4開脚目
『みなさま、よくお集まりくださいました。エキシビションマッチの開催でございます! 試合のルールは至ってシンプル、負けを認めるか戦闘不能になるかです!』
司会がマイクのような道具でそう告げると闘技場は大歓声に包まれた。大衆はこの世紀の一戦に興味津津だ。
『なんとなんとっ……この国の姫エリザベス対勇者ノロイ&盗賊フィリアの世紀の一戦でございます!』
再び大歓声に包まれる。はやく戦えとの声があちこちの観客席から飛んでくる。もう観客たちは待ちきれない様子だ。
『さあ、入場です、わが国が誇るお色気姫騎士……えりりりりりいりりりざべええええええええええすううううううっ』
「うおおおおおおおおおおおお!」
謎の雄叫びとともに姫騎士が会場入りを果たす。観客たちにも大人気だ。やはりお色気要素はどこの世界でも人気なのだ。それは男性の比率が少ないこの世界においてもだ。
『反対側からは……いつになったら魔王を倒すのへっぽこ勇者のおおおおおおおおおおおろいいいいいいいいいっ、ああああんんっど、ただの人殺し女盗賊ふぃーりっあああああああああ!』
癖の強い司会さんに名前を呼ばれて入場してきた勇者カップル。
「ぶーぶーぶーぶーっ」
ブーイングの嵐だ。勇者カップルは人気がない。それもそのはず、司会の人が言っている通り、勇者は覇気もなく、いつまで経っても魔王を倒してないし、女盗賊の方はただの殺人鬼だ。人気が出る要素が微塵もないし、そもそも美少女の姫騎士と違ってモブキャラにしかみえない造りの顔だ。
「ちょっとなによこれ、華麗なる美少女盗賊の間違いでしょ」
「あはは、ひどいなこりゃあ」
怒り心頭のフィリア。ノロイは事実を突き尽きられ必死で誤魔化そうとわざと呆れたようなそぶりをみせる。
『さあ、試合開始です』
司会がそう言うと開始の鐘が鳴り響いた。
「ノロイ、全力でいくわよ!」
「ああ!」
「【合神魂・神楽】!」
二人の言葉は重なり特別な能力を発動させる。通常のスキルや魔法とも違う別な何かだ。
『おおおおおおっと、あの“神楽”の発動だ。ふたりが一つになり魔王に対抗するためのとっておきだあああああ! まばゆい光を放ち、姿も変わり、ステータスは何倍にも膨れ上がる究極の力! こんなのに姫騎士はどう立ち向かうんだあああああ!』
司会も観客たちも姫の心配をしてしまうほど強いのが“神楽”だ。決してどこぞのあるある大食い娘のことではない。ふたりが一つになることによって得られるステータス変化は足し算程度ではなく、何倍、何十倍、何百倍とも膨れ上がっていく。さらには巨大な剣まで顕現し、それを軽々と扱うことができる。ゲームとしてのタマンネリアは、この力なしではクリア不可能と言われるバランス調整が施されており、主人公とヒロインの見せ場が用意されている。
「準備は終わったか? ならすぐに試合も終わりにしよう、〈M字開連脚〉!」
なんとエリザベスは空中に飛び上がり美しいM字開脚を披露し、そこから怒涛の連続蹴りを放つ。それによって衝撃波が生まれ一つになった勇者たちに襲いかかる。予想をはるかに超える攻撃に観客は大興奮だ。M字開脚によってパンツが剥きだしなのだ。これでこそ姫騎士、これでこそタマンネリア。しかし、これは通常プレイで発動できるような生易しい技ではない。いわゆるバグ技である。これを発動できるプレイヤーは廃人のなかでもごくわずかに限られる。勿論龍二も発動できるからこそ、エリザベスとなっても発動できたのだ。前世のコマンド入力の感覚でこの世界でも発動できた。その威力は凄まじく、パーティメンバーぐらいのHP量であれば防御が間に合わない場合一撃で削り切るほどであり、なおかつ無敵判定もあるため、まさに攻防一体の最強技である。
「見て、姫様のパンツは黒パンツよ」
観客の女の子が叫んだ。そう、姫は黒パンツを穿いているのだ。これによって“弱い”とされるエリザベスはその弱さを克服できる。生前に龍二が何とか手に入れたモノだ。それを何故かエリザベスは持っていた、偶然だろうか。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
なんとたったの一撃で壁に叩きつけられ、ノロイとフィリアは神楽を解除されそれぞれ気絶してしまう。
『な、な、な、なななななんてことでしょう! 波乱の幕開けもなにも、一撃……たったの一撃で倒れてしまったああああああああああ! 勝者……えりりりりりっざあああああべっすううううううううううううーっ!』
歓声が闘技場のなかに響き渡りエリザベスを祝福してくれる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
スキル〈王女の雄叫び〉も欠かさず発動しエリザベスは獲得経験値増加をしっかり享受する。廃人ゲーマーであろうと初心者ゲーマーであろうと経験値増加はゲームの基礎である。勇者カップルはかなりの経験値があったのかレベルが上がりまくるエリザベスであった。
「エリザベス、よくやりました。あなたの強さは勇者を遥かに凌駕する見事なもののため、魔王討伐の任を与えます」
「はっ(金渡せやくそばばあ、つかてめーが暗殺依頼出してフィリア差し向けてきたの知ってんだぞ糞がっ)」
玉座の間で女王にそう告げられるエリザベス。実の母親から殺されそうになっていることもエリザベスが龍二だからこそ知っていた。
「勇者は戦争で数が減った男性を増やすため死ぬまで種馬として働いてもらうため軟禁、そして女連続強盗殺人鬼フィリアは……死刑に処す」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
玉座の間にて女王からの断罪の言葉によって魂からの叫びがフィリアから漏れた。ノロイは俯いたままである。
「やだやだやだやだやだやだーっ!」
フィリアは往生際が悪いため、隠し持っていたナイフで兵士を切りつけ逃走する。ボディチェックはしたはずなのにどこに隠しもっていたのだろうか。答えはアソコのなかにあった。殺人鬼はそこまでするのだ。
「何をしているのです、はやく追いなさい! 生死は問いません」
口封じのためにもフィリアをつぶしにかかる女王。直接依頼してなくても辿っていけば女王が暗殺依頼を出したことがばれかねないのだ。そんなことならさっさと殺してしまえばと思うかもそれないが女王としての体裁もある。女王の命令に即してフィリア討伐隊が速やかに編成され追跡を開始する。だが、フィリアはあまり長く逃走できないと予測されていた。なぜならスキルや魔法を一定範囲で封印する手枷が付けられていたからだ。




