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第1話 点対称な2人

いきなりだが一つ馬鹿にせず真剣に考えてくれないだろうか。


 問い、陽キャとは何か?


 何を持って陽とするか陰とするか。その判断基準は人それぞれであり、明確に定まることはないのだろう。学校に友達が50人いればいいのか、それとも一軍というクラスのカースト上位に立てばいいのか、もしくは彼女を作ればいいのか。討論すればするほどこの曖昧あいまいな問いに答えは出ないかもしれない。  


 だが俺は聞き方さえ工夫してくれれば答えは導き出されると考える。それは自分の存在が世界にとって光であるか、影であるかだ。

 この光というのは世界にとって好影響を与える存在、影というのは悪影響を及ぼす存在を指す。この双方で俺という存在を比べた際、間違いなく影である。


 なぜそこまで悲観ひかんするかって?それは俺という人間が社会に出た時どうなるのか。自分の将来について深く考えているからだ。

 なぁ、今ボーッとした顔で俺の話を聞いているそこのお前。お前は将来の自分を具体的に想像したことがあるか?身近にいる大人が当たり前に働いてるのを見て、将来自分もそいつらと同じように働く姿を無意識に想像していないか?


 悪い。責めているわけじゃないんだ。実際俺もつい最近まで同じだったし、むしろ誰よりも将来安泰という言葉に依存している人間だった。けれど同じく最近に俺は人生に保証された明日などないことを痛感した。


 シェフを目指し入学難関の専門学校に通っていた俺も、家庭事情により今じゃ1番家に近く学費も安い公立高校に入学。世界一の料理人を目指していた俺からしたら人生転落もいいところだった。


 しかもその公立高校というのが‥‥


「ひゃっほーーう!!パイブスぶち上げて行こうぜぇぇぇい!!」

「いえぇぇぇぇぇぇいい!!」


 ‥‥なぁお前ら。これは陽キャ判定でいいんだよな?とりあえずさばいていい?


▼▽


「だーめ。パス」


「そんな!!私はあの帝都大学商業部を卒業しています!!必ずや貴方を芸能界の頂点に‥‥え?」


 気がつくと男が座っていた両脇にイカつい大男が立っていた。喚きあげる声も残さず黒い高級スーツに身を包んだその男は玄関へと放り出された。


「今の男はよかったんじゃないの?帝都大学って言ったら芸能界でも名のあるプロデューサーやディレクターが輩出されてる。不足はないと思ったけれど」


「うーんなんていうか。雰囲気?オーラ?もう自分しかいないでしょみたいな感じが気に入らなかったかな。どこの大学出てるか知らないけどそんなの現場に出て揉まれて経験してみないとわからないのにさ」


 ふぅっと息を吸って大きなため息を吐いたのは黒いスーツに身を包んだ凛とした女性だった。


「もう社長ったら。ため息吐いたら幸せ逃げちゃうんですよ?これでさらに結婚から遠ざかりましたね」


「さらにってなによ!!やかましいわ!!こう見えて私はね!!数多の男達から縁談の話来てるんだから」


 フンッと鼻を鳴らす社長に対して苦笑いを浮かべる初華。縁談の話が持ちかけられているのは本当なのだろうが、おそらく全部結婚期を逃した地元の男達からのものだろう。じゃなければ面食いの社長が今もこうして独身でいるはずがない。


「まぁそんな話はどっか飛ばして」

「飛ばしちゃうんだ」

「‥‥飛ばしておいて!!そんなことよりそろそろ決めなさいよ貴方の専属マネージャー。あの男で最後だしもう落とした中から引っ張ってくるしかないわよ?」

「えぇー‥‥あ!そうだ!」


 眉間みけんしわを寄せあからさまに嫌な顔をすると、パッと曇った空が晴れたように表情が明るくなった。ただ初華がこの顔をするときは決まって無茶振りをされると一ノ瀬プロダクション社長である一ノ瀬千夏は知っている。何故なら30人の少数精鋭をかき集めたマネージャー選出のオーディションも彼女の気まぐれがきっかけで行われたのだから。

 

「なによ、まさかまたマネージャー候補を集めろなんて言わないわよね?」

「違う違う!私の学校にいないかなって思って!」

「いないかなって‥‥マネージャー!?」


 どうだ!いい方法でしょ!などと言いたげな顔をしているが一ノ瀬には関係ない。何故ならこちらのポケットマネーなどとうに尽きているからだ。


「これ以上情報を仕入れるお金は残ってないわよ?」

「大丈夫大丈夫!私の偏見と価値観で決めるから!」

「なにが大丈夫なのよ。貴方の気まぐれ偏見と価値観なんて信頼できないわ」

「えー絶対大丈夫なのに‥‥それに決めるのは私なんだから大して変わらないでしょ?」

「貴方ね‥‥」


 今年デビューしたアイドル、一角初華。同年代のアイドルやアーティストを一蹴するキレのあるダンスや高い歌唱力を誇る超新星。最近では音楽番組だけでなくバラエティにもオファーがかかり絶好調の中、素性の知らない輩に彼女を託すことなどできるわけがない。だからこそ一ノ瀬は学歴や経歴、両親との関係などあらゆる情報を調べ、任せるに値する人間を選んでスカウトした。それを全て気まぐれで捨てた初華には本当に手を焼かれる。


「まったく、決めるのは貴方に任せるけど最終的な決定は私が下すからね。貴方はあくまで候補を見つけるだけ。OK?」


「OK!!」


 元気よく両手で丸を作って返事を返す初華。長く芸能界にいるとテレビの顔と素の顔を使い分ける子がいるがこの子の場合は性格上馬鹿正直で裏表がない。それがこの子の長所でもあり、短所でもある。

 それにしても高校から見つける、か。もし下心丸出しでこの子に近づいてくる輩でも連れてきたら私が潔く介錯してあげよう。


 なんにせよ、明日から初華のアイドル活動は自粛じしゅくとなる。久しぶりの登校だし2ヶ月の短い学校生活になるけれど彼女にとってリフレッシュできる日々になることを祈ろう。


 

 


 

 

 

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