20開脚目
朝目覚めたエリザベスはやたらと肌が艶々しており、表情は満たされた者のそれであった。それに対してイデアルは未だ目覚めておらず、苦しそうな、それでいて気持ち良さそうな表情をしており、かつ、全身は干からびたような姿であるにも関わらずベトベトになっていた。
いったいふたりになにがあったのだろうか。だか、そんな野暮な問いをする者は誰も存在はしない。
「ふぅー昨日はたくさん充電できたわ。ちゅーちゅーふぇすてぃぼーのおかげね」
エリザベスの独り言の“ちゅーちゅーふぇすてぃぼー”とはいったいなんなのか。艶々した肌を手に入れ、大人の階段を登ってしまうようなそんななにかである。
「それにしても相変わらずイデアルはおかしい……。もう一度魔王さんになんか聞いて……はっ?」
エリザベスはついに気づいてしまった。イデアルがおかしくなった理由に。しかし、それはまだ仮説の段階ではある。
「いっ、イデアルは魔王城で謎のお、も、て、な、しを受けてからおかしくなったような……」
事実としてここに来てからおかしくなった。ここにくる前のイデアルはコロコロ様子が変わるようなドラゴンではなかった。
――そもそもはじめて魔王と会った時、俺がバリアに挟まってる時いやらしい手つきで触ってきたような……
思い出して身震いをするエリザベス。魔王という変態に恐怖を覚えた。自らがそれを超えうる変態だということすら忘れて……。
さらに魔王に対して思慮をめぐらせるエリザベス。そうしてあることを思いつく。
――魔王の自室にはもうひとつ部屋があったな。ゲームではあそこには入れなかったからとても気になる。そこに侵入して情報を探ろう。
ゲーマーだったころの血が騒ぎ出してしまったエリザベスはすぐさま着替えて部屋を飛び出した。着替えてとはいってもゲームのころのように一瞬で装備を変更できるため恐ろしく迅速である。
しかし、エリザベスはどのようにあの部屋へと侵入するのだろうか。そう簡単には通してくれそうにはないあの部屋へ。
エリザベスは、魔王の例の部屋の真下と思しき場所に到着し、勢いよく飛び上がりすぐにあのスキルを発動させる。
「〈スリップ・スルー〉」
これである。さんざんイデアルを苦しめたあのスキルだ。このスキルはあらゆるものを透過することができる。透過する、すり抜けることができるということはダメージを受けることはなく無敵に等しい。戦闘面では確かにそうだ。
だがこのスキルの凄さは戦闘面以外にもとても使えるという点だ。
魔王の例の部屋の真下で勢いよく飛び上がり〈スリップ・スルー〉を発動したエリザベスはそのまま天井をすり抜けたのだ。このように侵入や偵察にもってこいのスキルである。
順調にすり抜け例の部屋へと侵入を果たすエリザベスであったがそこは寝室であった。魔王という立場もあってその部屋はこれでもかというほど広く、そして豪華であった。
しかし、エリザベスはその豪華さに気づくには至らなかった。他の者が見ても豪華かどうかより気になる光景が広がっているためだ。
次第に眼前の光景によってエリザベスの呼吸は荒くなり、たくさん発汗し、目は見開かれ血走っていた。ちゅーちゅーふぇすてぃぼーで充電したものは空になっていると言っていいだろう、エリザベスは倒れてしまいそうになっている。
「こんなところにおられたのですね、エリザベス殿」
急にエリザベスに誰かが声をかけてきた。エリザベスは恐る恐るゆっくりと声がしたほうへ顔を向ける。そこにはエリザベスの背後にピッタリと張り付いたあの人物がいた。




