第七話:聖女パーティのダンジョン攻略
【☆★おしらせ★☆】
新作が日間ランキングで戦っているため、ちょっと更新が遅くなってしまい、申し訳ございません……っ。
そちらが落ち着いたら、聖女様の更新もガンガン掛けていくので、もう少々お待ちいただけると嬉しいです!
また今回、あとがきに『とても大切なお知らせ』があります!
どうか最後まで読んでいただけますと幸いです!
ルナ・ゼル・ラムザの一行は、聖女の黒歴史を回収し、ついでに教皇ウェンブリーたち聖女教の面々を救出するため、レオナード教『神魔合一派』の本拠地がある天楼山に赴いていた。
「ふむ、ここが天楼山か……(おぉー、綺麗な山だなぁー)」
麓に立ったルナは、美しい山並みに感動する。
天楼山は標高3000メートルに届く巨峰。その頂には白い雪の冠があり、斜面には豊かな緑が青々と茂っている。
「レオナード教の本拠は、山の『内部』にあるとのことだが……。こんな美しい山を刳り貫くとは、まったく無粋な奴等だ」
自然と共に生きる獣人として、ゼルは不快感を顕わにした。
「この小川を遡った先に、天楼山内部へ続く入り口がある」
斥候役のラムザは、地図を片手に先頭を歩き、ルナとゼルはその後を静かに続く。
それからしばらくの間、川の流れを遡っていくと、遥か前方に小さな洞窟を発見した。
「あそこだ」
ラムザが位置を指し示すと、ルナとゼルがジッと目を凝らす。
「ふむ……見張りはいないようですね」
「おそらく、聖女教から本拠を守るため、山の内部へ戻っているのでしょう」
周囲にレオナード教徒がいないことをしっかりと確認してから、洞窟の入り口まで移動。
斥候としてパーティを先導するラムザは、コホンと咳払いをして注目を集めた。
「これより先は文字通り、『敵の腹の中』だ。洞窟内には危険な罠が張り巡らされ、邪法で生み出された魔獣たちが闊歩している。『難関ダンジョンに臨むような心持ち』で、油断せずに進もう」
彼が気を引き締めるようにそう言うと、
「えぇ、もちろんです(ゼルと一緒にダンジョン攻略なんて、三百年ぶりだなぁ……。ふふっ、なんか楽しくなってきたかも!)」
「無論だ(まさか再び、聖女様とダンジョンに挑める日が来ようとは……。ふふっ、長生きはしてみるものだな)」
昔を思い出したルナはワクワクと心を躍らせ、ゼルはほっこりとした温かい思いを抱き、むしろ緊張が緩んでしまった。
そんなことは露知らず、
「伝説の聖女パーティのダンジョン攻略、勉強させていただく」
馬鹿真面目なラムザは一人、とても真剣な表情を浮かべる。
(レティシア様は、おそらく私のためを思い、斥候役に推薦してくださった……。『陰の英雄』シルバーと『大剣士』ゼル・ゼゼド、この大英雄たちと行動を共にすれば、きっと多くの学びがある!)
ゼルはともかくとして、ルナから学べることは何もない。
ラムザが使命感に燃える中、ルナは不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ、仕方がありませんね。我等聖女パーティのダンジョン攻略が、いったいどのようなものか……特別にお見せいたしましょう!」
聖女様、煽てられるのにめちゃくちゃ弱い。
(あぁ、気持ちいい……っ)
自分が教師役というあり得ない現実、これがとてもいい気分だった、物凄くいい気分だった。
(ふふっ、ラムザさんにはかっこいいところを見せなきゃだね!)
いつにも増して気合十分なルナは、早速この場を仕切り始めた。
「ラムザ殿、<天盤>で、天楼山内部の索敵をお願いできますか?」
「あぁ、もちろんだ。――<天盤>」
ラムザは目を閉じ、広域探知魔法を展開、拠点内部の情報を解析していく。
「ふむ……各地で小規模な戦闘が起きているな。おそらくは聖女教徒とレオナード教徒が衝突しているのだろう」
体に大きな負担が掛からないよう、探知円をゆっくりと拡大していき、最下層に到達したそのとき、
「こ、これは……っ」
ラムザの顔付きが、途端に険しくなった。
「どうした、何か見つけたのか?」
不審に思ったゼルが声を掛ける。
「最下層に……『化物』がいます……っ」
「化物?」
「なんなんだこの魔力は……っ。人間とも魔獣とも魔族とも違う、不気味で不安定な魔力……。だが、恐ろしく強い。『蟲壺』を解放したナターシャと同等、いやそれ以上だ……ッ」
「ふむ……(ナターシャ以上、それは厄介だな)」
ゼルは警戒を深め、
「ふむ……(ナターシャ以上、それって……強いの、かな?)」
ルナは疑念を深めた。
それぞれの思いが錯綜する中、ひとまず洞窟の奥へ進んで行く。
そこには『レオナード教徒の本拠地』というだけあって、侵入者迎撃用の罠が大量に張り巡らされていた。
しかし、『超一流の斥候』であるラムザ・クランツェルトがいれば、なんの問題もない。
「――シルバー、前方の床に罠が仕掛けてられているぞ」
「うむ、了解し……あれ?」
今しがた教えてもらっていたにもかかわらず、うっかり罠を踏み抜いた聖女様は……背後から大量の毒矢を食らう。
「くっ……二重トラップか」
当然のように無傷な彼女は、適当にそれっぽいことを言って誤魔化した。
それからしばらくして、ラムザの鋭敏な聴覚が、魔獣の荒々しい呼吸音を捉える。
「――シルバー、北東の大岩にゴブリン三匹が潜伏しているぞ」
「承知した(北東……? 上→右ってことだよね)」
悲しいかな。
未だ方角を理解していない聖女様は、誰も潜んでいないただの岩を警戒し、
「お、おい、そっちじゃないぞッ!?」
ラムザの忠告も虚しく、
「えっ? うわったぁ!?」
背後からの不意打ちを受け、棍棒の三連撃を食らってしまった。
もちろん無傷な彼女は、すぐに光速の拳で三匹を処し、
「ふぅ……油断ならんな」
再びそれっぽいことを言って、なんとか誤魔化そうとするのだった。
そうして順調に深部へ進んで行く中……卓越したルナ眼が、前方30メートル先にとあるブツを見つけた。
(あっ、宝箱だ!)
聖女様、ダンジョン内の宝箱に目がない。
彼女は基本的に物欲が薄く、何かが欲しいというわけではないのだが……。
宝箱を開けるときの『ドキドキ感』、とにかくアレが大好きだった。
(ゼルもラムザさんも気付いてないっぽいし、私がいただいちゃおうっと!)
まるで蝶々に魅せられた子どものように、ルナはなんの迷いもなく、あからさまに怪しい宝箱へ猛進する。
「あっ、おい待てシルバー! それはどう見ても罠――」
「え?」
聖女様が宝箱をがっしりと掴んだその瞬間、<警報>の魔法が起動し、けたたましい音が響き渡る。
「『裏の裏のそのまた裏』、か……」
ルナは意味深に呟き、
「どうやらそのようですね」
ゼルはそれに同意し、
「……いや、どう見ても罠だったが……」
ラムザは唖然とした。
「罠に見えるものが、案外そうではないということもある。例えばこの宝箱だって、もしかすると――」
ルナが無謀にも宝箱の蓋をガチャリと開けたその瞬間、凄まじい大爆発が吹き荒れた。
「……まぁ、ハズレか」
「残念でしたね。次を探しましょう」
あまりにも緊張感のないルナとゼルに対し、ラムザはツッコミを入れざるを得なかった。
「ぜ、ゼル殿……これはいったいどうなっているのですか? さっきから問題だらけですよ?」
「ふっ、若いな。我等聖女パーティの冒険は、(聖女様のミスで)いつも困難に満ちていた。この程度、問題の数に入らん」
ゼルの脳裏をよぎるのは、ルナが三百年前に引き起こした大事件の数々……。
それに比べれば今日の聖女様は、むしろ大人しい方だった。
「な、なるほど……そういうものなのですか……」
他でもない大剣士にこうもはっきりと言われては、さすがのラムザも納得するしかない。
その後さらに奥へ進んで行くと、巨大な結界に行く手を阻まれた。
「な、なんだこれは……!?」
レオナード教の本拠地最深部を中心に展開された、超巨大な球状の結界。
「なんと強力な結界だ……っ。しかし、こんなもの<天盤>には映らなかったぞ……?」
ラムザが困惑する中、ゼルが私見を述べる。
「ふむ……『神界』を守る結界によく似ているな。『神の法は、魔の法を超越する』。当然<天盤>では、これを探知することはできない(もしやこの件には『神』が関与しているのか……? そうなると、こちらも警戒度を引き上げねばならんな……)」
「ゼル殿、どうにかできないのですか?」
「結界の解析は専門外だ。こんなとき、シャシャかフィオーナがいればすぐに解いてもらえるのだが……さて、どうしたものか」
暗澹たる空気が立ち込める中、白銀の鎧が不敵に微笑む。
「ふっ、問題ありません。この程度の結界、すぐに解析して見せましょう」
「……えっ、解析……?(聖女様にそのような高等技能はないはずだが……)」
ゼルが訝しげに小首を傾げ、
「ほぅ、結界魔法の心得まであるのか……(流石は『陰の英雄』、あらゆるスキルセットを備えているな)」
ラムザが驚愕と感心を抱く中、ルナは早速作業に入る。
「ふむ……ここがこうなって、あれがこうして……(確か、最近読んだ『魔法が大好きな悪役令嬢』の小説では、なんかこんな感じで……)」
適当にそれっぽいことを呟きながら、結界の解析に挑むこと三分。
(……む、無理だ……っ)
結界の構造はまさに複雑怪奇。
かの聖女脳をフル稼働しても、まったく解析することはできなかった。
「どうだシルバー、そろそろ解けそうか?」
「は、はい、もちろん、ですとも……!」
ラムザの催促を受け、ルナはぎこちなくニッと微笑んだ。
それからさらに五分後――聖女脳から、プスプスと白い煙が上がり出したそのとき、
「……ぃよし、解析終わりッ!」
ルナはそう言って、右腕を思い切り振り下ろした。
その瞬間、凄まじい破砕音が鳴り響き――超巨大な結界は、跡形もなく消滅する。
(……やはりこうなったか……)
最初からこの結果を予測していた忠臣は、
「お見事です」
主人の顔を潰さぬよう、すぐさまフォローに走り、
「あぁ、今回の結界は中々に手強かった」
ルナはあたかも解析に成功したかのように振る舞い、
「えっ? 結界の解析……えっ?(私の目が間違っていなければ……今、殴り壊したよう、な……?)」
ラムザはただただ呆然と立ち竦む。
「ラムザ殿、どうかされましたか?」
「ここは敵の本拠地だ、先を急ごう」
「す、すまない……っ」
ハッと現実に引き戻された彼は、早足でルナとゼルに合流する。
(シルバーとゼル殿……この二人、無茶苦茶だ……っ)
聖女パーティのダンジョン攻略は、本当に無茶苦茶だった。
罠は踏むし、不意打ちも受けるし、見え見えの宝箱にさえ引っ掛かる始末。
まるで初めてダンジョンに繰り出した、未熟な冒険者パーティのようだった。
しかし――止まらない。
致死性の罠も恐ろしい魔獣も強力な結界も、伝説の聖女パーティの前には、まったく意味を為さない。
彼らは冒険を楽しみながら、あらゆる一切を捻じ伏せ、悠々と先へ進んで行く。
(これが伝説の英雄――『絶対強者のダンジョン攻略』、か……勉強になるなッ!)
こうして稀代の天才ラムザ・クランツェルトは、間違った知識を仕入れ続けるのだった。
【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】
なんと明日11月25日、『断罪された転生聖女』の書籍版第2巻が発売されます!
表紙イラストは、このページの下↓↓↓にドドンと大公開!
ルナの向かって右隣に立つ美少女は――『メインヒロイン』こと、ウェンディ・トライアードです!
さて、なんと言っても書籍版の『一番のウリ』はやはり……『書籍版限定の新規書き下ろし』でしょう!
第1巻と同じように第2巻にも、『三百年前の物語』を書かせていただきましたっ!
こちらのエピソードは、第1巻の新規書き下ろしから地続きの内容――つまり『完全な続編』となっており、『三百年前のルナとゼルの出会い』を描いた物語です!
ボリュームも抜群で、約1万5千字にもなる『超特大の書き下ろし』!
Web版を一度読んだ方には、特に刺さる内容となっており、きっと楽しんでもらえると思います!
第2巻に収録された本編に加えて、300年前の物語+カラーイラスト+モノクロイラスト……めちゃくちゃお得なセットになっております!
正直、書籍版は凄い力と熱量と時間を掛けて作っているので(もちろん私以外にも多くの方々にご協力いただいております)、胸を張って『値段以上の価値がある』と言えます!
また第2巻には、作中トップクラスの智謀を誇る皇帝アドリヌス・オド・アルバスのキャラデザ&イラストも収録! 彼の完璧な迷推理が炸裂します!(笑)
さらに今回もまた『無料の店舗特典』として、大量のSSを書かせていただきました!
・OVERLAP STORE:ルナと小テスト
・全国の特約店様:ルナと大金
・アニメイト様:ウェンディの任務
・メロンブックス様:万能メイドの一日
・ゲーマーズ様:天然温泉
・BOOK☆WALKER様:ルナと出店
どれもかなり気合いを入れて書いたので、もしよろしければご無理のない範囲で、集めてみていただけると嬉しいです!
後それから、本作のコミカライズはバッチリ進行中なので、どうか続報をお待ちください……!
さて、長くなってしまいましたが……明日11月25日発売の『断罪された転生聖女』第2巻、どうか是非お買い上げいただけると嬉しいです!
それではまた、お会いしましょう!
月島秀一