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断罪された転生聖女は、悪役令嬢の道を行く!(Web版)  作者: 月島 秀一
第6部

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エピローグ

【☆★おしらせ★☆】

あとがきにとても大切なお知らせが書いてあります。

最後まで読んでいただけると嬉しいです……!


 王国北部に広がるヒゾル森林。

 その最深部に開かれた<異界の扉(ゲート)>より、天獄八鬼(てんごくやっき)ヴァルトラが姿を現す。


(……よし、追手の気配はねぇな。どうやらちゃんと()けたようだ)


 本当ならば、安全な外界(がいかい)まで一気に飛びたいところなのだが……。

 彼の魔力量では、そこまでの長距離転移はできない。


異界の扉(ゲート)>は接続距離が伸びれば伸びるほど、必要とする魔力が雪だるま式に膨れ上がっていく。

 ルナのような『射程無限の瞬間移動』は、彼女の持つ『無尽蔵の魔力』があってこその神業だ。


(とりあえず、移動するか)


 ひとまずの安全を確保したヴァルトラは、重い体を引き()って歩き始める。

<異界の扉>で飛んだとはいえ、深い森の中とはいえ、ここはまだ人族の生息圏内。

 自然の洞窟か獣の巣穴か、どこでもいいから身を隠す場所が必要だ。


 青々と茂る草葉を踏み分けながら、魔王のもとへ<交信(コール)>を飛ばす。


「ちっ……さすがに届かねぇか」


 聖女の転生体の正体をすぐにでも伝えんと思ったのだが……。

 魔王城は外界の果てにあり、とても接続できる距離ではない。


 彼は思念による通話を諦め、別の原始的な手段を取る。


「――<召喚(サモン)>」


 自身の使役する魔獣『獄炎蟲(ごくえんちゅう)』をメッセンジャーとして呼び出し、『聖女の転生体はサール・コ・レイトン』と記した羊皮紙を渡す。


「おら、行け」


「キィー!」


 主の命を受けた獄炎蟲は、魔王城の方角へ飛んでいく。


 これで最低限の役割は果たした。

 後は<魔力探知不可(ヒドゥン・マジック)>を維持したまま、体力と魔力が回復するまで身を隠し、魔王城へ帰るのみ。


 無事に一仕事を終えたヴァルトラが、長い息を吐くと同時、


「……っ」


 腹部に焼けるような痛みを覚えた。


 そこはサルコの放った<風神の破斬(エアロ・バースト)>が、最も深く抉った場所だ。

 裂傷それ自体は、既に回復魔法で治してあるのだが……。

 聖女の清らかな魔力は、魔族に対して絶対的な効果を発揮する。

 神聖な魔力の残滓(ざんし)は、今も尚ヴァルトラの肉を焼き、ジクジクとした鈍い痛みを与えていた。


「くそが……っ。サール・コ・レイトン、次こそは絶対に殺してやる……ッ」


 奥歯をグッと噛み締め、憎悪の炎を(たぎ)らせたそのとき、


「――サルコさんに何か御用ですか?」


 鈴を転がしたような美声が、静かな森に(りん)と響く。


「……ッ」


 細胞が跳び跳ねた。

 心臓を鷲掴みにされたような衝撃が全身を貫き、(ねば)ついた脂汗(あぶらあせ)が背を(つた)う。


(……ば、馬鹿な……ッ)


 忘れるわけがない。

 聞き違うわけがない。


 自分を殺した人間の声を。


 ヴァルトラがゆっくり振り返るとそこには、月明かりに照らされた少女が立っていた。

 透き通るような白銀の髪・どこまでも澄んだ空色の瞳・雪のように白い肌、世界が呼吸を忘れるような絶世の美少女。


「……聖女、ルナ……!?」


 その姿はまさに瓜二つ。

 まるで三百年前から、時を超えて来たかのようだった。


(……そうか、そういうことか(・・・・・・・)……っ)


 このとき、ヴァルトラは全てを理解する。


 サール・コ・レイトンは、聖女の魔力が埋め込まれた『撒き餌』。

 聖女ルナはそれを安全な場所から観察し、罠に掛かった者へ腹心を差し向け――始末する。

 自分はまんまとそれに引っ掛かり、ゼルから手痛い反撃を受けたうえ、魔王に誤情報まで送ってしまった。


 手のひらで転がされていることに強い苛立ちを覚えるが、今はそれどころではない。


(何故だ、どうして俺がこの森へ飛ぶとわかった!?)


異界の扉(ゲート)>で飛ぶ際、<魔力探知不可(ヒドゥン・マジック)>で魔力を消した。追跡対策は万全のはず。


 それにもかかわらず、聖女はヒゾル森林へ先回りしていた。


「てめぇ……いったいどこまで読んでいやがる!?」


 聖女はゆっくりと右手をあげ、まるで世界を掌握しているかのように微笑む。


「――全て」


「ぐ……っ」


 傲慢(ごうまん)極まりない発言だが、しかし、否定できなかった。


 何せ、聖女ルナは『死の象徴』。

 大魔王さえも(ほふ)る、正真正銘の化物。

 (あまね)(すべ)てを掌握していたとしても、なんらおかしな話ではない。


 口内が不快なほどに渇き、不規則な鼓動が胸を打つ中、ヴァルトラは狂ったように(わら)い散らす。


「は、はは、はははははははは……! 魔王様から聞いているぞ! てめぇはつい最近、転生したばっかりだってなァ!? 転生による劣化、著しい魔力と膂力(りょりょく)の衰退! 今の聖女にかつての力はないッ!」


 自分を奮い立たせるように大声を張り、一切の躊躇なく奥の手を切る。


「――<祖龍降臨(そりゅうこうりん)>!」


 龍の血に秘められたこの魔法は、偉大な祖龍の力を一時的に借り受ける、ヴァルトラの切り札だ。


「ぅ、ぐ、ぉおおおおおおおお……!」


 全身の筋肉が大きく膨張し、翼には凶悪な棘が生え揃い、龍鱗に臙脂(えんじ)燐光(りんこう)が宿る。

 龍化を遂げたヴァルトラは、森羅万象を焼き焦がす『炎獄の王』。

 三百年前、彼はこの力を振るい、一夜にして小国を墜とした。


「ふははははっ! 見よ、これが龍人の力だ! ――<焦熱之環(しょうねつのかん)>!」


 ヴァルトラが右手を正面に突き出すと、ルナを取り囲むようにして、八つの巨大な炎塊が出現。


「消し炭となれッ!」


 禍々しく揺れる紅蓮の炎塊は、聖女を焼殺(しょうさつ)せんと収束。


 八つの太陽が押し迫る中――ルナは爪先を僅かに浮かせ、軽くトンッと地面を踏んだ。


 その瞬間、大地は激しく鳴動し、嵐のような衝撃波が吹き荒れた。


<焦熱之環>は掻き消され、木々は根元から折れ、大地はめくれ上がる。


「ぐっ、ぉ……ッ」


 ヴァルトラはみっともなく四つん這いになり、まるで平伏するかのような姿勢で、暴力的な衝撃波を必死に耐え忍ぶ。


 足踏み一つ。

 たったそれだけで、最上位魔法を無力化した聖女は、氷のような視線を向ける。


「かつての力が、どうかしましたか?」


「……っ」


 脳裏をよぎるは敗北の記憶。


 見下された。

 二度も。


 踏み(にじ)られた。

 上位種族の誇りが。


 耐え難き屈辱。

 許し難き侮辱。


 ヴァルトラの頭が沸騰する。


「こ、の……龍人ヴァルトラを舐めるなぁああああああああ……!」


 両の翼をはためかせ、音の速度に乗った彼は、全魔力を右腕に注ぎ込み、渾身の拳打(けんだ)を放つ。


「死ねぇ!」


 激しい轟音が響き、血肉の華が咲く。


 ()ぜたのは、龍人の右腕。


 ヴァルトラが放った生涯最高の一撃は、聖女が無意識に垂れ流している魔力さえ、貫くことができなかった。


「……はは、化物め……」


 刹那、白く細い右腕が龍人の顔面を打ち抜き、山を砕いたかのような凄まじい轟音が森中に響く。


 かつてヴァルトラと呼ばれた肉塊は、地面と平行にどこまでも飛び続け、巨木に五体を打ち付ける形で停止。


(……なに、が……起こった……?)


 理解できなかった。

 殴られたのか、蹴られたのか、それとも魔法による攻撃を受けたのか。

 気付いたときには、途轍もない衝撃に撃ち抜かれ、派手に吹き飛んでいた。


 奇妙な浮遊感が全身を包む中、朦朧とする意識を支配下に置き、瞳を動かして現状を確認する。


(……なんだ、これは……?)


 擦り切れた四肢は(ろく)に動かず、胸部には大きな風穴が空いている。


 聖女の軽いジャブにより、肉体の99%が死滅。

 最上位種族の再生力も、回復魔法も(ろく)に機能しない。


 明滅する視界の中、絶望がゆっくりとやってくる。


 白い化物。

 三百年前から何一つとして変わらない、世界最強の生物。


「……何か言い(のこ)すことはありませんか?」


 末期(まつご)の言葉を問われたヴァルトラは、どこまでも真っ直ぐな瞳で笑う。


「はっ……吠え面かきやがれ」


 次の瞬間、彼の心臓部に真紅の魔法陣が浮かび上がった。


「――<召喚(サモン)>ッ!」


 自身の生命力を魔力に変換し、十万匹の獄炎蟲を召喚する。


 彼は優先した。

 己が命ではなく、魔族の未来を。

 聖女ルナの情報を持ち帰るという選択(みち)を取ったのだ。


「これは……っ」


 大量の蟲が作り出した、ほんの僅かな隙。

 ヴァルトラはこれを利用し、自身の記憶を羊皮紙に念写する。


『聖女ルナは転生した。かつての力をそのままに』


 先ほどの誤報を訂正し、真実を記したそれを、一匹の獄炎蟲に喰わせた。


「行げぇ゛ッ!」


 主の命令を受け、十万の大群は一斉に羽ばたき、魔王城へ飛び立つ。


「へ、へへ……ざまぁ、見やが、れ……!」


 全てを出し尽くしたヴァルトラは、舌を出して挑発し、光る粒子となって消えていく。


 そんな彼が最後に見た光景は――暴虐。


 十万を超える獄炎蟲が全て、素手で握り殺されていく地獄絵図。


(あぁ……間違いない、アレは本物(・・)だ。最悪が転生しちまった……っ)


 ヴァルトラは絶望に心を折られながら、二度目の死を迎えるのだった。



 天獄八鬼ヴァルトラの死滅より(さかのぼ)ること三分。


「――よし、ここまで来れば、もう大丈夫」


 ニルヴァが指揮を()る参謀本部が、ヴァルトラ討伐に熱をあげる中、ルナは「ちょっとトイレ」と言って抜け出し――<異界の扉(ゲート)>を展開。王城からほどほどに近く、人気(ひとけ)のなさそうなヒゾル森林へ飛んだ。


「……誰もいない、よね?」


 キョロキョロと周囲を見回し、きちんと誰もいないことを確認してから、プレートアーマーを脱ぐ。


「ふはぁ……。ほんと大変な一日だった……」


 午前は武闘会に出場・午後は聖女バレ対策に奔走・夜になれば国王と会食、やっと解放されたかと思えば、秘密基地のような参謀本部へ連行され――隙を見て脱出。

 朝から晩まで、息を()く間もなかった。


「向こうは、もう終わったかな?」


 天獄八鬼の件については、頼れる腹心に一任している。


 ゼルは強い。

 レオナード教国で再会したときの――羽がボロボロに(いた)んだ状態ならばともかく、あそこまで艶を取り戻した彼ならば、天獄八鬼に(おく)れを取ることはないだろう。


「もう夜も遅いし、早いところ帰ろっと」


<異界の扉>を再展開し、聖女学院へ飛ぼうとしたそのとき――ズシンズシンという大きな足音が聞こえてきた。


(……誰か来る……?)


 近くの木陰に身を潜めることしばし、目の前を手負いの龍人が通過した。


(あれは確か、天獄八鬼(てんごくやっき)バ、バ……そう、ババロア)


 正しくは天獄八鬼ヴァルトラ。


(右腕がポロリしてる……。ゼルにやられて逃げてきた、って感じかな?)


 ルナがそんな分析をしていると、


「くそが……っ。サール・コ・レイトン、次こそは絶対に殺してやる……ッ」


 ヴァルトラの顔が憎悪に歪み、怨嗟(えんさ)の言葉を口にする。


(むむっ)


 大切な友達へ殺意を向ける魔族、さすがにこれは見過ごせない。

 彼女は最後に一仕事すべく、木陰から姿を現した。


「――サルコさんに何か御用ですか?」


「……聖女、ルナ……!?」


 驚愕に瞳を揺らしたヴァルトラは、少し黙り込んだ後、悔しそうにグッと奥歯を噛み締める。


「てめぇ……いったいどこまで読んでいやがる!?」


 瞬間、ルナの脳裏に電撃が走った。


(こ、これは……!?)


 ヴァルトラが口にしたその台詞(せりふ)は、最近読んだ悪役令嬢の小説に出て来たものと全く同じだった。


 千載一遇の『悪役令嬢ムーブチャンス』。


(ふぅー……)


 (たかぶ)る気持ちをなんとか鎮め、口角がつり上がるのを必死に抑えながら、あくまでもクールにかっこよく右手をあげる。


「――全て」


 既に小説(きょうかしょ)で予習を済ませているため、いい感じの言葉が自然と口を()いて出た。


(さぁ、これにどう返す!?)


 ルナのパスを受けたヴァルトラの回答は、


「は、はは、はははははははは……! 魔王様から聞いているぞ! てめぇはつい最近、転生したばっかりだってなァ!? 転生による劣化、著しい魔力と膂力の衰退! 今の聖女にかつての力はないッ!」


(ひゃ、百点満点……っ)


 敵役Aとして、最高級のものだった。


(くぅ~……ッ)


 ルナは興奮のあまり奇声を発しそうになるが、クールビューティを志す彼女は、鋼の意思で平静を保つ。


 その後、ヴァルトラが見栄え重視の火魔法を使ってきたので、足踏みで華麗に無力化し――とっておきの決め台詞を放つ。


「かつての力がどうかしましたか?」


 氷のような冷たい目・絶望に暮れる龍人・月明かりに照らされた情景、まるで小説に出て来そうな一幕だ。


(ふ、ふふ……ふふふふふふ……っ)


 夢見心地なルナはしかし、すぐに現実へ引き戻される。


「……えっ……?」


 小手調(こてしら)べに軽いジャブを打ったところ、敵役Aがとんでもない速度で吹き飛んで行ったのだ。


 大慌てで追い掛けるとそこには、息も絶え絶えとなった瀕死の龍人が一匹。


(そ……そん、な……っ)


 愕然とした。


 魔族の回復力を以ってしても、あれはもう助からない。

 せっかく掴んだ悪役令嬢チャンスが、指の隙間からサラサラと零れ落ちていく。


(そ、そうだ、私が回復魔法を使えば……!)


 一瞬、そんな考えが脳裏をよぎったけれど……ギリギリのところで踏み留まった。


 無理矢理に作られた悪役令嬢ムーブは所詮『養殖』。

 人の手が加わったことで、ぎこちなさや不自然さが出てしまう。


 ルナが望むのは『天然』、自然に生み出された至高の悪役令嬢ムーブだ。


 命の尊さと儚さを噛み締めた彼女は、一縷(いちる)の望みに賭けて、問いを投げる。


「……何か言い遺すことはありませんか?」


 ヴァルトラは驚くほど弱いが、『わかっている側』の魔族だ。

 この状況でも、何か悪役令嬢的な返答をしてくれるかもしれない。


 せめてもう少しだけ、この夢のような時間に(ひた)っていたかった。


 しかし、現実は残酷だ。


「はっ……吠え面かきやがれ」


 ヴァルトラは自らの命を魔力に換え、大量の獄炎蟲を召喚。

 そのうちの一匹に羊皮紙を食わせ、どこかへ向かわせた。


(あれは……ダイイングメッセージ)


 中身はおそらく、聖女ルナに関する記述だろう。

 名残惜しい気持ちはあるが、悪役令嬢ムーブはこれにて幕引き。


 聖女バレを防ぐため、迅速に行動を開始する。


「――これでよしっと」


 十万匹の獄炎蟲を殲滅したルナは、ホッと安堵の息をつく。


 手元の羊皮紙には、ヴァルトラが遺した最期のメッセージ。

 その内容は、予想通りのものだった。


『聖女ルナは転生した。かつての力をそのままに』


 もしもこれが魔王軍の手に渡れば、面倒なことになっていただろう。


「情報漏洩には気を付けないとね」


 火の魔法で羊皮紙を燃やし、聖女バレの危機を完全に脱する。

 現状、魔王軍にはサール・コ・レイトン=聖女の転生体という誤情報が、驚異的な速度で拡散しているのだが……そんなことは知る(よし)もない。


 そうして残業を終えたルナは、月明かりを背にしたまま、万感の思いを込めて呟く。


「……よかった……さっきのはとてもよかった(・・・・)


 噛み締めるように咀嚼(そしゃく)し、ゆっくりと反芻(はんすう)する。


【てめぇ……いったいどこまで読んでいやがる!?】


【――全て】


【今の聖女にかつての力はないッ!】


【かつての力が、どうかしましたか?】


 絶対的強者のポジションを取ったまま、相手を蹂躙する悪役令嬢ムーブ。

『台詞』と『シチュエーション』は申し分なかった。


 惜しむらくはただ一つ、『関係性』がイマイチだ。


 聖女と天獄八鬼では、どうしても聖女ムーブ色が出てしまい、悪役令嬢味に欠けてしまう。

 自分は貴族令嬢。

 相手は王族か貴族のような特権階級が望ましい。


「でも……いい感じだった」


 心に去来するは、得も言われぬ充足感。

 現代に転生して初めて覚える『悪役令嬢的実感』。

 これまで地道に積み重ねてきた『イマジナリー悪役令嬢ムーブ』が、今日この日やっと芽吹いた。


 ルナの悪役令嬢レベルは、ほんの少しずつだが、確実に上昇しているのだ。


「ふ、ふふふっ、ふふふふふふ……っ」


 かつてないほど上機嫌なルナは、不気味な微笑みを浮かべながら、深夜の森を歩き回り――あっという間に迷子完成。

 数時間後、夜通しルナを捜し回っていたローから、こんこんとお説教を受けるのだった。



 天獄八鬼の襲撃から一夜明け、聖女学院は休校となった。

 それもそのはず、バダムとヴァルトラの激闘の余波を受け、本校舎や学校設備は半壊。

 王国最大手の建築組合が、既に改修工事を始めているけれど……。

 優秀な魔法士と高価な魔道具をフルに活用しても、再建には最低一週間と掛かる見込みだ。


 そうして思わぬ形でフリーな時間を手にした聖女様は、朝一番にゼルのログハウスへ飛び、アホ毛をピンピンに立たせたまま、興奮収まらぬといった様子で語る。


「それでね! それでね! 天獄八鬼のババロアが『てめぇ……いったいどこまで読んでいやがる!?』って聞いて来たから、私は優雅に右手を挙げてこう答えたの! 『――全て』……どう、かっこよくない!?」


「さすがは聖女様、まさに悪役令嬢然とした凛々しい立ち振る舞いかと」


「でしょっ!」


 このやり取りは、既に三回目となるのだが……。

 ゼルは嫌そうな顔一つせず、穏やかな笑みで聞いていた。


(ふふっ、本当に楽しそうでおられる)


 嬉しそうなルナの姿を見るのが、彼自身どうしようもなく幸せだった。

 これでは主と従者ではなく、元気な孫娘と優しいお爺ちゃんだろう。


「ときに聖女様、会食ではどのようなお話を?」


「あっ、そうそう。なんかマグナスっていう王様が出て来てさ、小難しい話をされたんだよね。確か、アイリス姫の後見人に――」


 ルナがそこまで口にしたところで、コンコンコンとノックの音が響く。


「むっ、聖女様」


「うん、わかってる」


 ルナは流れるようにクローゼットへイン。

 アホ毛がきちんと収納されていることを確認したゼルは、玄関の扉を開ける。


 するとそこには、純白の修道服に身を包んだ女性が立っていた。

 柔らかな微笑みを浮かべた彼女は、深々とお辞儀をし、ゆっくりと頭をあげる。


「ゼル様、お初にお目に掛かります。私は聖女教の祭司ツェリィ・ランドール。教皇が是非、シルバー様と直接お話がしたいと――」


「――どうぞお引き取りください」


 ゼルはにこやかな笑顔のまま、超高速で扉を閉め、固く厳重に施錠するのだった。

【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

第6部はこれにて完結!

第7部は……まさかの聖女教編!?


「第7部が、続きが読みたい!」

「第6部も面白かった! 続きの執筆もよろしく!」

「聖女様の物語を、活躍をもっと見たい!」

ほんの少しでもそう思ってくれた方は、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして、『ポイント評価』をお願いします。

ポイント評価は『小説執筆』の『大きな原動力』になりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


最後になりますが、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

第7部は2週間後――6月9日に連載開始予定!

私が第7部の書き溜めを作っている間、読者の皆様には、昨日ついに発売した本作の書籍版第1巻を読んでもらえると嬉しいです!

書籍版には三百年前の聖女パーティの冒険譚が、2万字を超える特大ボリュームで収録されており、きっと楽しんでいただけると思います!


商業の世界では「何冊売れたのか?」が全てなので、聖女様の物語が人気になってアニメ化の夢を掴めるよう、応援・後押しをしていただけると嬉しいです!


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― 新着の感想 ―
どうでもいいのですが・・・ 今夜は新月だったはず、月明かりは無いのではないでしょうか? 有るのは星明かりとか?
聖女様、それ悪役令嬢じゃなくてラスボスムーブです
[良い点] まぁ『天然』ではありますね。(笑) [一言] 視点が変わると シリアスも即死するのですね。(爆笑)
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