53開脚目
「ちょッ、あんッ! 、あッ、あッ、あッ、まッ、まってッ! どッ、どうしてあなたがここに? 確かに遠くへ投げ飛ばしたはずなのにいいいぃぃぃいいいッ!」
「俺がその程度でやられるとでも? しかし、いい乳してんな」
背後からムーンチルドの胸を揉みしだいていた人物……意外な人物でもなんでもない。わかりきっていたことだが、それは皆さんご存じのエリザベスである。会話の最中であってもエリザベスはムーンチルドの胸をこれでもかと揉みしだくことをまったくやめる気配がない。
「だッ、だからまってってッ! あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あーッ……あんッ!」
胸部から全身に電流が走ったムーンチルドはオーバーに全身痙攣し、そのまましばらくの間痙攣が続く。絶頂の世界に旅立っていたようだ。
「ふうー、堪能した、堪能した。じゃッ――」
「――ぬんッ!」
「ぐッ!」
揉みしだき終えたエリザベスは満足しムーンチルドを離した途端、ムーンチルドの強烈なパンチが飛んできた。辛うじてその拳を受け止めることが出来たのだが受け止めたエリザベスの手の平は赤く染まっていた。
「はあはあ……あらあらよく受け止められたわね!」
「そっちこそ、まだまだ喘ぎ足りないようだな!」
ニートは健康とはいえないだろう。なぜなら多くのニートたちは運動不足、偏った食事、昼夜逆転などさまざまな悪環境の中に身を置いているからだ。だがまってほしい。それではいずれニートを続けることが出来なくなる。あくまでニートとは意思もさることながら、働くことのできる状態の人間を指すものであって、身体や心を壊し働くことのできない状態になったものはニートの定義から外れてしまう。だからこそニートであるためには健康面に細心の注意を払う必要があるのだ。そのためエリザベスは前世で通信空手をマスターしており運動不足の解消がてら研鑽を積んでいたのだ。
――痛い、痛すぎる、手が、手がーッ!
――わたしの拳を受け止めた!? この人間、本当に人間か!?
互いに余裕のある表情を浮かべておきながら内心はこれである。お互いに強者と出会ったことで久しく忘れた緊張感というもの感じているのだ。ドライアドの女王ムーンチルドの強さはラスボスの魔王や裏ボスの竜王の比ではない。
――この化物ドライアドの攻撃、こっちがすり抜けることができず攻撃を食らってしまう。
――この化物人間、前世では通うことの出来なかったカリスマエステティシャンに違いない! だって気持ちよかったもの!
ふたりはそのようなことを考えながら視線をぶつけ合いながら相手の出方を窺いあう。ほんの少しのミスが敗北につながると思っているからだ。
――いくぞッ!
――参りますッ!
心の中で覚悟を決めた両者。じりじりと視線を合わせたまますり足をするかのように近づき、ふたりは最速のパンチを打ち出す。
放たれた互いの拳と拳が激突し周囲の空間までも歪み、山々は消し飛ぶほどの衝撃波が辺り一帯に発生した。その破壊力はどこぞの誰かさんの隕石をも軽く凌駕するレベルである。ドライアドの国でこんなぶつかり合いがあったのなら国は即滅んでいたであろう。ここがどこかエリザベスは知らないが、後で地形を変えるほどの戦いをしてしまって申し訳なくなるだろう。そもそもこの場に他の誰かがいたら申し訳ないどころではすまない。
互いの一発目のパンチを皮切りに次々と互いの攻撃が炸裂する。既に周りは消し飛んでいるため周辺を気遣う必要はないのだが、それ以外にも気遣う必要があるものをエリザベスは忘れていた。
エリザベスとムーンチルドの肉弾戦はシーソーゲーム状態であり、どこかの宇宙からやって来た野菜人や、ラーメンの具材みたいな名前の忍者のような激しい格闘が繰り広げられている。両者は一撃、一撃が必殺と呼べるほどの破壊力を秘めたものを打っているのだが、両者共に強者過ぎてその必殺の一撃を同じく必殺の一撃をもっていなす、弾く、相殺し続ける。また、必殺とはいったもののそれはあくまでこの両者以外に対しての話だ。真の強者同士では必殺が必殺とはなりえない。しかし、意外なことが勝負の明暗を分けたりするものだ。
「えッ……ちょ、ちょっとアナタ……」
「どうかしたのか?」
「いや、『どうかしたのか?』とか真顔で言っている場合じゃないでしょうッ!?」
「何も問題ないだろうがッ?」
「いや、大問題よッ!」
高速で行われる戦闘の最中ふたりはこのようなやりとりをした。エリザベスにとっては何も問題が発生してはいないにも関わらず、ムーンチルドからみた場合、エリザベスが問題を抱えているようにみえているようだ。




