26開脚目
リリィが去った部屋にはわずかな沈黙の時が訪れた。
しかし、そんな状況が長く続くような場所ではない。
「ふんーっ!」
沈黙を、静寂を破ったのはイデアルのブレスである。それもただのブレスではない。鼻息ブレスだ。その鼻息ブレスの火力は控えめではあるがピンポイントにエリザベスの写真たちを燃やし尽くしていく。イデアルとなかなかに近い距離にいたはずの魔王だが妨害する隙を全く与えてはもらえなかった。流石は竜王といったところか。
エリザベスはこんな状況ではあるがそんなイデアルの技をみてほっこりとした。
――竜王って鼻から火炎出るのね。
「ななななっ、なんてことをするんだ貴様ッ! わたしのエリーコレクションが……」
膝から崩れ落ちる魔王。
「きもかったからつい」
なぜか照れながら答えるイデアル。それに呼応し無数の血管が切れる音が魔王から響き渡る。
「もう許さんぞ……トカゲエェェェェェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエッ!」
魔王は叫び声と共に膨大な魔力を噴出し、そのままイデアルを掴むと天井を破壊しながら飛び立ってしまった。
そうしてポツンとただひとり取り残されてしまったひと――エリザベス。
「えっ? わたしは?」
天井にぽっかりと空いた穴を見ながらどうしたら良いのか漠然とするエリザベス。
なんとか無理に納得しようしたエリザベス。しかし、ひとり取り残されるというのは虚しいものだ。
そんな虚無感に包まれていたエリザベス。途方に暮れていたら遥か上空から激しい戦闘音がエリザベスのいる部屋にまで届いた。
魔王城の真上、かなりの高さまで飛び上がった魔王はそこでイデアルを放り投げる。イデアルはこの城に来た時、人型では全く飛ぶことが出来なかったのでジタバタと空中でもがく。
「はっはっはっ! まさしくトカゲだな。空すら満足に飛べんのか」
煽る魔王。そんな魔王は翼すら必要とせず空中に浮遊してみせる。腕を組みあきれた様子だ。
「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」
だが、そんな煽りにもろともせずイデアルは何やら力み続けている。
「うぅぅぅぅおぉぉぉぉおっー!」
力み続けた結果、背中から翼が生えてきたイデアル。
魔王城に来てからエリザベスと一緒にお風呂に入って背中を洗ってもらっていたイデアルは、「あれ? 背中になんか出てきているよ」とエリザベスに言われ翼が生え始めてきたことを知っていたのだ。それからというもの毎日必死に力み続けていた。そうして今、念願叶って立派な翼を人型でも手に入れることが出来た。
「これで戦える!」
「ふっ、巣立ったばかりの雛鳥のようなものだ――」
「――どーんっ!」
「かはっ!」
しゃべっている途中の魔王に対して豪快な先制頭突きをお見舞いするイデアル。頭突きによって魔王はむき出しの胸部――JKをブルンブルンッと弾ませる。せめておっぱいを隠しながら戦うという発想はこの魔王にはなかったのだろうか。それともサラシで隠し続けたせいで露出したくて仕方がなくなってしまったのだろうか。
――これがただの頭突きだと……意識が飛びそうだ……。
「いぇーい、勝利のピース」
「きっ貴様、まだわたしが話している途中だろうがッ!」
勝手に勝利宣言しているイデアルに対し、話している最中攻撃されたことに怒りを露にする魔王。
「そんな生ぬるいこと言っているから我には勝てない〈ドラゴン・ブレス〉」
そのまま立て続けに攻撃を連発するイデアル。裏ボスの圧倒的火力を人型状態の攻撃でも完璧に再現してくる。これにはラスボスである魔王とて相当なダメージを負うはずなのだが……。
魔王を包む火炎が空気中に散っていき、魔王の姿が現れた。
「そ、そんな……そのポーズ、技はッ!」
イデアルは驚き目を見開く。
「何も驚くことはあるまい? いとしのエリーを見続け彼女を感じることに命を捧げたわたしだからこそ出来る究極の技だッ!」
イデアルが驚いたわけには正当性があった。それは見覚えのあるものであり、かつ、よく知る人物の得意とするものであったためだ。
「M字……開脚だとッ……」
魔王は空中に静止し綺麗なM字開脚を披露していたのだ。これによってイデアルのブレスを余裕で耐えたのだろう。
イデアルの既視感の正体はここ最近一緒にいたエリザベスの凶悪なM字開脚からなる技を知っていたためである。




