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56開脚目

「でねー、あのセクハラ部長の田中がさー、必死に尻を触ってくんのよー! まじ無理ッ! きもいったらありゃしないわッ!」


「うんうん……」


 頷くエリザベス。


「でねー、このセクハラ課長の山根がさー、帰宅途中に必死につけてくんのよー! まじ無理ッ! 生理的に受け付けないったらありゃしないわッ!」


「うんうん……」


 ただひたすらに頷き続けるエリザベス。


「でねー、そのセクハラ係長の只野がさー、舐めまわすように胸ばっかり観てくんのよー! まじ無理ッ! 吐き気がするったらありゃしないわッ!」


「うんうん……」


 まだまだ頷き続けるエリザベス。


「でねー、くそセクハラ社長の栗山がさー、自分のドラ息子と結婚しろって言ってくんのよー! まじ無理ッ! わたしは普通な人と普通な恋愛をして普通な結婚生活を送りたいったらありゃしないわッ!」


「うんうん……」


 いつまでもいつまでも愚痴をきかされ続けるエリザベス。ムーンチルドは最初はここまで愚痴っぽくなく前世のことを話していてくれていたのだが、気付いたらこのように愚痴ばかり話していた。やたらとセクハラされまくっているから見方によってはモテる喪女だったようだ。しかしながらモテる喪女とはこれいかに。


「でねー──」


「──ちょッ、そ、そういえばさ……」


 ムーンチルドの愚痴は留まることを知らない。ムーンチルドのそもそもなぜこうなったかというと、戦いが終わった後に目覚めたムーンチルドに対し、エリザベスも自身の過去を話し、かつ、ムーンチルドが努力したこと、がんばったこと、真面目であったことなどを受容し褒め称えたからだ。認められたことによってムーンチルドは一気に心を開いてしまったのだ。ちょろい、ちょろすぎる、チョロインか。


 なんとか話を違う方にもっていこうとするエリザベス。それがまたなかなかうまくいかないのだ。ずっとずっと過去のことを話したくて仕方がなかったようなのだ。出会う転生者たちは皆、敵、敵、敵。話したいこともあっただろうにコミュニケーションが取れないやつらばかりだったようである。なにせなんちゃらコレクションを奪い合うほどに……。


「でねー──」


「──まッ、待つんだ! そろそろ元の場所に帰ろう、ね?」


「えー、もう? 失われた青春の修学旅行の就寝前みたいで楽しいの」


 やけに具体的な例えで軽く引くエリザベスだが、なんとなく伝わった。きっと心細かった、寂しかったんだろう。


「たしかにたのしいけどね……ここから帰れる保証なくない?」


 エリザベスはごもっともな質問を投げかけた。この激闘を繰り広げた場所がどこかエリザベスは知らないのである。


「大丈夫よ、わたしの拳で戻れるわ……多分」


 どうしても「多分」という言葉に引っかかってしまうが、それ以上に拳ってそんなに便利だったっけと問い詰めたくなる。まったくもって不思議な世界である。どこぞの未来からやってきたネコ型ロボットのどこにでもいけるドアのような便利さであってご家庭にひとつずつ欲しくなるほどだ。


「そんなすごい拳……能力なのか」


「子どものときから空手で鍛えていて本当によかったわ」


「か……空手関係あるの? なくない?」


「あるのよ! 女神エロナス様も『あなためっちゃ空手頑張ったから、あなたの拳とかその他もろもろマジヤバレボリューションにしとくー』って言ってたもの!」


「んー、さいですかー。ヴィーナス様とかじゃなくて?」


 思わず訛るエリザベス。そもそもエロナス何者なんだ。


「エロナス様よ。転生者は女神さまからすんごい力授かるのよ」


 どうやってもなにがあってもエロナスらしい。ところで……。


「あの、その、俺……女神様に会ってないんだけど……」


「え……あなた強いじゃない? その力は女神さまからの授かり物ではなくて? わたしは不思議な力いっぱい女神エロナス様に授かったのよ。だからドライアドに転生して幼い時からブイブイいわせてたわ」


「会ってないんですけど―ッ!? その転生特典もらってないんですけどーッ!? おれも欲しいんですけどーッ!? ずるいんですけどーッ!? エロナス様とどうやったら会えますかーッ!?」


「ん、まあ、あなたは強いからきっと大丈夫よ! わたしは転生するときにしか会ってないわ。だから会い方は全くわからないわ。でもこの世界にはエロナス様の宗教があって徳を積めば会えるかも。わたしも祈りをしっかりとかれこれ1000年以上捧げているの」


 ――この人何歳なの……。


 心の中でムーンチルドがずっと年上なことにいまごろ驚くエリザベス。ちゃんと驚いている暇がなかったのだ。なんか戦いになってしまって……。


「1000年て……いま何歳なの?」


「ん? なにかな?」


「何歳?」


「きこえないな?」


「なんでもないです」


「よろしい。でねーあのときねー……」


 何度尋ねても意地でも年齢は教えてくれないムーンチルド。それでいて再度愚痴話にもっていかれてしまった。エンドレスとも思える愚痴にいつまでも付き合わされることとなったエリザベス。解放されるときはくるのだろうか。

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