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28開脚目

 隕石が空を覆う少し前のことだ。魔王と竜王に置き去りにされてしまったエリザベスは優雅に紅茶を飲んでいた。落ち着き過ぎだろうといいたくもなるが決して落ち着いているわけではない。


「もー、まったく置いていくんだから」


 なんだか少しだけ拗ね気味である。


「それにしても魔王さん……ストーカーだったなんてびっくりよ……」


 ここで紅茶を口に含み喉を潤す。


「まあ一番の驚きはイケメンで有名な魔王が女の子だったってことなんだけど……これから今まで通り魔王さんと付き合っていける、関わっていける自信ないんですけど……」


 必死に落ち着こうと冷静さを保とうとするのだが手に持つティーカップがガタガタと震える。ストーカーかつ女の子だった魔王にゲームの時の幻想や憧れを完膚無きまでに叩きのめされたからだ。


「あっ! あの時すり抜けて逃げるべきだったわ……」


 冷静さを欠いていたせいで自らがすり抜け出来ることすら忘れてしまっていたエリザベス。それさえ忘れなければこうはならなかったかもしれない。あの時ああしていたらこうしていたらなどは後の祭りでありただの後悔である。


「どうしよう……このまま逃走したいんだけど」


 何もかもが面倒になってきたエリザベス、ひとりごとも辛くなってくる。しかし、イデアルを置いていくわけにはいかないのでなんとか思いとどまる。イデアル達に置き去りにされたのはエリザベスの方なのだが……。


 あれやこれやと悩んでいるうちに外からの光が隕石のせいで遮られ極端に少なくなり、これによって窓をみたエリザベスは外の状況に気がついた。


「ありゃりゃ……これは大変! さてはイデアルだなあ、もー周り吹き飛んじゃうでしょ」


 そういうと紅茶を飲みほし窓を開け〈M字フライ〉で飛び立った。これはM字開脚の力で飛翔を可能とするエリザベスのバグ技だ。この世界では技として扱われるのだがなによりはやいのが特徴の技だ。あっという間にイデアルと魔王のふたりの場所へと到達する。


「おいッ! 貴様ら何やってんだアァぁぁぁああああああっ!」


 エリザベスは魔王たちがみえたときそのように叫んだ。その叫びと共に一瞬で距離を詰めエリザベスは煌めく星のごとく〈流星クレイジーコメットパンチ〉をイデアル、そして魔王の順に頬に的確に叩きこんだ。この技は超速度に達したらどのキャラクターでも使用できる技なのだが、まずそんな速度にまで達することは困難である。エリザベスの場合はバグ技を介在しない限り不可能であった。


 重すぎるパンチをもらったふたりは高速回転しそのまま頭から真っすぐ地面へと突き刺さった。


 仲裁にしては一撃が重すぎる気がするのだが手加減できるほどの余裕がエリザベスにもなかったのだ。


「〈プリンセス(キャノン)〉」


 エリザベスは空を覆いつくす隕石に対し両手を合わせ突き出す。するとみるみるうちに肩から指の先まで電磁加速砲(レールガン)のような姿と化した。あまりの大きさに態勢を崩しそうになるエリザベスだがなんとか持ち堪える。日頃のM字開脚で足腰が鍛え上げられたおかげだろうか。


 その電磁加速砲(レールガン)のようなものには光が明滅しながら集束し始める。異音も発生し、辺り周辺の大地も裂けはじめた。それほどの高エネルギーが集まってきているのだ。


「はっしゃあああぁぁぁぁぁぁぁああああッ!」


 エリザベスの電磁加速砲(レールガン)のような砲門からは集束したエネルギーが一気に射出され、激しい閃光と共に全ての隕石を一瞬で打ち抜いた。音が遅れてやってくるほどの事象だ。魔王があれだけ苦戦した隕石もエリザベスにかかればなんてことないようにもみえた。だが、隕石たちは爆発しその爆音と一緒に隕石の欠片たちが地上に流星群のように降り注いだ。


 隕石を欠片にすることによって近隣への被害を最小に抑えることには成功したが、被害をゼロにすることはかなわなかった。被害といっても魔王城はバリアのおかげで無傷である。無傷といってもリリィや魔王が壊したところはあるが。もしも魔王城の上空で隕石を落とされていたらと思うとゾッとする。


「ほーらふたりともいつまで垂直に綺麗に突き刺さってんの?」


 肩から指の先までの両腕を元に戻したエリザベスは地面に突き刺さったまま微動だにしなかったふたりを引っこ抜いた。ふたりは意識はないが辛うじて生きていた。魔王と竜王のふたりが生きていること確認しほっとするエリザベス。


「ちょっとふたりともいつまで寝ているの?」


 軽めの往復ビンタをふたりにしてみたが一向に起きないのでとりあえず魔王城に連れて帰ることにするエリザベス。エリザベスは両脇にそれぞれを抱え、歩きながら魔王城へと向かっていった。

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