの、慣れている人であれば簡単な内容だったはず。

 なのにどうして風魔法を放ったの?

 何に向けて? 誰に向けて?

 状況把握のために思考を回転させているうちに、微弱な風が私の頬を撫でた。

 すると、刃のように鋭い風の集合体が、こちらに向かって飛翔してきているのが見えた。

 先程一人の女子生徒が放った【ウィンドネス】だ。

 どうやら目標は――

「私に――!?」  

 咄嗟に避けようとしたが、体が反応しない。

 頭では動かなければいけないと理解していても、体がその思考の速さに追いついていなかった。

 まずい、当たる。当たれば大怪我は確実。顔に当たれば一生消えない傷が残るかもしれない。

 光の点滅のように、今はどうでもいいような心配事が脳裏を走る。

 そして風の刃が、目前に迫った瞬間だった。

 一つの小さな、赤く光る宝石が風の刃と私の間の宙に落ちる。 

 その宝石は瞬く間に光を放ち出すと、勢いよく半透明な壁を展開した。

 その壁――バリアは、凄まじい勢いで空気を切り裂きながら迫り来る風の刃を受け止める。

 目の前で起こった出来事に、私は唖然とした。

 宝石からバリアを展開する魔法、或いは魔法の道具なんて見たことも聞いたこともない。

 そして、一体誰がこれを?

 そう思っていると、タイミングを見計らったかのように私の後ろからリーシェ先生が前に出てくる。

 バリアは既に消え、宝石は何事も無かったように地面に静かに落ちていた。

 リーシェ先生は宝石を拾うと、それを何かに向けて投げつける。

 宝石は綺麗な直線を描いて、魔法を放った女子生徒の腹部に当たった。

「うぐっっっ!!」

 お腹の奥から出る呻き声を上げた女子生徒を、リーシェ先生は冷たい視線で見つめる。

 一言も喋らずにその女子生徒の前まで移動すると、リーシェ先生はこう言った。

「殺す気か?」

 その問いに、女子生徒は顔を逸らして答えるつもりがない意志を示した。

「否定しないってことは、少なくとも傷つけるつもりではあったんだろ?」

 リーシェ先生は更に問い詰める。

 鋭い目付き、冷たい雰囲気と微動だにしない姿勢に、女子生徒は耐えきれずこう言った。

「魔力もないくせに、学科試験だけで入学したあの女が嫌いだからです。実力至上主義のこの学園には要らないと思います」

 この答えに対し、リーシェ先生は重い溜息を吐いた。

 要らない、だから傷つける。それも殺傷能力のある魔法で傷をつける。

 それはもはや嫌がらせの域を超えていると、私は思った。

 今まで誰かに睨まれたり、暴言を吐かれたり、暴力を与えられたりしたことは何度もある。

 けど、殺す危険性のある魔法を向けられたのは人生で初めてだった。

 女子生徒の様子を見るに殺すつもりは本当になかったのだろう、子供特有の不貞腐れた顔を浮かべているから察せる。

 だからこそ、心底から命の危険を感じた。  

 護身術に心得はあっても、それだけじゃ攻撃性のある魔法から身を守ることは不可能に近い。

 魔法には魔法を、それがこの世界の常識だ。

 リーシェ先生が助けてくれなかったら本当に死んでいたかもしれない。風の刃は確実に私の顔に当たるよう向けられていた。

 死んでいたかもと考えれば考えるほど、足が微かに震えてきた。

 指先も震えているのに気づいた私は、周りにバレないように両手で握り締めて隠す。

 静かに深呼吸を繰り返すと、恐怖心も僅かに和らいだ。

 瞼を閉じて、もう一度深呼吸をする。

 そして目を開けて、一歩前に出て私は言う。

「実力は実力。私は実力で入学したし、学園にも認められたからここに居るの。あなたの物差しで善し悪しを決めないでくれる?」

 正直な気持ちを私は伝えた。

 何も嘘偽りはないし、我ながらこの主張に間違いはないと思っている。

 恐怖心に呑まれてはダメだ。

 絶対に見返すと決めたのだから、暴力で物事を強引に変えようとする人に屈してはならない。 

 女子生徒の瞳に怒りの色が浮かんだ。

 気に食わない相手に反論されたのだ、当たり前の反応ともいえる。

 けど、彼女がしたことや皆が私に向けている悪意は、決して当たり前のものなんかじゃない。

 自分を、周りの在り方を、認めちゃダメだ。

「授業の妨害をして周囲に迷惑をかけてるのはあなたの方。もっと自分を省みた方が――」 

「うるさいわね!」

「っ!?」

 とうとう怒りを我慢できなくなった女子生徒は、感情の赴くままに叫んだ。

 そして両手を前に出し、先程放った魔法と同じものと思われる魔法陣を展開する。

 そして魔法を発動する時に唯一必要な、魔法名を口にした。

「【ウィンドネス】!!」

 再び高速の風刃が放たれた。

 その威力は先程の刃とは比べ物にならないほど。空気の悲鳴が、耳をつんざく。

 一歩も動けない。

 魔法には魔法で、という対処法ができない私は為す術なく、唯一の回避手段すらも取れないほどに足が竦んでいた。

 風の刃は確実に私を捉えた。

 しかし――

「はーい、そこまで」

 またもやリーシェ先生が宝石を空中にばら蒔くと、一度風の刃を防いだときと同じバリアを展開して同じように防いだ。

 風圧だけが私の体を掠める。

「怪我はないか?」

 私の前に立つリーシェ先生は、横目に私を見ながら心配する言葉を投げかけてきた。

 二度も同じ光景を見たとはいえ、未知の出来事を体験していた私は呆気に取られながらも返事をしながら頷く。

「そうか、ならよかった」

 宝石は粉々になって、跡形もなく消え去っていた。

 宝石を触媒に魔法を発動している? そんな魔法、聞いたことがない。どの魔導書にも類似した魔法は記されていなかった。

 いったい、あれは何なのだろう……。

「さてと、そろそろ止めないと本気で制圧するが、それでもいいか?」

 リーシェ先生は宝石をポケットから取り出し、虎視眈々と女子生徒を見つめながらそう言った。

 その口調はいつもより数段冷たく、威厳を含んでいた。

 関係のない周囲の生徒たちも思わず萎縮してしまっているのがわかる。かくいう私も同じだ。

 一歩も動けない。

 冷静な思考、十分な時間の余裕があるにも関わらず、足が一歩も動かないのだ。

 死に直面したときの恐怖心とはまた違った色の怖さが、私の足に纏わりついている。

 空間全体を圧迫するようなこの緊張感の中で、横暴な態度を取れる生徒は一人もいない。

 もちろん、私に魔法を放った女子生徒も同じだった。

「ご、ごめんなさい……もうしません……」

「一度目だからな、今回は許してやる。だが、二度目はない。他の奴らも肝に銘じておけよ〜」

 リーシェ先生は周囲の生徒を見回しつつそう言った。

 そして続けて、こう話す。

「少なくとも私が担当する授業でさっきみたいなことはするな。いいな?」 

 生徒たちは誰に指示された訳でもなく、一斉に息を揃えて返事をした。

 その様子を見たリーシェ先生は満足そうに頷いて、気を取り直すように溜息を吐いてから話題を変える。

「さて、それじゃ授業の続きをしてろ。あとエデンは私の所に来い」

「え? は、はい!」

 ついさっきまで緊張に縛られていた私は、力んでいたせいで今日一番の大きな声で返事をした。

 授業の再開と共に訓練場の隅に向かったリーシェ先生の後を追おうとした際、私に魔法を放った女子生徒の方をチラリと見た。

 彼女は不服そうに歯を食いしばりながら、私を睨んでいた。




 片目を閉じた、深紅の瞳の少女。髪はボブヘアー並の長さしか伸びず、魔力を持たない異端の存在。

 確かに変わった存在であることに違いはない。だからこそ、どうして自分が忌み嫌われるような存在なのか調べたこともある。

 結論は出なかったけど、これじゃないかという候補はいくつか見つけることができた。

 一つ、かつて地上を支配していたとされる天使族の中に、隻眼で深紅の瞳をした堕天使が居たという話。

 堕天使は裏切りの象徴。だからこそ、嫌われるのではないか。

 二つ、大昔の預言者が残したとされる予言の中に『魔力を持たない存在は、世界から魔法を奪う驚異となる』というものがある。

 みんなこの予言に怯えているのではないか。

 この二つに信憑性はあまりない。

 あくまで歴史の本に記された一文だったり、御伽噺のような物語にある有名な世界観だったりするだけだ。

 本当に、自分がどうしてみんなから嫌われているのかわからないし、わからないからこそ辛い。

 私だって人間だし、心の面では普通の女の子と何ら変わりない。だから殺意を向けられると、容易にトラウマになったりする。

 頭からあの女子生徒の表情が消えない。殺意と実際に向けられた刃が脳裏を過ぎって、離れた今でも恐怖が拭えていなかった。

 俯いていると、リーシェ先生の声が聞こえてきた。

「エデン、具合でも悪いのか?」

「具合……?」

 顔を上げて聞き返すと、リーシェ先生は頬を掻きながらバツの悪そうな顔を浮かべる。

「いやその……さっきは怖い思いをさせたからな。それで辛くなって、具合でも悪くなったのかと……」

「確かに怖かったですけど、それはリーシェ先生のせいじゃありませんよ? それに、先生は助けてくれじゃないですか」 

 リーシェ先生が居なかったら、今頃私は大怪我どころか死んでいたかもしれない。

 この人はもう私にとって命の恩人とも言える人である。

 私はリーシェ先生の目を真っ直ぐに見つめた。

 申し訳ない気持ちが伝わってくる弱気な瞳だけど、見ていると妙に安心感が湧いてくる。

 きっと、力強く真っ直ぐで誠意に満ちたリーシェ先生の目を、既に知っているからだろう。

 この国で初めて私に優しくしてくれたアレンとリーシェ先生は、自分でも気付かないうちにいつの間にか私にとって結構大きな存在になっているみたいだった。

 優しい人が、優しくしてくれる人が、悲しい顔を浮かべるのは嫌だ。

「リーシェ先生は私の恩人です。だから気に病まないでください」

「そうか? まぁお前がそう言うなら、良いんだが……」

 そう、別に良いのだ。

「はい。それで、私を呼んだのは例の『とっておき』ですか……?」

 気持ちを切り替え、私は自ら話題を振った。

 先程とは違って吹っ切れた様子のリーシェ先生は、少年のような楽しげな笑みを浮かべながら話す。

「あぁそうだ、『とっておき』だ。実はもうお前はその目で見てるんだがな」 

「もう見てる……?」

「ヒント『宝石』」

「あ――」

 あまりにも答えに直結しているヒントのおかげで、すぐに理解した。

 風の刃【ウィンドネス】を防いだバリアが、散らばった宝石から展開されていたのを今思い出す。

 強力で殺傷性の高い魔法を完全に防いだあのバリアは、魔導書にも記されていない魔法だった。

「もしかしてあの魔法は、私にも扱えるんですか!」

 喜びが沸き立つ。

 私も魔法がつかえるようになるという可能性が、忘れかけていた喜びの感情を奮い立たせた。

 がっつくように前のめりになって、私はリーシェ先生に迫る。

「魔力が無くても、本当に……!」

「お、落ち着け、一旦落ち着け」

「は、はい! 一旦落ち着きました!」

 嘘、落ち着けてはいない。ただ落ち着いているフリをしているだけ。

 興奮は隠せていないだろうけど。

「んまぁ、興奮する気持ちはわかるぞ。だけどこの魔法は、しっかりと頭に叩き込まないとまともに扱えないものなんだ。冷静に、ちゃんと私の説明を聞けよ?」

「わかりました。任せてください、暗記は得意ですからっ」

 興奮のあまり他人見せたことのないドヤ顔を私は堂々と見せる。

 そんな私を見て苦笑いを浮かべながらも、リーシェ先生は話を続けた。

 懐から取り出した赤い宝石を見せながらこう言う。

「まずお前が見たあの魔法は『宝石魔法』と言って、私が開発した独自の技術だ」

「開発したって……さらっと言ってますけど、それって結構凄いことじゃ……?」

 魔法を開発するなんて言葉で言えば簡単だが、凡人どころか世の天才さえも不可能な正真正銘の選ばれし者だけが為せる偉業だ。

 あの『ヴァン』の偉業の一つに、魔法を幾つも作り出したという話がある。

 ヴァンは一人で未知の魔法を開発し、それを魔導書に記して誰もが扱えるように魔法を世界に普及させた。

 リーシェ先生の話が本当なら、ヴァンの偉業の中の『魔法の開発』をやってのけているということになる。

 もしかしたらリーシェ先生は、天才の中の天才なのかもしれない。

「どうした? そんなに驚くようなことか?」

「驚くようなことですよ! 」

 のほほんと言うリーシェ先生に、私は強く言い返した。

「大袈裟だなぁ……たまたま良いアイディアが浮かんで、たまたまそれを実現できる環境に居たってだけなんだが」

「その偶然、私みたいな人間からしたら奇跡と同然だということを知っておくべきです」

 あまりにも自覚がないリーシェ先生に、私は呆れて冷たくそう言う。

 リーシェ先生は微塵も動揺せず、私の言っていることを未だに理解していないようだった。

「まぁそんなことは置いておいてだ。さっそくだが、宝石魔法をお前に伝授する」

 一つの宝石がリーシェ先生の懐から現れる。宝石と言っても、お店で安く買えるような低下値の宝石だ。

 言ってしまえば色があるだけの石。加工すれば高級感を纏いだすのかもしれないが、リーシェ先生の持つ宝石は加工前のものだった。

 私はそれを見つめ、観察しながら独り言を呟く。

「これで何をどうすれば、魔法が発動できるんだろ……」

 摩訶不思議とはこのこと。

 もしかしたら私には感知できない魔力の流れが、この宝石にはあるのかもしれない。

 そう思ったけど、どこからどう見ても何の変哲もないただの安い宝石だ。魔力が流れているとは到底信じられなかった。

「エデン、お前は魔法の原理を理解しているか?」

 リーシェ先生は、そう私に問う。

 もちろん私はこう答える。

「知っています。読み漁ったどの魔導書にも、同じようなニュアンスで原理原則が書かれていましたから、バッチリです」

「なら、魔法を発動するには『名前を唱える』事が重要ってのも知ってるな?」

「それが詠唱となるから、ですよね?」

「そうだ。お前はよく勉強をしているんだな、偉いぞ」

 突然、リーシェ先生の手が私の頭に触れる。すると優しく髪が乱れない程度に撫でた。

 褒められて誰かに撫でられるなんて初めての体験で、胸の内から喜びが湧き上がってくるのがわかる。

「あ、ありがとうございます」

「ふふ。さて、本題に戻ろう。魔法名の詠唱、

魔法発動が一連の流れだとしたら、それさえクリアしていれば魔法はどんな方法でも発動できるとは思わないか?」

「……というと?」

「例えば――」

 リーシェ先生は意識を手元の宝石に向ける。

 途端に宝石は輝きを放ち始めた。ただの輝きではない、エネルギーを肌で感じられるほど濃密な力が宝石から流れているのがわかる。

 リーシェ先生は話は続けた。

「こうして魔力を流し込んだ宝石は、一定期間魔力を留めることができるんだ。最長で一ヶ月、といったところか? その間、こいつにある魔力は私だけのものじゃなくなった」

 そう言って、リーシェ先生は私に宝石を向けた。

「ほれ、持ってみろ」

「は、はい」

 言われた通りに私は受け取る。

 触れた瞬間、日光を浴びたときのような温もりとエネルギーを感じた。

 ただの宝石を触っただけじゃ感じることのできない力を、今私は感じている。この力は恐らく、いや確実に、リーシェ先生の魔力だ。

「私が魔力を込めた宝石だ。私はそれは『魔法石』と呼んでる」

「『魔法石』……」

 言葉を咀嚼し、理解する。

 どの魔導書にも記されていない、この場ではリーシェ先生以外は誰も知りえない知識を、私は享受している。

 未知なるものへの探究心が私の心を昂らせた。

「その『魔法石』は魔法を行使する際の触媒となる。事前に魔力を込めた石と、そして魔法発動に必要な詠唱を唱えることで様々な魔法を扱える」

「詠唱……でもリーシェ先生、さっき私を守ったバリアを発動するとき、詠唱の声は聞こえませんでしたよ?」

 私がそう質問すると、リーシェ先生は何か躊躇うような表情を浮かべ、答えることを躊躇し始めた。

 そしてここで初めて、私はリーシェ先生の赤面を目の当たりする。

「そ、それはその……宝石魔法の詠唱は独自で開発したもので……つまりその、私が自分で考えた詠唱文なのだが……それがその、如何せん恥ずかしいというか……あまりにもカッコつけすぎて逆に幼稚というか……」

 モジモジしてる。

 強い大人の女性が見せる恥じらう乙女の姿は、あまりにもギャップがある。

 これ以上恥ずかしい思いをさせるのもどうかと思ったけど、私は知らなければならない。

 そして何より、リーシェ先生をからかいたい。

「つまり?」

「こ、これ以上聞くのか? もうわかるだろ?」

「さっぱりです。いくら考えてもさっぱりわかりません」

「嘘をつくな! お前程の女なら簡単に想像がつくだろ!?」

「あぁ、わからないなぁ、もうわからないなぁ、教えてくれないと全然思いつかないなぁ〜」

「棒読みじゃないかっ!」

 段々とリーシェ先生をからかうのが楽しくなってきた。

 目上の人間をからかうのって、案外楽しいものだ。リーシェ先生も良いリアクションをしてくれるから、からかいがいがある。

 それはそれとして、リーシェ先生が宝石魔法を使ったときに詠唱が聞こえなかった原因は、彼女が言う通り容易に想像できた。

 恥じらう乙女、カッコつけすぎた詠唱文、それが意味するものはただ一つ。

 そう、誰にも聞こえないように小声で唱えたのだ。

 たとえ誰の耳に届いていなくても、魔法を行使する本人がしっかりと詠唱していれば魔法は発動される。

 その原理原則の一つは、宝石魔法にも適用されるみたいだ。

 魔法を発動するタイミングを測ったり、単に気合いを入れたり、イメージが重要とされる魔法を正しく行使するためにみんなは詠唱をハッキリと唱えているだけに過ぎない。

 どうせ魔法名を唱えるだけなのだから、そこまで苦でもないけど、宝石魔法の詠唱はリーシェ先生が考えたもので、本人曰くカッコつけすぎたものであるなら……。

「先生、試しに詠唱を聞かせてください!」

 聞きたい、知りたいという欲よりもリーシェ先生をもっとからかいたいという欲望が勝った私の瞳は、きっとキラキラと輝いているだろう。

 自分でもわかる、今の私は生き生きとしている。

 私が迫ると、リーシェ先生は仰け反った。

「そ、そんなに聞きたいのか? 恥ずかしがる私を面白がってるだけじゃないのか!?」

 そうです、とは言わず。

「違いますよ!」

「……っ」

 リーシェ先生が肯定するまで私は彼女の目を見つめるつもりだ。

 絶対に逸らさない、恥じらうリーシェ先生をもっと見たいから。

 そして恐らく、教えを乞う生徒の願いをリーシェ先生は断らない。何となくそんな気がするおかげで私の決意は更に固まっていた。

 しばらく見つめ続けていると、リーシェ先生は諦めたように溜息をこぼした。

 私の熱意が勝利を勝ち取ったということだろう。

「わかった、わかったから一旦離れろ……はぁ……」

「やったぁ!」

 喜びのあまり、飛び跳ねるウサギのように私はジャンプした。

「そんなに喜ぶか、喜ぶものなのか……?」

 素朴なリーシェ先生の疑問に私は微笑みで答える。

 ここは敢えて言葉で肯定はしない。笑顔での返事が時として最も適切な返事になるのだから。

 

 


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