18開脚目
「はあはあ、ちょっ! もういいわよ! アンタいつまで吹いてんのよ」
「お風邪を――」
「――引かないわよっ!」
どうやらリリィは風邪を引かないらしい。エリザベスの調査不足である。リリィに振り払われ、リリィの胸元からエリザベスの手が離れる。それによって名残惜しそうな表情になるエリザベスだが、名残惜しそうな表情だけに留まらず絶望の表情を浮かべる。まるで天国から地獄へと叩き落された天使のようだ。
「ちょっとアンタ……さっきのコト……言わない……って何やってんのよっ?」
リリィの眼前にはクラウチングスタートをして今にも飛び出しそうなエリザベスがいた。歴戦の戦士というよりは一流のアスリートという美しいフォームだ。このロケットスタートを許してしまえばリリィにとっては悲しい結末になるだろう。
「えっ? 何って? そんなこと決まってるじゃないですか。魔王様に先ほどのリリィちゃんが言っていたことをお伝えに行くんですよ」
いじわるな顔つきとなったエリザベスは淡々とこたえた。
「えっ?」
「先ほどの『犬のしょんべん』の件についてですよ。これはお伝えせねばいけません。ではっ」
「ちょっまっ、ちょまって、ちょっまてよっ! うわああああああああああああぁぁぁぁぁあっ!」
リリィは次第に荒々しくなりエリザベスに抱き着き全力で阻止を試みる。
「邪魔しないでいただけます? ふん、ふん、ふんっ」
エリザベスのレベルは最大である。それに対して魔王軍四天王ではとてもではないが止められるようなものではない。エリザベスはクラウチングスタートを解いて、リリィを引き摺ったままドアまで歩きドアノブに手を掛ける。
「まっ、まって、あたしが悪かったからっ! 謝るからっ! まってよ、本当にっ、酷いことたくさん言ってごめんなさい……」
その言葉に反応してエリザベスはリリィの顔をずいっと覗き込む。リリィはエリザベスのその行動に恐怖を覚える。
「そ、れ、だ、け、ですか? ちゃんと償ってください」
「えぇーっ、償うって一体どうすれば良いっていうの?」
エリザベスの要求の内容や意図が掴めず半泣きになってしまうリリィ。魔王軍四天王の威厳はどこにも存在しなくなっていた。
「そうねえ、私と一緒にお風呂に入って、一緒にご飯を食べて、一緒に寝てくれたら許します」
「えっ? そんなことでいいの? ほんとにほんとっ? 嘘じゃないっ?」
明らかに疑ってかかるリリィ。そんなにエリザベスは怪しいのだろうか。
「もちろんですよ、私はリリィちゃんと仲良くなりたいの。だからもっとあなたのことを知りたいんだよ」
「え、あ、うん。わかったわ。あなたの言う通りにするわ。だから魔王様に言っちゃだめだからねっ?」
「フヒヒっ、ありがとうございます。もちろん言いませんよ。あなたと仲良くなるのが楽しみで仕方がありませんよ」
邪悪な笑みを一瞬浮かべたエリザベスだが、その決定的瞬間を見逃してしまったリリィは、今後大変なことになるなど予想だにしなかった。




