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第六話:薄い本

【☆★おしらせ★☆】

大変、お待たせいたしました……っ。

第二巻の原稿やら仕事やら病気やらで、更新が遅くなってしまい、大変申し訳ございません。

本日より更新を再開するので、どうぞお楽しみに……!

またあとがきに【とても大切なお知らせ】がありますので、どうか最後まで読んでいただけると嬉しいです!


 ルナは言葉を失い、両手で頭を抱え込む。


(薄い本ということは……もしかして『アレ』か!?)


 聖女様が頑張って描いた漫画――同人誌。

 ちょっとエッチな展開にも挑戦した意欲作だ。


(あ、あばば、あばばばばばばばば……ッ)


 頭は沸騰するかのように熱くなり、しかしその一方、背中からは冷や汗が止まらない。

 極度の精神的な過負荷(ストレス)によって、自律神経が乱れまくっているのだ。


「ツェリィさん! 私の同人――薄い本は、今もウェンブリー殿が!?」


「は、はい、おそらく。聖遺物は聖女教の至宝、教皇が肌身離さず持ち歩いているはずです」


「そう、ですか……っ」


 なんとしても、どんな手を使っても、如何なる方法を用いても――ウェンブリーの身柄を押さえなくてはならなくなった。

 主人の尋常ならざる狼狽を受け、ゼルは<交信(コール)>で思念を飛ばす。


(聖女様、いったいどうなされたのですか?)


(ウェンブリーさんは、私の黒歴史を持っている可能性が極めて高い。それもかなり危険なブツっぽい……っ)


(黒歴史……? あぁ、例のアレ(・・)のことですか)


 簡単に事情を聞いていたゼルは、納得の意を示す。


(幸いにも、ウェンブリーさんが同人誌を広めた形跡はなさそう……。赤の書みたく複製(レプリカ)をばら()かれる前に、神魔合一派とかいう連中に奪われる前に、大急ぎで回収しなくちゃ……ッ)


 最優先ミッションを設定したルナは、すぐさま行動へ移す。


「それで、ウェンブリーさんは今どこに?」


「おそらく神魔合一(しんまごういつ)派の隠れ家である『天楼山(てんろうざん)』、その最深部に囚われているかと」


「そうですか。では、ちょっと行ってきます」


 まるで買い物に出るかのような軽い足取りで、カツカツカツと玄関口へ向かい――ツェリィが慌てて待ったを掛ける。


「い、いけません……! シルバー様は、聖女様を守護(まも)る絶対の盾! もしものことがあれば、聖女様の身に危険が……ッ」


 聖女の安全を確保するため、全力でシルバーを止めようとした。

 ツェリィの信仰心は非常に強く、これを説得するのは困難を極めるのだが……。

 ここまでのやり取りから、彼女の扱い方を理解したルナは、躊躇なく『特効薬』を使う。


「私のことならば心配無用です。それに、聖女様は言っておられる。『敬虔な子羊たちを救いに行きなさい』と」


「~~っ」


 瞬間、ツェリィの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。


(な、なんと慈悲深き心……っ)


 ルナが本当に救出したいのは黒歴史であって、ウェンブリーはまぁ過去の借りがあるため、もののついでに助ける感じなのだが……。

 そんな裏の事情を知らないツェリィは、かつてないほどの歓喜に包まれた。


(そ、そこまで泣かなくてもいいんじゃないかな……?)


 聖女様が心の中で引いていると、ここまで沈黙を守っていたレティシアが口を開く。


「シルバー殿、天楼山に行かれるのならば、是非このラムザをお連れください」


「ラムザ殿を?」


「はい、彼は斥候(せっこう)としても一流です。それに何より、天楼山はゴドバ領の近くなので、土地勘もあります。必ずやお役に立つことでしょう」


「ほぅ、ちなみに<天盤(ヘブンズ・ボード)>は?」


<天盤>は探知系の中位魔法。

 一応、ルナも魔法自体は使えるのだが……。

 彼女は微細な魔力探知を苦手としており、ゼルもまたあまり得意じゃなかった。


「ラムザはほぼ全ての上位魔法を修めており、<天盤>もまた例外ではありません」


「それは凄いですね。是非、御同行いただけると助かります」


 話が(まと)まり掛けたそのとき、ラムザが控え目ながらも異議を申し立てる。


「レティシア様、私がお傍を離れては護衛となる者が……」


 前回の戦争で、レティシアはナターシャに攫われた。

 その反省を活かし、現在はラムザが付きっ切りで身辺警護に当たっている。


「大丈夫。私はゴドバ城の中で大人しくしているから」


「しかし、万が一のことがあっては……っ」


 いくら主の勅命とはいえ、その身を離れることには承諾しかねた。


「ふむ……」


 レティシアとラムザのやり取りを横目にしたルナは、前々から気になっていたことを聞く。


「ときにレティシア殿、その羽衣はフィオーナのものでは……?」


「よくご存じですね。この『天之羽衣(あまのはごろも)』は、伝説の聖女パーティが一人、大僧侶フィオーナ様より授かったゴドバの秘宝。強い守りの魔法が込められた、リンドリア家に伝わる正装です」


「しかし見たところ、既に力を失っているようだ」


 レティシアは儚げに微笑み、コクリと頷く。


「天之羽衣に宿りし力は――フィオーナ様の魔法は、当代で失われてしまいました。でも、問題ありません。そのおかげで私は、かけがえのない人と出会うことができましたから」


「れ、レティシア様……っ」


 ラムザは強く拳を握り、グッと奥歯を噛み締めた。

 天之羽衣が光を失ったのは、(ひとえ)に己が不甲斐なさゆえ。


(私がレティシア様を刺さなければ、彼女の身は今も大僧侶の魔法に守られていた……ッ)


 今更何を言ったところで、過去が変わるわけではない。

 しかしあの事件で生まれた『棘』は、ラムザの胸の奥に残ったまま、鈍い痛みを主張し続けている。


「なるほど、ではこうしましょうか」


 シルバーはそう言って、羽衣にそっと触れた。


「え、えっと……?」


 レティシアが小首を傾げた次の瞬間、神聖な魔力の奔流が吹き荒れ、羽衣はかつての輝きを取り戻す。


「これは、もしかして……!?」


「ラムザ殿をお貸りする対価として、私の魔力を補充させていただきました。これでレティシア殿の身に危機が迫ったとしても、フィオーナの魔法が助けてくれることでしょう」


「す、凄い……ありがとうございます!」


 レティシアは顔を(ほころ)ばせ、感謝の言葉を述べる。

 聖女の大魔力で強化された、大神官フィオーナの羽衣。

 もしもレティシアに危害を加えようものならば、世にも恐ろしい防御魔法が炸裂するだろう。


「シルバー……感謝する」


 自身の失態を拭ってくれたシルバーへ、ラムザは深い謝意を示した。


「いえいえ、そんなに大したことはしていませんよ」


 ルナが鷹揚(おうよう)に笑い、レティシアとラムザが喜ぶ中、ゼルは一人顔を引き()らせ

る。


(こ、この魔力量は……いくらなんでもやり過ぎだ……っ)


 魔力の譲渡は、非常に高度かつ繊細な技術。

 ミジンコ以下の魔法技能しか持たない聖女様には、あまりにも過ぎた代物だ。


 実際、天之羽衣に込められたルナの魔力は、フィオーナが設定した規定量を遥かにオーバーしており、今にもはち切れそうな状態となっている。

 もしも何らかの衝撃によって、運悪く魔力が弾けた場合、空前絶後の大爆発が起こり――世界地図が書き換わる。


 もちろんレティシアとラムザは、羽衣の異常な魔力に気付いているけれど……。

 シルバーへの強い信頼が悪い方に作用し、「彼のやることならば大丈夫」と流してしまっている。

 そのうえ当の本人である聖女様は、「いい仕事したなぁ」とホクホク顔だ。


(今のところ、羽衣は安定状態を保っているようだが……。大丈夫、なのか……?)


 ゼルが冷や汗を浮かべていると、ルナはゴホンと咳払いをした。


「さて、私達はこれから天楼山へ向かいます。レティシア殿はこちらの<異界の扉(ゲート)>で、ゴドバ城へお戻りください」


「お気遣い、ありがとうございます」


「ツェリィさんは、ここでお待ちいただけますか?」


「はい、かしこまりました」


 そうして出発準備を整えたルナは、


「では、行きましょうか」


「はっ」


「承知した」


 忠臣ゼルと斥候ラムザを引き連れて、自身の黒歴史を回収するため、後ついでに教皇ウィザーを救うため、天楼山へ向かうのだった。

【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

本日、新連載をはじめました!


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絶対に面白いと思うので、歴代最高の自信作なので、どうかぜひ『第一話』だけでも読んでみてください! お願いします!

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― 新着の感想 ―
薄い本……画伯すぎて内容が誰にも理解できないと推測
誤植なのかもだけど、聖女さまいまシルバーなのに「私の薄い本」って言っていますよ?動転しすぎでは?w
薄い本を肌身離さず持ち歩いている教皇(笑)
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