34開脚目
迷いの森……それにはそのままの意味が込められている。迷ってしまうのだその森は……。足を踏み入れたら最後、再び生きて還れることはないといわれている。しかし、ゲームタマンネリアの物語の都合上、ここを通りぬけることが出来なければ魔王城に辿りつくことは不可能であった。
そんな迷いの森に、今、エリザベスがいる。そこはドライアドの出現場所――つまりは生息地である。エリザベスは直接その目で生のドライアドを拝みたいのだ。
普段のゲーマーとしてのエリザベスならば迷うことはなかっただろう。しかし、今回は迷ってしまった。それは何故かというと、単純に魔王城側から迷いの森に入ってしまったためだ。要するに反対側から侵入してしまったのだ。もしも勇者一行として魔王城に向かうのであればこのような事態は発生し得なかった。
――しくじった……。
素直なエリザベスの感想である。ゲーマーとして恥ずべきことらしい。深く落ち込むが同時に打開策を思案する。そうしてある考えが思い浮かんだエリザベスはすぐさま実行に移す。
ゲームの世界とこの世界は厳密には違う。そこを突くのだ。
ドライアドは男を木の中へと引きずり込む。であれば自ら木の中へと入ってみたらどうかと。ゲームでは木の中に入っても何もない。そもそも木々はたいていただのグラフィックである。
「〈スリップ・スル―〉」
大きな大木を見つけたエリザベスはスキルを発動させた。その効果によって大木の中に侵入を試みる。まるで幽霊かのように大木へと透過していく。
「ウチのターンドロー! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード! モンスターカード!」
「ぐひゃーぅっうまいーっ!」
「もうやめて! あの子のHPはゼロよッ!」
大木の中は質素でありそこではふたりのドライアドがカードゲームを行っている。しかし、その試合運びは一方的なものであり悲惨なものであった。片方が一方的に攻撃され続けているのだ。HPがゼロになっても攻撃が止まないため、大木の中に侵入したばかりのエリザベスがHPがなくなっていることを伝えたのだ。
木の中に男性を引きずり込むのがドライアドなのだとしたら、自ら木の中に侵入してみたらどうかと考え至って侵入を試みたというわけだが、ゲームの時とは違いしっかりとドライアドが存在した。
「ちょっ、うわっ! ちょっと、なに? なんなの? なんですか? 勝手に入ってこないでよデュエル場にさ!」
ドライアドにとっては至極当然の反応である。いきなり見ず知らずの不法侵入者が現れ話しかけてきたのだから。
「ごめんねー、でも魔王軍の勧誘にきたんだよー」
「ぎゃー魔王軍ッ! ってあんた人間やないかい、魔王軍の敵やろ? うそつくなや」
「人間だけど魔王城でお世話になっているの! それに魔王軍はたくさん辞める娘たち出ちゃったから人手がいるの」
苦笑いしながら告げたエリザベス。娘と表現したのは辞めた者たちが魔王狙いの女の子たちばかりだからである。
「それはうそやないみたいやな。ここ最近ぞろぞろと魔王軍関係者みたいな連中がここを通りぬけようとしてぐるぐる迷い続けておったわ。あまりにもうるさいから看板立てて迷わないように暫くしてやってったんや」
けっこう親切なドライアドだ。これなら仲間になってくれるのかもしれない。
「あー魔王軍辞めた後ここを通って元いた場所とか故郷とかに行こうとしていたんだね。……で、どう魔王軍?」
「ウチは自分より弱い奴に従う気はないで? ウチと戦って勝つことが出来たらついてったる」
「やったあ。じゃあ早速戦いを!」
エリザベスは速やかに臨戦態勢をとる。今にも飛びかかりそうな状態だ。勝利を収めドライアドを連れていくという意志表示の塊であった。
「なに構えてんねん? 戦いは戦いでもこのデュエル・オブ・タマンネリアで勝負やッ!」
「えっ?」
ドライアドがそのようなことを言ってくるとは思っていなかったため呆気にとられるエリザベスなのであった。




