表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/60

第六話:最上位魔族

静海様、美しいレビューを書いていただき、ありがとうございます! 本作をお褒めいただき、とっても嬉しいです! 今後も面白い話を書いていけるよう、頑張りますっ!


 漆黒のローブを(まと)い、ローの胸を一突きにした魔族――ムドラは大きく後ろへ跳び下がる。


(なん、だ……これ(・・)は……ッ!?)


 視界を埋め尽くすのは、異次元の大魔力。

 これまで経験したことのない『圧』が肌を刺し、尋常ではない殺気が空間を捻じ曲げていく。


(……なるほど、確かにこりゃ『化物』だ……ッ)


 生物としての本能が告げていた。


 今すぐ逃げろ、と。


 ムドラが冷や汗を垂らす中、ルナは最高位の魔法を無詠唱で連発していく。


「――<時間停止(タイム・ストップ)>・<異空転移(いくうてんい)>・<神挺領域(しんていりょういき)>」


<時間停止>で世界の時間を止め、<異空転移>によりローを安全な異空間に隔離し、<神挺領域>によって彼女の周囲に絶対不可侵の結界を張る。


 破滅の大魔王でさえ攻略に苦しむ、完璧な防衛陣を瞬時に構築した。


(これで万が一のことがあっても、ローは絶対に大丈夫。後は目の前の魔族を排除すればいいだけ)


 ルナはかつてないほどクリアな思考で、淡々と最善手を打っていく。

 彼女は怒りの頂点を越えたとき、激情に()まれるのではなく、(かえ)って冷静になるタイプなのだ。


 一方――ルナの<時間停止>に対し、<時間停止耐性>で抵抗したムドラは、時の止まった世界でニィッと笑みを浮かべる。


「へへっ……黒髪のお嬢さんはハズレ、あんたがアタリだったというわけですかィ!(最高位の魔法を無詠唱で連発……。もう間違えようがない、この銀髪こそ『聖女の転生体』だァ!)」


 獰猛で凶悪な相貌(そうぼう)、歪んだ闘志の(とも)る瞳、張り裂けんほどに開かれた口――それを見たルナは、すぐに理解する。


「あぁ……あなた、戦闘狂の魔族ですか。いいですよ、やりましょう」


 聖女と相対したとき、魔族の行動パターンは大きく分けて三つ。


 最も多いのが、即座に撤退するパターン。

 次に見られるのが、全てを捨てて命乞いをするパターン。

 (まれ)にいるのが、嬉しそうに戦闘態勢を取るパターン。


 目の前の魔族は、明らかに三番手――『戦闘』に愉悦(ゆえつ)を見い出すレアなタイプだった。


 ムドラは喜悦に満ちた表情を浮かべ、その身に纏う漆黒のローブを脱ぎ去てる。


「あっしの名はムドラ・ハーレン! 最上位魔族にして、『陰』を(つかさど)るの夜の王! 聖女の転生体よ、いざ尋常に勝負……ッ!」


 右脚をグッと大きく後ろに引き、魔剣を上段に置いた突きの構えを取り、眼前の聖女を見据えたその瞬間――不可思議な感覚がムドラを襲った。


「……あ゛……?」


 視界がゆっくりと斜め下へズレていく。


「なん、だ……これは、いったい何をし、ごふ……ッ」


 突然、口の端から鮮血が零れ、魔剣の刀身がカランカランと床を跳ねた。


 ゆっくり目線を下げるとそこには、


「……なんだ、こりゃァ゛……?」


 斜めに両断された自分の胴体があった。


「……そう、か……。もう……終わったの、か……ッ」


 上半身がズズズッと滑り落ち、下半身だけが虚しく直立する。


 聖女はムドラが知覚できない速度で右手を振るい、その衝撃波を以って彼の胴体を両断したのだ。


「――弱い、相手にもなりませんね」


 凍るように冷たい目が光り、感情のない声が淡々と響く。


 ルナの放ったその言葉は、


「……ッ」 


 ムドラの自尊心を破壊した。


 戦いに生き、戦いに死ぬ。

 文字通りの『戦闘狂』である彼にとって、聖女が無意識に零したその本心(つぶやき)は、尊厳を踏み(にじ)られるほどに屈辱的なものだった。


 そうして敵性魔族の肉体と精神を、完膚無きまでに叩きのめしたルナは、ローのもとへ駆け寄る。


「ロー、すぐに治してあげるからね」


 最高位の回復魔法を発動しようとしたそのとき、ムドラの下卑(げび)た笑い声が響く。


「くっ、はははは……っ! 無駄だ、無駄無駄ァ! あっしの魔剣は、『絶死(ぜっし)呪刀(じゅとう)』! 斬り付けた対象を即死させる、最悪の一振り!」


 最上位魔族である彼は、胴体を切断されたくらいでは死なない。

 彼は自尊心を砕かれた仇返(あだがえ)しとして、ルナの精神(こころ)を壊そうとしていた。


「あっしの刀は、あの女の心臓を完璧に貫いたァ! ロー・ステインクロウは、とうの昔に死んでいるんだよォ! たとえどんな魔法を使おうとも、『死』という『絶対の帰結(きけつ)』は変えられな――」


「――では、蘇生しましょう」


「……はっ……?」


 ルナは構築中の回復魔法を破棄し、即座に蘇生魔法へ切り替えた。


「や、やめろッ! いったい何を考えている!? そんなことをすれば……()が来るぞ!?」


 ムドラは血相を変えて叫ぶ。

 それもそのはず……この世界において、『蘇生』は『絶対の禁忌』とされているのだ。


『回復』はいい、『転生』もいい。

 だがしかし、蘇生だけは決して許されない。


「そりゃまぁ、来る(・・)でしょうね」


 ムドラの制止を気にも留めず、ルナは淡々と魔法の構築を進めていく。


(こ、この女はイカれている……っ。頭のネジが完全にぶち飛んでいる……ッ)


 躊躇(ちゅうちょ)なく禁忌を破らんとする聖女に対し、ムドラは恐怖を覚えた。


(さて……始めよう)


 ルナは意識を集中させ、『最高位の禁呪(きんじゅ)』を発動する。


「――<聖魂(せいこん)再帰(さいき)>」


「や、やめろォ……!」


 ムドラの必死の懇願(こんがん)(むな)しく、聖女の莫大な魔力によって魔法は成立し――ローの全身を神聖なる光が包み込む。


聖魂(せいこん)再帰(さいき)>は聖属性の魔法でありながら、禁呪に指定された非常に珍しいものであり、『死者蘇生』という唯一無二の効果を持つ。


 但し、これが正しく機能するのは、死者の魂が肉体から抜け切るまでの一分間のみ。


 ルナが真っ先に<時間停止>を使用し、世界の時間を止めたのは、こういう万が一の事態を想定してのことだった。


「く、来る……()が……来てしまう……ッ」


 神聖な大魔力が溢れんばかりの輝きを放ち、ムドラが恐怖に顔を歪ませる中、停止した世界に異変が起きた。


 ルナの発動した<聖魂・再帰>が強制的に無効化され、漆黒の闇が周囲を覆っていく。


 大講堂の最奥――異空の彼方より溢れ出すは、深淵を(すく)い上げたような純黒(じゅんこく)


「――汝等(なんじら)が、『死の摂理』を(たが)えんとする者か?」


 その存在を形容する言葉は――『死神』。

 タロットカードに記されるような、童話の中に出て来るような、死の神。

 体長約3メートル、白骨化した体に漆黒の(きぬ)を纏い、その手には大鎌が握られ、宙空(ちゅうくう)にユラユラと浮かんでいる。


 遥か(いにしえ)より、『蘇生』が禁忌(きんき)とされる理由がこれ(・・)だ。


「ち、違う……! あっしじゃない! あっしは蘇生なんてしていない! 全てはこのイカれた女が――」


 ムドラが必死に首を振る中、死神は人差し指をスッと伸ばす。


「――<死の抱擁>」


「ぁ、ぐ、ぉ……ッ」


 ムドラの肉体は、(うごめ)く闇に喰われて消えた。

 血も肉も魂さえも残らない。

 文字通りの『死』が(もたら)された。


 蘇生は死という摂理に反する行い、それすなわち死の神への挑戦。

 蘇生を行った者、関与した者、関与した疑いのある者――『死の摂理への反逆者』を強引に枠組みへ収める存在、それこそが死の神だ。


 そして――当然のように<死の抱擁>を無効化したルナは、気軽に声を掛ける。


「――久しぶりですね、死の神ディスティル」


「き、貴様……聖女ルナか……!?」


 ディスティルは大鎌を構え、憎悪に満ちた目を向けた。


「一応念のため、お願いしてみるんですけど……。今回は、見逃してもらえませんか? ローはとても大切な友達なんで――」


「――ならぬ! 我は死の神、死という摂理を為す審判者! 如何(いか)な例外も認めはせぬ!」


「はぁ……三百年経っても、その頑固さは変わりませんね……」


 ルナはがっくりと肩を落とし、残念そうにため息をつく。


「神は不変、不変こそが摂理! 摂理に反する貴様は――死ねッ!」


 ディスティルは先手必勝とばかりに、その場で大鎌を振るった。


 次の瞬間――ルナの小さな体が途轍(とてつ)もない速度で後方へ吹き飛ばされ、大講堂の壁に激突、大量の土煙が舞い上がる。

 彼女を襲ったのは、距離・角度・タイミング、あらゆる障壁を無視した『神の攻撃』。

 予測不能・回避不能・防御不能、物理法則を超越した百の斬撃が、聖女の全身を粉微塵に斬り刻んだ。


 通常、これを受けたが最後、あらゆる生命体はただちに死滅する。


 しかし、


「……」


 死神は眼窩(がんか)に灯す紅焔(こうえん)を尖らせ、重厚な構えを解かない。


 彼は知っている。

 過去に重ねた(ここの)つの敗北から学んでいる。


 あの聖女(ばけもの)が、この程度の攻撃で死にはしないということを。


「――相変わらず、不思議な攻撃ですね」


 ()き上がった土煙の中から、無傷のルナが、爆発的な速度で飛び出した。


「ぐっ、近寄るなァ……!」


 再び大鎌を振るい、あらゆる障壁を無視した神の攻撃を解き放つ。


 しかし――当たらない。


 まるで斬撃が自ら避けるかのように、ルナの左右へ()れていく。


「なっ!?」


「さすがにもう慣れましたよ」


 ルナは自身の体に斬撃が触れた瞬間、その全てを神速の手刀で打ち落としたのだ。


 そうしていとも容易く間合いをゼロにした彼女は――挨拶とばかりに軽い右ストレートを放ち、ディスティルはそれを左腕で受け止める。


「ぬっ、ぐっ、ぉおおおおお゛お゛お゛お゛……ッ」


 ガードした左腕はもちろん、衝撃を受けた左半身が粉々に砕かれた。


 たったの一撃で壊滅的なダメージを負った死神は、異空間を通り、遥か後方へ引き下がる。


「はぁ、はぁはぁ……ぬぅんッ!」


 力強い雄叫びに呼応し、粉々になった左半身が即座に再生した。

『神』の再生力は、人間・魔族・獣人・精霊――あらゆる種族を超越するのだ。


「あれ……もしかして前よりも、ちょっと強くなりました?」


 これまでの死の神ならば、今の一撃で確実に(ほふ)れていたはず。


 ルナは小さな驚きと共に、そんな問いを投げ掛けた。


「神は不滅にして不変の摂理。世界の(ことわり)(まわ)すため、死せば其の度、更なる力を以って蘇るのだ!」


「不滅なのに死ぬし、不変なのに強くなるって、なんか矛盾していませんか?」


「それもまた摂理よ」


「神の言うことは、よくわかりませんね」


 彼女が困惑気味に吐息を漏らすと同時、


「――<原初の福音>」


 ディスティルの背後に巨大な鐘が出現し、聖なる福音を響かせた。


「……なんですか、それ……?」


「原初、主神は12の鐘声(しょうせい)によって、この世界をお創りになられた。これは()わば原初回帰(げんしょかいき)! 12の鐘の音によって、万物を(ゼロ)に帰す! 貴様の<即死無効>さえ突破する、神にのみ許されし『究極の魔法』だ!」


 神は決して隠し事をしない。

 問われたことについては、必ず(こたえ)を返す。

 摂理とは世界を貫く普遍にして明確な法則であり、『摂理の使徒』である神は如何(いか)な隠し事もしない――それが彼らの矜持(ルール)だ。


「なるほど……その鐘が12回鳴り終えるまでに、あなたを倒せばいいんですね?」


 聖女はコクリと頷き、スッと右手を前に伸ばした。


 次の瞬間、


「<銀華(ぎんか)聖爆(せいばく)―>」


 小さな白銀の十字架が、ディスティルの眼前に浮かび上がる。


「これ、は……っ」


 天地を穿(うが)つ轟音が響き、暴力的なまでの『白』が世界を埋め尽くした。


 骨・鎌・鐘、聖なる爆炎が万物を焼き焦がす中、


「……ふ、はは、ふはははははははは……っ」


 死の神の不気味な(わら)い声が轟く。


「耐えた、耐え切った、耐え抜いたぞ……!」


 肉体の9割は死滅した、しかし、ディスティルは生きている。

 聖女の魔法を、銀華の一撃を耐え抜いたのだ。


 そして――神の再生力を以って、刹那(せつな)の内に完全再生を遂げた。


「300年前、幾度となく焼き殺された、聖女の魔法<銀華>を克服した! 我は今、掴んだ! 聖女ルナ、貴様の深き底を掴み取ったのだッ!」


 高揚(こうよう)した死神の手に、命を刈り取る大鎌が顕現(けんげん)し――再び、『神の魔法』が(つむ)がれる。


「<原初の福音>!」


 ディスティルの背に巨大な鐘が出現し、荘厳な音色が鳴り響いた。


 ルナの大魔法<銀華・聖爆>によって、鐘は一度破壊されており、『滅びのカウント』はゼロに戻っているのだが……死神の顔には、勝利の笑みが浮かんでいる。


 神の再生力は、あらゆる種族の頂点に立つ。

 このまま持久戦を続ければ、絶対的な種族の差により、いずれは(じぶん)が勝利する――そう確信しているのだ。


 しかし、ここに一つ『誤算』があった。


「確かに、前よりも硬くなっていますね」


「ふははっ! 死という摂理の前に平伏(ひれふ)すが――」


「――では、『100倍』にしましょう」


 聖女が右手を伸ばすと同時、


「<銀華(ぎんか)葬爆(そうばく)―>」


 神聖な光を帯びた100本の十字架が、大講堂を埋め尽くした。


「……馬鹿、な……ッ」


 ディスティルの手から、死の鎌が滑り落ちる。


 超火力のゴリ押し・物量による圧迫・理不尽の強制、それこそ聖女の最も得意とする戦法だ。


「ま、待て――」


「――待ちません」


 ルナが指を鳴らすと同時、耳をつんざく轟音が響き、(あまね)(すべ)てが浄化(はかい)された。


 聖なる白炎が消えた後、荒涼とした大講堂に、ディスティルの頭蓋骨が転がる。


 再生限界を超えたのか、回復は遅々として進まない。

 眼窩(がんか)(とも)る弱々しい火が、恨めし気にルナを睨みつけた。


「……何故だ、何故……勝てぬ……っ。9度の復活を経て、我は強くなった。原初とは比べ物にならないほど、強化されているはずだ! しかし――埋まらぬ。貴様との差は、むしろ広がっていくばかり……っ」


 死の神は恥辱に震えた。


 地に伏す(ディスティル)と見下ろす人間(ルナ)

 これでは、どちらが『死の神』なのかわからない。


「答えよ、聖女ルナ! 何故(なにゆえ)貴様は、そこまで強いのだ!?」


「……さぁ……?」


 ルナがコテンと小首を傾げると同時、死の神ディスティルは10度目の消滅(はいぼく)を迎えるのだった。

【※とても大切なお知らせ】

広告の下にあるポイント評価欄【☆☆☆☆☆】から、1人10ポイントまで応援することができます!(★1つで2ポイント、★★★★★で10ポイント!)

この『10ポイント』は、冗談抜きで本当に大きいです……っ。


どうかお願いします。

ほんの少しでも

「聖女様、強過ぎでしょ……っ」

「ディスティルは泣いていい」

「面白いかも! 続きが気になる!」

と思われた方は、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、『ポイント評価』をお願いします……っ。


今後も『定期更新』を続ける『大きな励み』になりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします……っ。


↓広告の下あたりに【☆☆☆☆☆】欄があります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版第2巻、11月25日発売!
下の表紙画像をクリックで、Amazonの購入ページに飛べます!
.GdKBSl2a4AAGxQE?format=jpg
.第1巻も好評発売中!
GMyQj9OboAASASb?format=jpg
― 新着の感想 ―
素朴な疑問 聖女さまこんなに強いのに、前世では捉えられて処刑されたのはどうしてでしょう? ・聖女の力を封じる魔導具を使用された ・特定の日時の条件で聖女の力が弱くなった ・見方がいなくなって、聖女さま…
魔族の皆さん、もうこの世界から脱出する方法を考えるのが一番建設的だと思うの
[気になる点] 全滅の警告受けて実行犯の会話盗み聞きしたのにポンコツすぎるでしょ流石に
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ