5開脚目
姫は国の外で仁王立ちしていた。険しい表情が姫らしくない。どちらかといえば騎士の顔に近い。いや、騎士というよりも無理難題を押し付けられた者の表情だ。
それもそのはず、毒親女王陛下の命令によって、ポンコツ勇者の代わりに魔王を討ち滅ぼさなければいけなくなってしまったからだ。
姫がいとも簡単にこの国最強の勇者カップルをたったひとりで大観衆の前にて倒してしまったことはスカッとしたのだが、これが原因となり魔王討伐を命じられるとは思いもしなかった。完全に姫エリザベスの落ち度である。
しかし、あのポンコツたちがこの国最強とは世も末である。そういったゲーム特有の矛盾のようなものもこの世界にはある。
「あの毒親―っ!」
激しくシャウトするお姫様。しかし……。
「ひゃっはーっ、自由だーっ!」
そう、姫様は、姫騎士は自由を手に入れたのだ。ついでに自らの黒パンツを全力で振りまわす。あまりのパワーに竜巻が発生する。
「さて、さっそくやりますか」
異世界、ゲームの世界にきたらやることは決まっている。
「【ステータス】!」
静まり返る。誰もいないのが幸いだ。正直、「何やってんだコイツ」って視線が向けられそうな痛い娘にしか見えない。だが……。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ俺のステータスだっ!」
しっかりとゲーム同様にステータスを確認することができたのだ。前世のせいか、喜んだり驚いたりするとついつい俺っ子になってしまうエリザベス。
「くそよえーな俺」
それもそのはず、ゲーム通り姫騎士は弱かった。姫騎士エリザベスは弱い……というのはこのゲームを通常通りプレイしたことがあるも者の共通認識だ。
しかし、龍二は廃人であり、かつ、バグ技の達人である。ポンコツ勇者たちが相手といえども、〈M字開連脚〉というバグ技を駆使しなければ勇者たちに勝つことも難しかったのだ。それほどまで姫騎士は弱い。〈M字開連脚〉はバグ技なので正式なものではない。
「どういうことだ〈M字開連脚〉がステータス上に魔法やスキルと同じように載っている!」
つまり正式な技として発動できるようになっていたのだ。正直、龍二であるエリザベスにも理解が追いつかない事象である。
「この世界はゲームじゃないのかもしれないな……」
タマンネリアは複数のエンディングが用意されているゲームだ。だが、ゲームでは勇者ノロイたちがそもそも姫騎士エリザベスに負けるシナリオなど用意されてもいなかったし、〈M字開連脚〉はバグ技であり正式な技ではなかったにも関わらずこの世界ではステータスを見る限り正式な技になっている。
「さて、考えても仕方ねーな、とりあえず乳でも揉んで考えるか」
乳を揉む。これはエリザベスになった龍二の日課となっていた。欠かすことはできないルーティンがこの世界にきて誕生した。
「よし、レベルあげでもすっか、〈M字フライ〉」
バグ技M字シリーズのひとつを発動させ浮遊するエリザベス。もちろんこれも正式な技としてステータスに記載されていた。そのまままっすぐ空を飛び森へと侵入する。モンスターと出会うためだ。
「ふん、はっ、やああああああああああああ!」
モンスターといっても雑魚ばかりだが次々と剣で切り捨てて進んでいくエリザベス。しかし少ししか経験値が入らず効率が悪い。経験値増加のあの手この手を尽くしてもだ。そこでバグ技の出番だ。
「〈スリップスルー〉」
器用に地面にめり込んでいくエリザベス。これは〈M字開連脚〉と比べ物にならないほど高度な技なのだが、その分無敵判定の時間は無限に近く、これさえ発動できれば負けはないという脅威の技だ。〈スリップスルー〉は相手のいかなる攻撃をも透過する能力を有し戦闘面ではダメージを受けることはなくなる。移動面においては壁や地面にめり込んでショートカットなどを可能とする。
つまり、本来そのタイミングで侵入不可能な場所にさえ行くことができる。こういったバグ技はデバッグに用いられるようなものもあり、不遇なエリザベスを見かねて開発者が仕込んでくれたものと噂されていた。事実としてエリザベスばかりがバグ技を有する。
エリザベスはこれを用いることによっていきなり裏ダンジョンへと突入し、さらにモンスターたちを狩っていく。
最初は倒すまで時間がかかるが〈M字開連脚〉などの無敵判定を利用し敵の攻撃を無効化しつつ、相手に一方的にダメージを与えレベルがびゅんびゅんと上がっていく。レベルカンストするなら裏ダンジョンというのは常識中の常識、あらゆるゲームで最強クラスの敵が出てくる場所であり同時に経験値も美味い。もちろんレベル上げに最適な獲得経験値増加スキル、獲得経験値増加装備もばっちりだ。装備の方は王城にあった。序盤では主人公である勇者は入れないところにあるのだが姫なので余裕で入ることができ入手できた。
「いやー裏ダンジョンうめー」
姫は上機嫌。それもそのはずだ、手に入るものは経験値だけではない。最強クラスの装備品がごろごろ置いてあるからだ。ゲーム前半で手に入るアイテム(武器や防具など)は後半ではゴミになる……というのが多くのゲームで散見されるが、タマンネリアにおいてもその要素はある。前半で入手できるものは攻撃力が低かったり売ってもあまり利益にもならない。しかし、完全に意味がないわけではないため注意も必要だ。
「装備もレベルも整った。さてと……やりますか」
何をやるのかといわれればあれだとこたえる。そう、裏ボス討伐である。その強さはラスボスとは比べものにならない。ラスボスはストーリーこなせば倒せるようなものだ。しかし、裏ボスはやり込んでようやく勝つことができる難易度に設定されている。もちろんソロで倒せるような難易度ではない。パーティ全員で挑みようやく勝利を掴み取ることができるものだ。そんな裏ボスにエリザベスはたったのひとりで挑戦するというのだ。




