8開脚目
昔、敵だった存在がピンチのときに駆けつけて味方する……といった少年漫画のような熱い展開は素晴らしいもので心躍る要素である。勿論、そういった死闘を繰り広げた者同士が仲間になる展開は漫画やアニメだけでみられるものではなくゲームにも存在する。しかし、その熱さが時として一瞬で冷めてしまうことがある。
仲間になった途端弱くなる元敵……という悪夢がある。期待に胸膨らませ、心躍らせ、いざ蓋を開けてみると、いざ一緒に戦ってみると何の役にも立たない。あの敵として立ち塞がった時の絶望感はなんだったのか。シナリオの都合とはいえあんまりである。
では具体的に弱くなるとは一体どのようなことであろうか。敵の時に使えたスキルや魔法が味方になった瞬間から使用不可能。HPが、攻撃力が、防御力が、すばやさが、運が、命中率が何十分の一になる。無限、無尽蔵の魔力はどこへいった。などと幾多あげられる。
さらに厄介なこともある。それは味方から敵になると超パワーアップするということだ。理不尽、あまりにも理不尽である。あんなにも足を引っ張ってきた存在が敵になった瞬間猛威を振うのだ。この絶望感をエリザベスが敵になったことで、ノロイ達は味わったのだ。
仲間になったとはいえないかもしれないがエリザベス共に行動することになった竜王イデアルはどうだろうか。イデアルは竜王であり、タマンネリアの裏ボスだ。その強さはラスボスを遥かに凌ぐものとなっており、ラスボス程度は秒殺である。そんなイデアルは現在ヒト型になっている。そのため弱体化のお約束を守ってくるのかもしれないと警戒していたエリザベスだ。しかし、だ。地上で出くわしたモンスターと対峙してみてわかった。
「〈ドラゴン・ブレス〉」
ヒト型のイデアルのブレス攻撃を受けて一瞬でモンスターたちが蒸発していく。〈ドラゴン・ブレス〉はドラゴンならだれでも使用可能な初級のブレスだ。しかし、それは使い手次第で威力が全然異なるものである。イデアルのブレスの場合、辺り一帯が消し飛ぶほどの威力だ。
「なんてこった……」
エリザベスは驚嘆する。それもそのはずだ。
「威力が落ちていないだと?」
イデアルのブレスの攻撃力は落ちていなかったのだ。ゲーマーとしてさんざん嫌な思いをしてきたため目の前の光景を信じるには少しの時間を要した。
「どうしたの?」
「いや、威力が落ちてないなってさ。人間みたいな姿になってもブレスの威力変わらなくて驚いたんだよ」
驚いたことを素直に伝えると更に驚愕の返事が待っていた。
「我はヒト型でも強さは変わらないどころか強くなる。より繊細で精密な攻撃もできるようになるから」
――そんなの第三形態目みたいなもんですやん。
「ど、どうして俺との戦いでその姿で戦わなかったんだ?」
「どんな攻撃も無効化される自身があったから」
イデアルは顔をキリッとさせ決め顔でそう言った。なぜそんなにも自信満々そうな顔をするのだろうか。
「そ、そうなんだ、と、ところでイデアルの目的は宝集めだろ? それなら俺がお宝を返せばついてこなくても良いんじゃ?」
「めっ!」
イデアルは頬を膨らませ怒った。すごい剣幕で怒った。そんなにもダメだったのだろうか。
「一度奪われた宝に興味ない。それ以上の宝じゃないと満足できない」
「もうわかったてば。俺が悪かった」
「うむ」
「じゃ、じゃあ具体的にどんなお宝なら満足できる?」
なんとか空気をより良い方向へもっていこうと質問するエリザベス。
「んー、魔王がもってるやつとか、他の竜王がもっているやつとかかな?」
「しれっと人間から見たら無理難題レベルを言ってくる竜王イデアルさーんっ!」
思わず叫ぶエリザベスをみて何故か満足そうなイデアル。
「まあ、俺は糞女王のせいで魔王討伐を命じられているからさ、ついでにサクッとお宝頂きに行こうぜ」
「うん!」
人間の少女のような良い返事と満面の笑みのイデアル。その姿を見て安心するエリザベス。
「んー……? ところで竜王さん」
「何? 姫さん」
「さっきさ、『他の竜王がもっているやつ』とか言ってたじゃん?」
「うむ」
「あれさ、嘘だよね?」
「嘘じゃないよ、竜王は4体いる」
「ぐぎゃぐばあああぁぁああああっ!」
エリザベスは再度大ダメージを受ける。なぜダメージを受けたのか、それは単純明快であった。
「竜王はイデアルだけじゃないのか……」
声がぷるっぷるになるエリザベス。かつて龍二としてプレイしていたタマンネリアには竜王は1体しかおらず、それがイデアルであった。しかし、その本人がいうには4体もいるらしいのだ。そんな猛者がたくさんいて消滅していないタマンネリアの世界の人間たちは割と凄いと思うエリザベスなのであった。




