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9開脚目

 竜王はイルミナ、グノーシス、メタトロン、イデアルの4体。エリザベスが知っている竜王といえばイデアル、そのレベルは200だ。ラスボスの魔王はレベル80ぐらいであり、勇者たち主人公はだいたい平均レベル60でその魔王を倒すことができる調整であった。ゲームタマンネリアのレベル上限は255なので竜王イデアルの強さがいかに規格外か理解できる。そもそも竜王に単騎で勝てるようなゲームバランスではない。ただそれを為したのがエリザベスなのだ。


「我は竜王のなかで最弱」


 そんな「四天王のなかで最弱」みたいなことを言われて硬直するエリザベス。さらに続けざまにショックな言葉を口にするイデアル。


「奴らを全て倒して宝を全て手に入れ大竜王に我はなるっ」


 どこぞの麦わら帽子を被った海賊みたいなことを言い始める竜王イデアル。正直付き合いきれないと思うのだが他の竜王との戦いは興味がある。


「全部倒さないとだめなの?」


「だめ」


 即答である。


「いやいや、今まで引き籠ってるぽかったじゃん?」


「我はザベスと出会い、過去とは決別した」


「なるほど……ん? ……今なんと?」


 エリザベスは聞き捨てならない台詞を耳にした気がした。


「ん、『我はザベスと出会い、過去とは決別した』と」


「ぐっ、な、なかなかイイパンチじゃねえかっ! 『ザベス』だとっ!」


「ザベス」


 エリザベスにはゲーマーたちの間であだ名があった。ひとつは“ザベス”である。そしてもうひとつは……。


「ねえ、“エリー”って呼んでくれないかな?」

 

 これがもうひとつのあだ名である。


「ザベス」


「どうしてもだめなの?」


「ザベス」


「どうしてなんだ?」


「言いやすい」


「ぐふっ」


 エリザベスがザベス派に蹂躙された瞬間であった。エリー派であるエリザベスには致命傷になりかねないほどのダメージだ。


「そ、それは追々修正していくとしてだ、と、とりあえず魔王しばきにいこうぜ?」


「ん」


 愛らしく頷くイデアルには竜王の威厳など感じられなかった。イデアルの承諾を得られたことでタマンネリアのラスボスの魔王の元へと向かうことになるふたり。


本当は毒親女王の言うことなど無視し、国が滅ぶ様を見るのも悪くないと思っていたエリザベスだが、どうしてもメイドさんのおっぱいが気になったのだ。たくさん揉みしだいてしまったのだ……おっぱいを。それならば守るしかあるまい……メイドさんを。メイドさんを守るついでに国を守るというのがエリザベスなのだ。


とくに命をかけて守ると誓っているのは専属メイドだ。あの日、恋に落ちてしまったのだ、エリザベスは……自分でそう思っているだけだが。


しかし、どうしても顔が思い出せない。恋に落ちてしまったといってもメイド服とおっぱいしか思い出せない。メイド服が好きすぎて顔をあまり見ることができていないためだ。顔とは違いおっぱいはしっかりと覚えている。それはメイド服を最大限生かすためにおっぱいは必要だからである。


「とりあえず飛んでいこうぜ」


「ん」


「ところでなんで四つん這いになってんの?」


「元の姿に戻るため……我は元の姿じゃないと飛べない」


「なら俺が背中に乗せて飛んでいくよ? だからその姿のままでいいよ」


「わかった、人に乗せてもらうの初めてだから緊張する……」


 ドラゴンが人間を乗せて飛ぶということはあるだろうが、人間がドラゴンを乗せて飛ぶというのはあまりないことであろう。


「〈M字フライ〉! しっかりと捕まっててね」


「ん、了解」


 背中にイデアルを乗せエリザベスは魔王城めがけ美しく飛び去った。


「どうだ、久しぶりで風が気持ちいいだろ?」


「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばっばばばばばばばばっばばばっばばっばばばばばばばばばばばばっばばばばばばばっばっ!」


 エリザベスの問いにはとてもではないがこたえる余裕のないイデアルであった。それもそのはず速過ぎたのだ。そのせいでイデアルの顔は歪み切っていた。〈M字フライ〉を使用しているエリザベスは風の影響をほとんど受けることはないのだが、イデアルにはもろに風が直撃してしまっている。

 だが、流石は竜王だ。通常の人間であればとっくに吹き飛ばされているこの状況でもしかりとエリザベスを掴んで離さない。イデアルは掴むことに集中していて他に何も考えることができない。それに対してエリザベスはしっかりと掴んできているイデアルの感触を堪能していた。イデアルの感触を楽しむため飛行中左右に揺さぶったり宙返りしたりもした。

 そうこうしている間に魔王城に辿りついてしまった。


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」


 イデアルは既に満身創痍だ。魔王城に到着してから大の字になっており起き上がる力も残っていない。これが竜王なのだろうか。人間が背中に竜王を乗せることによって、竜王に敗北を与えた決定的瞬間である。


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