21開脚目
エリザベスに声をかけてきた謎の人物……それは……。
「ま……魔王っ!」
エリザベスはその人物を声に出して言っていた。冷静さを欠いているエリザベスは魔王に対し、様だの、殿だの、さんをつけるのを忘れてしまっているほどだ。魔王と言うと同時にその人物から距離を数歩とった。あまりにも近すぎたからだ。
しかし、よく考えてみればここは魔王の寝室。魔王がいてもまったく不思議ではない部屋なのだ。それではなぜエリザベスは呼吸が荒くなり、大粒の汗が出て、目を見開き血走ってしまっていたのか。いわゆる冷静さを欠く状態に陥ってしまっていたのか。
答えはこの部屋にある。それは明白であった。一目瞭然ということばが最も適切である。なぜなら……。
「ど……、どうして部屋中にわたし──エリザベスの写真が張り巡らされてくぁwせdrftgyふじこlp」
エリザベスは呂律すら回らなくなっているありさまだ。それは無理もないだろう。部屋中に自分自身の写真が貼られていた光景を見てしまえば……。まさに信じがたい光景である。
そもそもなぜ魔王がエリザベスの写真を貼っているか、さっぱり心当たりがないのだ。エリザベスがバリアに挟まっている時に、魔王がやたらと人の臀部を舐めるかのごとく撫でまわした変態魔王だとしてもだ。
エリザベスの言葉に反応して魔王が一歩、また一歩と距離をジリジリと縮めてくる。それに呼応してエリザベスの方は魔王を視界に捉えたまま一歩、また一歩と後ずさりする。そうしなければいけないと思うエリザベスであった。
だが、後ずさりには限界があった。物語のはじまりもあれば当然終わりもある。
そう、壁である。エリザベスの背中には自らの写真が貼られまくったあの壁がぶつかる。壁にぶつかると同時にエリザベスと魔王との距離はぐんぐんと縮んでいった。
そしてエリザベスの眼前へと迫った魔王。それを回避しようと魔王の右側に出ようとしたエリザベスだったのだが、魔王の長い腕がどこぞのゴム人間や太陽の神のごとく伸びて壁にまで到達し右側からは抜け出せなくなった。厳密には腕が伸びているように感じられたのだ。
この状況──いわゆる壁ドンである。壁ドン、それは片方の人がもう片方の人を壁に追い詰めて壁に手をあて強引に迫ってみせることである。
右側が塞がれてしまったエリザベスは仕方なく左側から抜け出そうとするもそこにももう片方の魔王の腕が伸びてきて退路を断たれてしまった。ダブル壁ドンである。エリザベスにはあまりの恐怖に魔王の腕がまたしても伸びているように感じられた。壁ドンというより“壁ドゥーン”である。
「逃げなくたっていいじゃないか、いとしのエリー。わたしはこんなにも愛しているというのに。この写真かい? 愛しの人を部屋中に散りばめ、できる限り感じたいというのは誰しもが想うところじゃないのかな?」
魔王のカミングアウトである。どうやらエリザベス愛しているらしい。なんだかどことなく聞き覚えのある曲名のような呼ばれ方をされてしまうエリザベス。
魔王を呼び捨てにしてしまったエリザベスではあるが、魔王の方もエリザベスをエリーと呼んで尚且つ呼び捨てになっている。おそらくはこの部屋を視られたからだろう。いろいろと吹っ切れたのかもしれない。
「そそそそそそそそもそもー、あなたにー、愛されるー、覚えがまるでないのですがーっ!?」
冷静さを欠き混乱しきってしまったエリザベスは話し方すらおかしくなっていた。
「何をいうか! あれは運命の出会いだったのだ……愛するには十分なほどに……」
「えっ? わたしがバリアに挟まっていた時のあの出会いが?」
エリザベスは思考が全く追いつかなくなっていた。バリアに挟まっていた自分に惚れる要素などないはずだからである。




