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32開脚目

 裏ではフィリアたちが動き出しているという事実を知らずにエリザベスたちは今日も今日とて平和である。魔王城の自室にてお茶をしているエリザベスとイデアル。香りを楽しむエリザベスとは対称的で香りごと飲み尽くすイデアル。


「ところで……イデアルはなんで四天王OKしてんの? 竜王じゃん? 立場ってあるじゃん? 本当は無理なんじゃないの?」


「んーっ、我も大人になった」


「ど、ど、ど、ど、どういうこと? さっぱりわからないんだけど! 魔王と戦ってたりしてたじゃん? むしろ敵じゃないの?」


「うむ、拳を交えて友となる……よくあることだ」


 微妙に達人風な話し方をイデアルはしてくるのだが、かわいらしくて笑いそうになり必死に堪えるエリザベス。


「わ、わかったわ。ま、まあ、本人が良いって言うのなら」


「ザベスはどうしてOKしたの? 人間はあの魔王と敵対してたはず」


 イデアルからはごもっともな質問がエリザベスにぶつけられる。


「うーん、それね。わかりやすくいうと魔王さんはもう人間に危害を加えないからね。魔王はちょっと変態だけど私がここにいたら、見張っていたら問題ないと思うの。それに私は自国の国民に人気あるtどさ、母親好きじゃないし」


 ――我はそれが心配なんだ、アイツ変態過ぎ。


 エリザベスはイデアルに心配されていたのだが、エリザベスは全く気がつかなかった。


「んー、魔王が良くないことしようとしたら我が止める(ザベスに手を出したら消す)」


 顔をぷくーっと膨らませる愛らしさの化身イデアル。そんな姿をみて和むエリザベス。


「魔王が良くないことしようとしたらか……(魔王が人間手を出したりしたらか、優しい子、ぽッ)」


 イデアルの気も知らないで見事な勘違いをしているエリザベスであった。勘違いはそれだけではなく、ドラゴンパウダーによってイデアルは異常を引き起こし続けられるという嫌がらせのようなものを受けたわけで、それでもこの場に残るというイデアルの懐の深さに感動するエリザベス。


「ん……、そろそろごはんいってくる」


 そういうとごはんに向かって全力疾走のイデアル。ちょっと恥ずかしそうもじもじして赤面していた。そんなイデアルの背中を見つめるエリザベスはぼそぼそと独り言を始める。


「魔王は倒さないことにしたけど、どうせあの女王は認めないよな……なんか結局戦争にならないか心配だわ……いろんなことがゲームと違いすぎて頭がついていかないよおぉ」


 単なる独り言に留まらず愚痴となってしまっていた。


「だけどわくわくするんだ……自分の知らないことばかりで」


 エリザベスは未知との遭遇により不安や恐怖よりも心躍っていた。むしろ楽し過ぎてわくわくし過ぎて心と体がそれぞれ別々に勝手に歩きだしてどこかに行ってしまいそうなほどだ。


「ああ、わたしもわくわくしまくりだ」


 いきなりエリザベスの独り言に割り込んできた者がいた。その声はねっとりねっちょり厭らしいものだ。声だけではない。その者はエリザベスの背後からいきなり現れ、エリザベスの乳を捏ねくり回し始めていた。しかし、やはりそれは乱暴のそれであった。


「ちょ、なにしてるんですか魔王さん」


 乳を勝手に揉まれ額に血管が浮き出るエリザベス。ぶちぎれている、ぶちぎれてしまっていた。しかし、背後にいるので魔王はそれに気づくことはなかった。それが命取りであった。


「わたしは部下を労って――ぶへっひでぶっ」


 魔王はエリザベスの強烈な裏拳でその場から吹き飛び壁にめり込んでいた。怒りの鉄拳というやつだ、裏拳だが怒りがぎゅっと濃縮された一撃である。部下を労って乳を揉みしだく上司などいてはならない。


「わたしは乳を揉むのは好きだけど揉まれるのは好きじゃないの。それに魔王さん下手すぎ。それに形式上部下だけど気持ちは部下じゃないもの」


「ひ゛ッ゛、ひ゛どい゛!」


 連続否定に流石の強メンタルの魔王も涙を流す。しかし、魔王の顔はエリザベスの裏拳によって陥没しているので奇妙な涙の流し方である。


「ところで魔王様、俺はそろそろこの弱体化した魔王軍を立て直すため新たな人材をスカウトしに行こうと思うの」


 魔王は瞬時に陥没した顔を元通りにした。しかし、壁にはめり込み過ぎていてなかなか脱出できない。それもそのはず、魔王は見事なバストだけではなくヒップも持ち合わせているからだ。何とか抜け出そうとするのだがその度にばるんばるんとJKたちが揺れおどる。



「ああ、わかった。アテはあるのかな?」


 魔王は抜け出すのを諦めそのまま会話を続行した。抜け出すことよりもエリザベスとの会話が大事な魔王故である。魔王はエリザベスが「魔王」、「魔王様」、「魔王さん」と呼ぶのも聞きわけることができるし、エリザベス自身が「俺」と自称することも聞き逃さない。生粋のエリザベスマニアなのだ。


 魔王はエリザベスになら「このクソムシがッ」と呼ばれても、罵られても喜んでしまうのだが……。


「んー、ドライアドなんてどう? 近くに住んでいる御近所さんなんでしょ?」


 確かに近くに住んでいるらしいのだが、魔王軍でたくさんの者が辞める前でもこの種族を見たことがないエリザベス。 


「それなんだが……騒音トラブルで揉めていてな? 魔王軍には入ってくれるどころか敵対しているのだ……」


 まさかの御近所トラブルの定番――騒音トラブルである。殺し合いにまで発展する舐めてはならない問題の代表格だ。

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