7開脚目
全裸の少女はずっとエリザベスを見つめていた。
「先ほどからずっと全裸であろう? 何をいまさら」
少女はずっと全裸だったらしい。寒くないのだろうか、エリザベスは疑問に思う。
「さっきから全裸って追剥にでもあったの?」
哀れに思えて半泣きするエリザベス。さらにエリザベスは少女がかわいそうなので頭を撫でてあげる。
「おい、おぬしが今まさに我の宝奪ってたじゃろ」
「宝って宝物庫の?」
「うむ」
「おまえさん、よく見たら頭に角が……もしかして竜王?」
「うむ」
「チギュアアあああああああああああああああああっ!」
少女の正体を知って全身から血を噴き出しながら潰れたチー牛のような悲鳴をあげるエリザベス。
「どどどどうしたんじゃっ誰にやられた?」
「お、ま、え、ぐふっ!」
大量の血を口から吹き出し瀕死の重傷を負ったエリザベスは今にも息絶えそうだ。
「え、わ、われなの? え、あ、どうしよ、あぁそうだ〈ドラゴン・ヒーリング〉」
竜王の角のあたりから光が発せられ徐々に回復していく姫騎士の姿をみて安堵する竜王は、またゲームのときとは違ったキャラクターに見える。〈ドラゴン・ヒーリング〉は自ら以外の対象を回復するドラゴン固有の回復魔法だ。しかし、この魔法を竜王が使用できるということはゲームでは確認されていなかった。竜王は味方や配下といった存在なしで戦うからだ。
「た、助かったっ」
「良かったの、ところでなんで我にやられたと?」
「そうだ! おまえドラゴンの癖に安易に人化しやがって! そういうのは没ネタだからゲームで実装されなかったんだろうに、ちきしょうめーっ!」
再度血の涙を流すエリザベス。ゲームでは実装されていなかった竜王が人化したショックでのダメージらしい。
「え、なんで我責められてるの……」
「あ、いや、ごめん、助けてくれたのにごめんな」
半泣きになってしまった竜王にしっかり謝罪をするエリザベスだが疑問をぶつけたくなってくる。
「ところでなんで戦闘の時は人化しなかったんだ? 弱くなるとか?」
「ん、そんなことはないけどリーチが短くなるのと威厳がなくなるから」
「あー、威厳は大事よなー」
ゲーマーとして激しく納得することができた最高の回答であった。満足したエリザベスは何度も頷く。
「よし、そんじゃあな」
エリザベスが帰ろうとすると凄まじい力で竜王が腕を掴んできた。
「いたっ、痛いって! どうしたんだよ?」
「我、ついてく」
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ?」
「ちょっと支度してくる」
「ええええええええええええええええええええええええええっ?」
「まじで?」
「うん」
「ふつーにだめだよ?」
支度しようとしていた竜王は固まってしまい半泣きになる。すぐに半泣きになる竜王である。しかし、それが愛らしい。もうすっかりゲームの時の印象とは違う。
「いやだ、ついてく」
固まっていたいわゆるフリーズ状態の竜王はなんとかその状態を脱し、意地でもついていく意志表示をする。
「だめだよ、騒ぎになるでしょ、竜王が人間の町に行ったりしたらさ?」
「ならない、ちゃんと正体隠すもん」
「なんでついてきたいの?」
「宝奪われたし、また集めたい」
「んぐっ、そ、そうか、それなら仕方ないな」
宝を奪った張本人はその後ろめたさから同行することを同意せざるをえなかった。
「まってて」
ひとり待つこととなったエリザベスは頭を抱えていた。
「まずい、まずいぞ、もうタマンネリアの原型とどめてないじゃないか、どうすればいいのやら……」
ひとりになったエリザベスは愚痴をこぼす。ゲームのシナリオとは遠く離れすぎてしまったからだ。自分でそうしてしまっておいて悩み苦しむのは御愛嬌。
「おまたせ」
「と、ところでさ、威厳ありそうな話し方はあんまりしなくなったよね?」
「エリザベスに威厳示しても仕方ないもの、だけど必死に威厳のために練習したからときどき出てくると思う……のじゃ」
「あー……はい」
練習していたことにもショックを受けるエリザベスだがなんとかもちこたえてみせる。最後のわざとらしい「のじゃ」も見事にスルーしてみせた。竜王も人間のように演技をすることにどこか親近感を覚える。
「ところでよ?」
「ん?」
違和感があるためどうしても再度確認したくなったエリザベス。支度してきたはずなのに肝心なところが全く支度できていない竜王に対し意を決し質問する。これはどうしてもそのままにできる事象ではないのだ。
「なんで全裸なん? 全然支度してないやん?」
ついに言った、言ってやったのだ。それはなぜか。全裸は目のやり場に困るからだ。
「さっきも言ったよ? 出会ったときから全裸だった。だからこれでよい」
「いや、良くないのっ! ドラゴン社会は全裸OKでもせめてヒト型の姿のときは服着ようね」
「リザードマンだってヒト型全裸なんだからこれでよい」
「めっ! それはそれ、これはこれよ」
そう言われた竜王は頬をハムスターみたいに愛らしく膨らませると、魔法かスキルかはわからないが一瞬にして衣装を纏った。若干ゴスロリっぽい衣装はエリザベスのハートを射抜いた。
「竜王かわいいよ竜王」
「ん……」
あまりのかわいさにエリザベスは竜王に頬擦りするのだが、竜王も褒められて嬉しかったのかまんざらでもない様子だ。堂々と頬擦りできるようになったのは龍二という男から、エリザベスという女の子になったおかげだ。
「よし、じゃあいくか」
「んっ」
まずは地下からの脱出なのだが、それはお約束のワープ装置を使って地上に一瞬で戻ることができるのであった。




