【書籍第一巻発売記念】聖女様と迷子【ショートストーリー】
今日は5月25日、ついに書籍版第一巻が発売!
これを記念して、ショートストーリーを書きました!
頑張って書きましたので、書籍の方も是非よろしくお願いします!
とある休日。
聖女様は珍しく、外出しておられた。
「ふんふふーん、ふふふふーん」
王都の書店へ足を運んだ彼女は、現代の悪役令嬢の小説を買い込み、今はその帰り道だ。
(ふふっ、大漁大漁! やっぱり今も昔も、悪役令嬢モノは大人気なんだなぁ……!)
たくさんの戦利品を<次元収納>に詰め込んだルナが、鼻歌まじりに歩いていると、
「……ん……?」
大通りのど真ん中に、5歳ぐらいの小さな女の子を見つけた。
「ぁ、あの……っ」
不安気な表情を浮かべた彼女は、助けを求めるように通行人へ話し掛ける。
しかし、その声は周囲の喧騒に掻き消され、誰の耳にも届いていないようだ。
(ふむ……)
悪役令嬢を志すルナだが、さすがにこれは見過ごせない。
彼女の理想とする悪役令嬢は、貴族や王族などの特権階級に厳しく、小さな子どもに優しいのだ。
「どうしたの、大丈夫?」
ルナが優しく声を掛けると、
「えっと……私、ミレイって言って、お買い物してたら、おかあさんとはぐれちゃって……それで……っ」
今にも泣きだしそうな顔で、訥々と事情を話す少女。
それを受けたルナは、力強くドンと胸を叩いた。
「ミレイちゃん、もう大丈夫だよ! このルナお姉ちゃんに任せなさい!(こういう場合、まずは聖騎士の詰め所に行くべきだよね。私の記憶が正しければ……確か、あっちにあったはず)」
十分後、
(……あれ、ここどこ……?)
迷子が二人に増えていた。
聖女様、重度の引き籠り。
休日は自室に籠って小説を読み耽り、たまに外へ出たかと思えば、行きつけの書店に向かうだけ。
当然ながら、王都の土地勘はまるでない。
そんな彼女に迷子の案内などできるわけもなく、あっという間に二次災害を引き起こした。
「おねえちゃん……この道、さっきも通ったよ……?」
「ぅぐ!?」
ミレイの指摘を受け、ルナは言葉を詰まらせた。
(ど、どうしよう……っ。正直に道に迷ったって言うべきかな……。いやでも、さすがにそれは……)
格好をつけた手前、さすがにそれは恥ずかし過ぎる。
ルナにも面子というものがあるのだ。
「だ、大丈夫! ミレイちゃんは大船に乗ったつもりで、お姉ちゃんの後についてきて!」
「う、うん……わかった」
それから歩くことしばし――ルナとミレイは、薄暗い路地裏にいた。
「もしかして、おねえちゃんも迷子……?」
「……うん、ごめんね……」
「泣かないで、ほらこれあげる」
「……ありがと……」
小さな子どもに気遣われた挙句、ミルクの飴の施しを受ける始末。
今にも泣き出しそうなルナが、ミレイによしよしと慰められていると、
「へへっ、どこの誰かと思えば……ミレイのお嬢ちゃんじゃねぇか」
「おやおや……大貴族の御令嬢が、こんなところにいちゃ危ないよぉ?」
前方から柄の悪い男が二人、その手には鉄パイプが握られている。
(ミレイちゃんって、大貴族の御令嬢なんだ)
ルナが呑気にそんなことを考えていると、
「ぉ、おねえちゃん……っ」
怯えた様子のミレイが、スッと身を寄せてきた。
(この二人、あんまり強くなさそう。やっつけるのは簡単だけど……ミレイちゃんの前で、暴力沙汰はよくないよね)
そう考えたルナは、一歩前に進む。
「子どもの前で乱暴をしたくありません。この飴をあげるので、この場は見逃してください」
ミレイからもらったミルクの飴を片手に、不慣れな交渉に臨むが……当然こんなものが通るわけもない。
「てめぇ、ふざけてんのか……っ」
「ぶち殺すぞ、ごらァ!」
暴漢二人はいきり立ち、右手の鉄パイプを振り下ろした。
ルナはそれを軽くひょいと取り上げ、ゴギャメギャグギャと丸めていく。
「ミルクの飴がお嫌いでしたら、鉄のキャンディもありますよ?」
「ひ、ひぃ……っ」
「ば、ばばば……化物……ッ」
涼しい顔をして、鉄パイプを折り畳んでいく女。
男たちは恐怖に顔を引き攣らせ、みっともなく逃げ出した。
「おねえちゃん、すっごくつよいんだね……!」
「ま、まぁね(これぐらいなら、聖女バレの危険はない……よね?)」
思わぬ形で威厳を取り戻したルナはその後、聖騎士の詰め所を探しながら、ミレイにいろいろな話をしてあげた。
悪役令嬢の小説がどれほど面白いか。
悪役令嬢がどれほど崇高な存在か。
悪役令嬢ムーブがどれほどかっこいいか。
何一つとして、ミレイのためになるものはない。
しかし、純粋無垢な彼女は目をキラキラと輝かせ、ルナの話を真剣に聞き入った。
(ふふっ、私に妹がいたら、こんな感じなのかなぁ)
ぽかぽかの温かい心で、歩き回ることしばし――偶然、聖騎士の詰め所に辿り着く。
そこでは妙齢の女性がせわしなく周囲を見回し、聖騎士の男性がそれを宥めていた。
(あの人、もしかして……?)
ルナがとある考えに思い至った次の瞬間、
「み、ミレイ……!」
「おかあさん……!」
女性は大慌てでこちらへ走り寄り、ミレイもすぐに駆け出した。
「あなた、どこへ行っていたの!? 本当に心配したんだから……っ」
「ご、ごめんなさぃ……っ」
無事に再会を果たした二人は、強くギュッと抱き締め合う。
「もしかして、あなたがミレイを……?」
ミレイの母からそう問われたルナは、
「ま、まぁ……一応、そんな感じです」
スッと視線を横にズラシ、曖昧な返答を口にする。
二人揃って迷子になっていました、とはさすがに言えなかった。
「ありがとうございます、本当にありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらよいか……っ」
「いえいえ、私は当たり前のことをしただけですから」
「おねえちゃん、ありがとう……!」
「うん、もう迷子になっちゃダメだよ?」
永世迷子名人ルナによる、非常に有難い御言葉だ。
こうして迷子騒動は一件落着。
母と帰路に就いたミレイは、今日の大冒険を楽しそうに語る。
「ルナおねえちゃん、とっっってもつよくてね! 鉄の棒をぐにーって曲げたら、怖い男の人たちは、びっくりして逃げて行ったの!」
「へぇ、それは凄いわね(鉄の棒を……素手で?)」
「後それからね! 私、大きくなったら『あくやくれいじょう』になるんだ!」
「……えっ……?」
聖女との出会いは――ミレイの健全な成長に甚大な悪影響を与えていた。
【書籍版の店舗特典まとめ&TVCMの放送決定!】
っというわけで、こんな感じのショートストーリーを『合計6本』、無料の店舗特典として書きました!
・OVERLAP STORE:ルナとお掃除とシルバーと
・アニメイト様:タマの一日
・メロンブックス様:ルナとローとサルコ、とある日のお昼休み
・ゲーマーズ様:『万能メイド』ロー・ステインクロウ
(ゲーマーズ様では、有償特典としてオリジナルA3タペストリーもあります!)
・書泉・芳林堂書店様:サルコの日記
・全国の特約店様:天才薬師(?)聖女様
もし気になられた方は、是非こちらも集めてみてください!
ちなみに書籍版第一巻収録の新規書き下ろし、『三百年前の聖女パーティの物語』は、今回のエピソードの10倍にもなる『超特大ボリューム』となっております!
そしてさらに本作のTVCMが、地上波で放送されることになりました!
アニメ『Lv2からチートだった元勇者候補のまったり異世界ライフ』の番組内で流れます!
・TOKYO MX
5月27日、6月3日、6月10日、6月17日、6月24日 24時00分より
・サンテレビ
5月27日、6月3日、6月10日、6月17日、6月24日 24時30分より
・KBS京都
5月28日、6月4日、6月11日、6月18日、6月25日 25時00分より
・BS11
5月27日、6月3日、6月10日、6月17日、6月24日 24時30分より
・AT-X
5月27日、6月3日、6月10日、6月17日、6月24日 23時00分より
一年間ひたすらに書き続けた小説の書籍化、とても感傷的な気持ちになりますが……最後に一つだけお願いがあります!
どうか本作を友人や知人に紹介してくださりませんか……!?
作者の宣伝は弱いですが、読者様の口コミは本当に最強なんです!
そして是非、書籍版もお手に取ってみてください!
最後に、ここまで来られたのは、読者の皆様のおかげです!
Webで応援してくれた方、書籍を購入してくださる方、口コミを広げてくださる方……本当に、本当にありがとうございました!