63開脚目
肌……それは肉体の表面。この肌表面・皮膚による触覚・痛覚・温覚・冷覚などは生物の生存のためには欠かすことのできない原始的な感覚である。これがあるからこそエロスも体感することができるのだ。肌と肌との触れあいからはじまるリビドーの爆発は誰にも止めることが出来ない。肌は触れることによって得られる情報は確かにあるのだが触れずとも視覚的にエロスを感じることがある。例えば肌色だ。
色白とは肌が白いことを指すのだが、白い肌は高貴さ美しさを感じさせる。その白さを汚してしまいたいという欲望に人々は駆られるものだ。ヴァンパイアは皆、肌が透き通るような白く芸術的な肌を持つ。その肌に触れてみたくて吸血されてしまった愚かな人々も多い。その愚かな人々の中にエリザベスも加わる予定である。
そんな人々を魅了して止まない白肌がこんがりと焼ける……だと?
大変結構! 素晴らしい。こんがりと焼けたヴァンパイアもまた健康的になりいつもとは違った魅力が、エロスが醸し出される。これは是非ともお目にかからねばなるまいと心に誓うエリザベス。
そんなヴァンパイアの水着の跡……だと?
クラウチングスタートの態勢から一気にヴァンパイアの元へと走っていくような感覚がエリザベスに生じた。
「……なんか出てったで?」
実際にエリザベスからなにかが出てきてひとりでに走っていってしまったことにドン引きし驚くルナフレイム。またもや〈妄想人間28号〉が全力疾走していったのだ。そりゃコイツは一体何なんだと不思議に思われてしまう。
「俺の……わたしの妄想が極限に達したから戦争に出立したのさ、気にしないで」
久しぶりに「わたし」といった気がしたエリザベス。何かが分離したような……。
「相変わらず変わりもんやのー」
「そこがクラーケンスルメみたいに癖になるのよルナフレイム」
ムーンチルドも認める一品のクラーケンスルメ扱いをされるエリザベス、だが不思議とイヤな気分はまったくしない。噛めば噛むほど味が出る……それこそがエリザベスである。
「ところで……ルナフレイムのお父さんは何処にいるの?」
「……」
「……」
ムーンチルド・ルナフレイム親子は同時に黙ってしまった。きいてはいけないことをきいてしまったのだろうか。
「……いないのよ……」
「どゆこと?」
「分裂で生まれた子だから父親はいないの」
ドライアドは分裂でスライムのように増殖できるらしいのだ。いわゆる無性生殖である。
「なるほど……」
てっきりオティンポコレクションの誰かかと思っていたエリザベス。
「ねえ……他には子どもはいないの?」
「いないわ……そう簡単には出来ることじゃないのよ。ものすごく辛いのよ出産は」
なんか喪女のくせに勝ち誇ったドヤ顔あるいは達観した顔をするムーンチルド。子どもをもつということは、女性としてのステージが上がるとはよくいったものだ。出産や育児を経験していない女性に対してマウントを取りたがるものである。今のムーンチルドはまさにそれであり、エリザベスに対して強烈なアピールをしてくる。
ちょっとイラッとくるエリザベス。
「じゃあさー、なんのためのオティンポコレクションなのさ?」
「か……観賞用に決まっているじゃないのッ!」
もじもじしながらそれでいてはっきりと宣言するムーンチルド。観賞用とはなんなのだろうか。
「そッ……そそそそそそそそそそそそそそそそれって……実践(実戦)使用したことないってこと?」
エリザベスも負けじともじもじしながらはっきりときいてしまう。実践使用とはなにかなどと野暮なことはきいてはならない。きいていいことと悪いことの二種類があるのだ。
「あッ……ああああああああああああああああなたねぇーッ! 子どもの前でそういうお話は控えてちょうだいッ! ルナフレイムにはまだはやいのッ!」
教育ママなんですかと質問したくなるエリザベス。
「なんや? デュエルの実践かいな?」
幸いなことにルナフレイムにはきこえていなかったのか、それ自体を知らなかったようであった。流石はデュエリストである。
「でもさー実践使用しないままでそれでいいわけ? あッ……処じ──」
「──紙が破れていたわね和室の」
エリザベスがなにかを言おうとした瞬間、ムーンチルドの手がエリザベスの口を塞ぎ言葉を最後まで言わせてはくれなかった。そして突如和室の障子紙の話にされてしまう。というか和室までつくっていたのか。
その後、この話はルナフレイムがいないときにするという旨のジェスチャーをムーンチルドにされてしまった。口をとがらせかわいらしく拗ねるエリザベスなのであった。




