30開脚目
女王……それは諸悪の根源ともいえる存在だ。女王は誰もいない自室にて目覚める。ゲームではあまりにも性格が悪いので部屋も悪趣味に飾り立てているものだとおもわれたがそうでもない。整理整頓された綺麗でそれでいて品の良さを感じさせる部屋だ。
小さな箪笥の上には写真立てが倒れた状態で置かれている。その箪笥の引き出しを開けて他の写真を一枚取り出す女王。
「はあぁ……あなたには苦労ばかりかけさせました……もうじきあなたの苦労が報われそうです」
手に取った写真をじっくりと見つめながらひとりごとを漏らす女王。その見つめていた写真を胸に抱く。
「今度こそエリザベスは終わり……こちらも予想外でしたが別方向に上手くいくとは……」
ひとりごとを遮るノックの音が部屋に響いた。ノックに呼応し女王は写真を元の場所にしまう。それも名残惜しそうに大事そうにしまった。その写真は他の人には見られたくないのだろう。
「女王様失礼します、お着替えの支度に参りました」
そのままメイドたちが部屋に入ってきて女王を着替えさせる。上流階級、それも女王となれば自分では着替えないようだ。正直、自分で着替えたほうがはやいと思うのだが、着替えさせてもらうということが上流階級にとってのマナーである。
メイドたちは手慣れており女王に失礼のないように配慮をしながら丁寧に着換えさせていく。流石はエリザベスの愛するメイドたちである。メイド喫茶にいるなんちゃってメイドでは、真のメイド実務はこなせない。だが、エリザベスはメイド喫茶のメイドも、実務をバリバリこなせる本物のメイドも等しく愛している。
そのまま仕事を終え計算されつくした綺麗な角度で頭を下げ、部屋を後にするメイドたち。
メイドが去ってすぐに、部屋の隅に怪しげな影が発生しそこから顔を出す何者かが現れた。顔を出すといってもフードでその顔は隠れており、はっきりと顔を見ることはできない。声も中性的であり性別さえもわからない。怪しさの塊である。
「女王様、報告があります」
「サイトウ、なにがあったかしら? きかせてちょうだい」
サイトウなる者は女王のために色々と情報収集をしてくれているようだ。名前も日本人のようでどこか怪しさを滲ませる。
「はっ! 新生魔王軍が誕生しました」
「なっ、なんですって? それはいったいどういうことなの?」
「魔王が女性でした」
「はっ?」
女王は素っ頓狂な声をおもわず上げてしまう。魔王がイケメンであるということは女王の耳にも入っていた。それ故驚くのは当然である。
「続けます。エリザベス姫が魔王軍四天王になりました」
「ふぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああーッ!」
先ほどの何倍も驚いた女王。その取り乱し方は尋常ではない。
なんとか深呼吸を数回することで平静を取り戻す女王。
「ちょ、ちょ、ちょっと『実はエリザベスは魔王軍側の者で人類の敵です大作戦☆』は必要なかったってこと? 本当に人類の敵になってどうすんのよッ! あの娘、鬼のように強いのよ? 闘技場の戦いは見たでしょ?」
魔王を倒すという使命を放棄して魔王のところにお世話になっているエリザベスの情報を事前に手に入れていた女王は、エリザベスが魔王の手の者だとでっちあげるつもりでいたのだ。
「ご、ご安心ください女王陛下。本当に敵になったのであればなんの憂いもございません。ただ滅ぼすだけでございます、数で押し潰すのです」
「そ、そうね、心配する必要なんてなかったわ」
女王たちはエリザベスの強さをまるでわかっておらず、勝手な憶測だけで物事を考えていた。エリザベスは闘技場での戦いの時よりも遥かに強くなっていることも知らずに……。
「そうして手柄をあの者のものとし、新たな英雄の誕生とするのです」
なにやらよくないことを企てている女王たちだが今度はうまくいくのだろうか。
「首尾はどうかしら?」
頷き質問をする女王。
「重畳でございます……といいたいところですがもうひとつご報告があります。竜王イデアルがなぜか魔王軍四天王に新しく加わりました」
「どひゃあアァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああッ! それをはよいえやーッ!」
竜王イデアル――人間からみればそれは生きる伝説そのものであり、魔王より強いと呼ばれる存在である。その竜王のこと自体は女王も知っていたらしく発狂せずにはいられなかった。
こうして女王の計画は破綻となった。竜王がいるとなると戦力が途方もなく足りないのだ。もっともエリザベスはそれよりも遥か高みにいるのだが……。




