6開脚目
裏ダンジョンの地下100階層はもちろん地下にある。しかし、天井を見上げればそこには美しい夜空が見える。どういう原理なのかエリザベスにもさっぱりわからない。
「よくぞきた、小さき者よ! 我はずっと待っていたのだ。この最下層に強きものが我を倒しに来ることを――」
重々しい声が最下層である地下100階層目に広い空間に響き渡る。この世界最強と謳われていたドラゴンが目覚め、エリザベスに語りかけているのだ。その巨躯は人々を畏怖させる。しかし、エリザベスは何処吹く風だ。
「――〈M字開連脚〉」
言葉を聞かずに繰り出されたその華麗なる技にいきなり大ダメージを受けるドラゴン。
「ちょ、おま、なにやってんのーっ! まだ話してる途中でしょうがーっ! 名前名乗らせろ!」
「え、知ってるから、〈M字開連剣〉!」
空中でM字開脚をしつつ剣による連続切りでさらにダメージを稼ぐエリザベス。エリザベスは前世の知識で相手のドラゴンを知ってるから名乗りなんてどうでもよいのだ。
「ぐべぼっ、だからな、名乗らせろ! 竜王イデアルっ!」
「うん、びしっ、ばしっ、びしっ、ばしっ!」
頑張って名乗ってくれた竜王を軽く流し怒涛の連撃を加え続けるエリザベス。
「ちょっ、まっ、そっちも名乗ろうよ、ねっ? ねっ?」
「今忙しいから始末したあとで」
「えええええええええええええええええええええええええええええっ、頼むよう? こっち負けたら名前訊けずに死んでいくのに……」
なんだか泣きそうになっている竜王。
「エリザベス」
「エリザベスって言うんだ、かっ、かわいいね。そろそろこっちも本気をだそう……〈ディープ・メテオインパクト〉」
竜王のキャラが崩壊しまくっていたので、流石に困惑することとなったエリザベスは名前を名乗ってあげる。しかし、攻撃の手は緩めることはない。名前を褒めてくれた竜王だが、攻撃に本腰を入れてきた。なんと上空を埋め尽くさんばかりの隕石が出現したのだ。
「〈M字開連脚〉」
〈M字開連脚〉の強烈な蹴りとその衝撃波によっていくつも隕石は破壊されていく。
「んなあほなーっ!」
思わず叫ぶ竜王。だがそれは紛れもなく現実である。蹴りで隕石が破壊されたことはこれが初めてだったのだ。エリザベスの存在は竜王の想像の遥か上をいく。
「だったら〈ディープ・メテオインパクト〉、ディープ・メテオインパクト〉、〈ディープ・メテオインパクト〉、〈ディープ・メテオインパクト〉、〈ディープ・メテオインパクト〉、〈ディープ・メテオインパクト〉、〈――トッ〉、〈――トッ〉、〈――トッ〉」
竜王の策……それは可能な限り隕石を降り注がせるというものだった。単純だが圧倒的な質量で押し潰すというのは強力な戦い方だ。次第に捌き切れなくなったエリザベスは隕石に直撃してしまう。そのまま隕石によって地へと押し潰される。
「しゃああああああああああああああああっ! やっと潰れた、はあ、はあ」
エリザベスが潰れたことに喜ぶ竜王はまるで子どもだ。こんなキャラではない……と思っていた、それがエリザベスの感想である。
「なかなかやるじゃないか、さすが裏ボスといったところか、楽しませてくれる」
エリザベスは自らを潰した隕石から身体を透過させ這い出てくる。
「アネ゛デパミ゛ーッ!」
流石の竜王もこれにはたまらず謎の奇声をあげる。キャラ崩壊し過ぎていてこちらが本当の姿に近いように思えてくる。その後M字シリーズでゴリゴリにHPが削られていく竜王はただただかわいそうであった。
「だだだだが、図に乗るなよ、〈第二形態・ファフ二―ル〉」
「とうとうきたか……」
「こうなってしまって我にも止められんぞ」
竜王の姿が禍々しい邪龍のような姿へと変貌を遂げる。放っているオーラだけで周辺にダメージを与える。ボスだの裏ボスには第二形態があったりするのはゲームではあたり前だ。それに原則として強さが増すもので厄介である。
「グルァララララアアアアァッー!」
大きな咆哮と共に特大のブレスを放つ。竜王でなければこれほどのブレスはできないだろう。あちこちに落ちていた隕石をも容易く溶かしていくそのブレスはエリザベスにも命中する。
「やれやれ、第二形態は強いんだけどさ……理性が足りん、ふんっ」
当然のようにダメージを無効化しつつ〈M字フライ〉からの流星のようなパンチが竜王の顔面を的確に捉える。拳が、エリザベス自体が竜王にめりめりと嫌な音を立ててめり込んでいく。
「チギュャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッー」
あまりの痛みにチー牛のような悲鳴をあげエリザベスをなんとか引き剥がす竜王。
「第二形態はあれが面倒なんだよな」
面倒……それは自動回復である。膨大なHPを有する裏ボスが自動回復は卑怯というものである。戦いが長引き回復アイテムが失われていきジリ貧敗北するプレーヤーが続出したモノだ。
「しかたねぇギアを上げるか、〈T字開回転脚〉!」
エリザベスは逆立ちをすると脚を広げ美しいT字開脚を披露した。パンツだって丸出し大サービスだ。そのまま丸出しなことすら気にせずT字開脚のままゆっくりと回転し始めるエリザベス。次第にその回転速度は速まっていき竜巻を発生させる。
「〈プリンセス・タイフーン・ハリケーン・サイクロン・テンペスト・ストーム〉!」
〈T字開回転脚〉からの派生技が発動した。その巨大すぎる竜巻に巨躯であるにも関わらず竜王は巻き込まれ、ミキサーに入れられた食べ物のように身体をバラバラにされてしまう。辺り一帯には竜王の血が四散した。〈プリンセス・タイフンーン・ハリケーン・サイクロン・テンペスト〉は攻撃の当たった相手の自動回復や防御力上昇といったプラス効果を打ち消す技である。もちろんその攻撃力は凄まじく当たってしまえば大抵の者は一撃である。ゲームバランスの崩壊がこういったバグ技の醍醐味だ。
「さて宝物庫いこ」
用を済ませたエリザベスは竜王が貯め込んだ財宝を奪いに宝物庫に向かおうとする。
「ひゅー、ひゅーっ、……まて」
辛そうな呼吸音の竜王が顔だけになっている。その状態で話しかけてくることができる竜王とは本当に生命力あふれる存在なのだ。
「なんだ?」
「とどめ……を」
「いや、もうレベル最大だからけっこうです、じゃっ」
経験値とはそもそも相手を死亡させる必要はなく、戦うだけで入手できるものである。
「えっ? 勝者のつと……めを果たせ」
そう言うと顔面だけで追いかけてくる。まさに化物、語り継がれるほどのものである。
「やかましい、お前に用なんぞないわ、そのうちお前の自動回復スキルも復活して身体も治るだろうからおとなしくしておけ」
「我に生き恥をさらせと言うのか……」
「プライドの高い奴だな、生きてさえいればお前はまだ負けていないってことにしておけばいいじゃないか」
竜王は目を大きく見開きそしてそっと閉じる。納得してくれたのだろうか。返事をもらえなかったのでエリザベスは、竜王が言う勝者のつとめとは違うつとめである宝物庫漁りに勤しむ。
「あったあった魔剣」
魔剣……それはこの裏ボスを倒すと入手できるものだ。この魔剣が恐ろしいのは倒した数だけ確実に攻撃力上昇することだ。そして攻撃力だけではなく倒した者の強さに応じて耐性も上昇させてくれる魔剣の中の魔剣。
「さて帰るとするか」
「まて……」
財宝を根こそぎ奪い取ったエリザベスの帰還を阻む者がいた。
「まてはお前だ、なんで全裸なんだ……」
全裸の女の子が宝物庫の入り口にいたのだ。それも腕を組んでだ。まず腕を組むのではなく服を着るべきではないだろうか。そう言いたくもなる状況であった。




