3開脚目
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
姫は荒ぶっていた、自らの自室にて。己のたわわに実った果実を揉みしだきながら。
「ひゃっはーっ」
姫エリザベスの中身は龍二である。そんなエリザベスは自らの黒パンツを天高く掲げて振り回す。凛々しくかっこいい姫騎士はこのような下品な存在に成り果てたのだ。
「お労しや、姫様……」
専属メイドが涙ぐんでいる。
「め、めいどさんしゅきーっ!」
「ひ、姫様、おやめください」
エリザベスはメイドの果実も揉みしだく。聖也は前世、勿論メイド萌である。目の前にメイドのたわわな果実が実っていれば黙っていられない。しかし、メイドは泣き出してしまう。
「う、うっ」
「ごごごごご、ごめんっ」
「いえ、姫様が勇者様に振られてこんな様子に……わたしは勇者様が許せなくて」
「勇者……ああ……そうか……俺、いや、私がぶっ飛ばしてくる」
そう言うと姫は武装を整え勇者のいる宿屋に駆けて行った。頑張って自らを私と言うがなかなかに難しい。
一方、勇者はというと高級宿屋にいた。
「はあはあ、フィリア、どうだい気持ちいいかい?」
「あっあっあっ、ノロイ、すごくいいわっ」
そう、睦言の最中だ。激しく愛を語らっている。誰にも止められないほど熱く燃え上がっていた。
「はあはあ、フィリア、もういいだろ?」
「だめよ、ノロイ、あたし、まだ足りないの」
貪欲に求められ、ベッドは激しく軋み、ノロイは干からびそうになるまで絞り取られた。
「はあはあ、流石に限界だよフィリア……」
「もう、しょうがないわね。ところでノロイはエリザベスのこと好きじゃなかったの?」
「んー、恋してしまっていたんだと思う……僕は彼女と出会って勇者になれたからね。でもさ、もっと素敵な君に出会ってしまったんだよ。その瞬間、勇者になった時よりも景色が色付いて見えたんだ」
「まあ、ノロイったら、乗り換え早いんだから」
「ちょ、本当だって、君は僕を導いてくれるし、君がいたら迷わずに歩んでいける」
ノロイはフィリアにべた惚れである。堅苦しい姫騎士と違い、自由で開放的な感じのフィリアに惹かれてしまったのだ。そのままフィリアはノロイにキスをする。
「んっ」
未だに照れてしまうノロイ。
「でも良かったの? パーティから追い出してさ」
「君の言うとおりエリザベスは弱いんだよ。彼女はさ、魔法は何一つ使えないし、スキルも平凡だし、やる気だけでツッこんで傷だらけになって装備はがされてすぐに全裸になってさ」
エリザベスは弱い……それはまごうことなき事実だ。エリザベスはすぐに剥かれてしまって戦力にならずただのお色気担当でしかない。女騎士はお色気担当、そんなものは常識中の常識。その上位種といえる姫騎士ももちろんお色気担当だ。
「あたし、あの姫嫌いだけど、あんたもなかなか言うわね……」
「それに金銭感覚がなあ、なんでも手に入ると思っているし、いきなり店の食べ物を料金払わずに食べちゃうし」
エリザベスは姫なのでもちろん世間とのズレは少なからずある。正直、エリザベスはお金の数え方すら知らなかったほどだ。そんなお姫様と一緒にいるとノロイだってストレスが貯まるだろう。
「あー、あの子のそういうとこ無理だわ。恵まれていることにすら気付かない愚かなお姫様」
フィリアもスイッチが入ってしまっていた。フィリアはとても貧しい生まれなので、お金持ちが大嫌いなのだ。かんたんに言えば醜い嫉妬というやつだ。しかし、ノロイもフィリアもなにもわかっていない。実はエリザベスは姫のなかでは全然恵まれていない人物なのだ。王位継承権最下位であるため王位継承権はないに等しいし、ド不細工と政略結婚させられそうになるし、なぜかどこからともなく暗殺者がやってくるし……と数えきれない不幸を抱えている。
「まあ、エリザベスは僕たちの真の仲間じゃなかったんだよ」
「それに、あたしが真のヒロインだったしね」
ふたりで追放した――パーティから追い出したエリザベスをボロクソに叩きまくる、叩きまくる、叩きまくる。その合間にちゅっちゅっしまくるバカップルのノロイとフィリア。
『おい、てめーら、いいのこすことはそれだけか?』
高級宿屋の最上階のノロイとフィリアのいる部屋の窓から突如として声が聞こえた。殺気がこれでもかというほど込められた声だ。
「なんだ?」
ノロイがその言葉を口にした瞬間、窓を突き破り何者かが侵入してきた。
「あんたか、エリザベス!」
敵意むき出しのフィリアは、エリザベスを激しく睨みつける。
「貴様ら俺…私の悪口はそれだけか、極刑処す!」
しかし、怒り狂ったエリザベスは殺気の塊だ。そんなときでも気合で俺から私に言い直す。
「なんだいエリザベス、追放された逆恨みにかい? それとも僕に振られた逆恨みかい? どちらにしても姫の立場を利用して極刑って馬鹿じゃないのかい?」
ストレートに心を抉る言葉を投げかけてくる勇者。だが……。
「うるせーチンパンジーども、使えるものは使ってなんぼじゃ、貴様らのような盛りのついたチンパンジーごときじゃ魔王は倒せず死ぬだけだから、公衆の面前で俺様が……捻りつぶしてやる!」
ついに怒りが頂点に達したエリザベスは、俺から私に言い直すこともできず、それどころか俺様キャラになってしまった。
「何を言っているのよエリザベス、あなた頭おかしくなったの?」
「おかしいのはてめーだろ雌豚! おまえよう、さんざん人殺ししておいて聖人づらしてんじゃねえぞこのアバズレがあああ! つか、てめえ、俺、いや、私の暗殺にきただろうがっ、この犯罪者がっ! 罪のない人間たちの命をどれだけ奪ったんだ、このごみくずがっ!」
「ちょ、あ、あ、あれは仕方なかったの、あ、あたしの行いは正義なの!」
「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そうだよ、フィリアは正義なんだ、特別なんだよ!」
エリザベスの言葉に対して言い訳をするみっともないノロイとフィリア。
「言い訳してんじゃねーぞ、このダボがっ! 貴様らは闘技場でボコボコにしてやんよ」
「はあ? 正気かい? 君みたいな弱くてパーティから追い出された者が僕たちに――」
「――いいわ、その勝負受けてあげる。あたしたちが勝ったら、あたしの罪も問わないし、もう関わらないって誓ってもらえる? それにお金もたっぷりちょうだい」
ノロイの言葉を遮りフィリアが同意をし、かつ、条件をつけてきた。
「いいだろう、首を洗って待っていろ」
エリザベスはフィリアの言葉に同意をしてから、侵入してきたところからダイブして去っていく。
「ちょ、ここ何階だと思っているんだよエリザベス!」
ついついツッコんでしまうノロイ。
「ノロイ、そんなことはどうでも良いわ。それよりさっきの話、あたしたちにチャンスがきたのよ。姫は怒りでいっぱいになって冷静な判断もできず言葉づかいまでおかしくなってたじゃない? ただでさえ弱くてあたしたちに勝てないのに」
「フィリア、僕たちが楽勝過ぎて辛いよ。あっはっはっはっ。これでも元仲間なんだから手加減してあげないとね」
「闘技場で嬲り殺してやる。あたし、お金持ち嫌いなのよね」
ノロイの言葉な耳に入っていないフィリアなのでした。自分の殺人は特別であって罪に問われないと思い込んでいるのがフィリアだ。そもそもフィリアははじめからエリザベスのことを仲間などとは思ってはいなかった。いつ消してやろうかと思っていたのである。