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8.誰か助けて

 シーリルに手を引かれ外に出る。

 ここまではいつもできることだけど、この先に行くのが怖い。


「リエリアお嬢様、大丈夫ですか?」


 手を繋いでくれていたシーリルがわたしの手の震えを感じて止まってくれた。

 そしてわたしの方を向き、わたしの手を包むようにぎゅっと優しく握ってくれた。


 離宮の敷地外に出ることは数年振り。

 久しぶりに出るのが怖いというのも一つの理由。

 だけど一番怖いのは他人。

 お父様達が生きていた頃は優しかった人達も、亡くなってからは酷いことをいっぱいされたから。


「う、ん」


 わたしは怖いのを我慢して一歩を踏み出してみようと思う。

 シーリルの言うことなら大丈夫な気がするから。


「……。では行きましょう。ここに来る時、庭園があったんですよ。って、リエリアお嬢様も知っていますよね」


 庭園。そういえば離宮と王宮の間くらいの位置にあった気がする。

 昔は家族みんなでお茶会みたいなものをしていた。落ち着ける場所だから、家族以外にもシーリルともよく一緒に行っていた。


「抱っこした方がいいですか?」

「わたしはもう子供じゃないんだよ。もう十七歳になったはずだから」

「そうでしたね。もう十七歳ですね。でも十七歳なんて私からしたらまだまだ子供ですよ」


 わたしは何となくの感覚で十七歳だと思っていたけど、シーリルの話振りからしてその感覚は正しいと分かった。

 でも十七歳が子供っていうのは納得できない。だって十五歳が成人なのだから。


 わたしは抱っこされるのは断ったけど、まだ少し……ううん、かなり怖いからシーリルから離れないように手ではなく腕をぎゅっと掴んだ。


「怖いなら目を瞑ってても良いんですよ。私が支えますから」

「ううん。多分大丈夫」


 わたしの歩くペースに合わせてゆっくりと歩いてくれるシーリル。

 昔は気づかなかったけれど今はよくわかる。本人は無意識でやっているみたいだけど。


「着きましたよ」


 庭園の中に入ると昔とは全く違う光景が広がっていた。

 煌びやかで豪華な庭園へと変わっている。昔植えられていた花はどこを見ても一切ない。

 わたしが好きだった花も、お父様とお母様が好きだった花も、どこにもない。完全になくなってしまっている。


「変わっちゃてるね」

「そうですね。でも変わらないところもありますよ」


 シーリルがそう言いながら指を刺す。

 指を刺した方を見ると、少し古びてしまっているけど昔使っていたガゼボがあった。

 椅子とテーブルは無くなってしまっているけれど、ガゼボ自体は残っている。


「本当だ。懐かしいね」


 わたしは嬉しさが込み上げてきてガゼボの方まで走った。シーリルはそんなわたしを追うように来てくれる。

 ガゼボの中も若干古くなっていることを感じさせるが、手入れは一応されているみたい。


「はぁ、はぁ」


 わたしは勢いよく走ったせいで息が切れてしまった。

 普段動くことがないから体力が全然ない。

 たった10メートル走っただけでこの息切れ。昔は平気で走れていたんだけどな。


「大丈夫ですか」

「う、うん。ちょっと疲れちゃって」

「ふふっ」

「な、何笑ってるの?」


 わたしが息を切らしている姿を見て、最初は心配していたシーリルだけど次は笑い始めた。

 なんで笑ったのか聞いたわたしを見てシーリルは優しく微笑む。


「嬉しいんですよ」

「わたしもだよ。シーリルに会えて嬉しい」

「一緒ですね」


 わたしもシーリルもお互いに会えて嬉しいことが分かった。

 そんなふうに笑い合っているとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

 どうせ皇太子様だろうと思いつつ、足音の方を見ると見覚えのある男性だった。


「貴様ら、ここで何をして……ッ! おいッ! なぜ貴様がいる、リエリアッ!」


 わたしは皇太子様じゃないと分かった瞬間、一歩後退りしてシーリルの後ろに行った。

 そしてわたしの名前を怒鳴るように呼ばれると怖くてシーリルの手を握った。


 その人の服装は貴族のようで、髪瞳の色は大陸北部で多い金髪碧眼だ。

 周りには侍女が一人、騎士が二人いて、騎士は周りを警戒しつつわたし達のことを敵視しているみたい。それは侍女二人も同じ。


「おい、貴様達、この方を誰と思っている! このネプ王国国王のベレード国王陛下だぞ!」

「『闇夜の廃人』と平民がなぜこんなところにいる! 他の騎士を呼ぶぞ。こいつらを牢の中にぶち込むために」


 騎士の一人はわたしの名前を呼んだ人のことについて言っている。国王陛下だからわたし達がちゃんとした行動をしなかったからだと思う。

 もう一人の騎士はイエア人であるわたしを侮辱する呼び方で呼び、シーリルのことを平民と呼んだ。


「ちょっと待ちなさい。貴女、シャリシーリルよね?」

「は、はい。そうですが……」


 侍女が騎士達を制止させ、国王陛下に一礼してシーリルに近づく。

 シーリルのことを見ている侍女とは対照的に、国王陛下と騎士達はわたしのことを睨んでくる。


「あら、あたしのことを覚えてないの?」

「もしかして……サリアーー」


 パンッ!


 そうシーリルが侍女の名前を言った瞬間、侍女がシーリルの頬を叩いた。

 倒れるように座ったシーリル。わたしは慌ててシーリルの頬を見る。


「あたしの名前を気安く呼ばないでくれる。わたしは国王陛下の専属侍女なのよ。平民とは違うの。もう一発叩かないと気が済まないわね」

「ごめん」

「だからなんであたしにタメ口なのよ」


 シーリルの口調が気に触れたのか、再びシーリルを叩くため手を上げた。

 わたしはその手を見て何かせねばと思った。


「やめてください!」


 大声を出し侍女の手を制止させる。

 わたしに止められたことがムカついたのかその手をわたしに向けてきた。


「『闇夜の廃人』のくせに、生意気言って!!」


 怖い。

 誰か助けて!


「やめろ」


 とても低く冷たい、でもとても温かい声が聞こえた。

 声の方を見るといたのは皇太子様だった。


「皇太子様……」


 わたしは少し安心した。皇太子様が来たことでこの場が丸く収まるのではないかと思ったから。

 みんなが皇太子様の方を見る。

 すると侍女は上げた手を下ろし皇太子様の方を向いた。


「リル!」


 騎士様はシーリルが倒れているのに気づきシーリルの元へ来た。

 心配そうに騎士様が「大丈夫か?」と聞き、シーリルは騎士様を安心させるがために笑顔で「大丈夫だよ」と応えている。


「どういう状況か、説明してもらえるかな。ベレード国王」

「これはこれは、ラディウス皇太子ではありませんか。お見苦しいところをお見せしました。ここに相応しくない者達がいたので、事情聴取をしていたところなんですよ」


 わたしを見た時声を荒げていてわたしを睨みつけていたのに、皇太子様が来た途端に態度がコロっと変わった。

 相手が帝国の次期皇帝である皇太子様だから、良い対応をしておこうという考えなのだろう。


「これが事情聴取だと? 相手に暴力を振るっているのに、そんな言い訳が通用するとでも思っているのか?」

「これは暴力ではありません。抵抗してきたので正当防衛をした。その傷跡なのでこちらに非はありません。それに不法侵入しているこの二人が悪いのですから」


 実際に起こったこととは全く違うことを皇太子様に言う国王陛下。

 わたしは何か言おうと思ったけど、結局は意味がないと思ったから言うのをやめた。


「正当防衛、か。なら仕方ない……」

「そうですよね。これは仕方のないことなんですよ」

「そんな妄言を信じるとでも? そもそもリエリアはこの国の王女であり、ベレード国王の従兄妹だろ? それに暴力を振るわれたシャリシーリルはオレ直属の近衛騎士団団長の妻であり、オレがここに呼び寄せたんだ。つまり帝国の客人に暴力を振ったということになる。その意味が、分かるか?」


 皇太子様は酷く怒っている様子。前に怒っていた時とは比べ物にならないくらい。

 事実を並べて最後に脅しをかける皇太子様。


「はあぁ、そんな脅し、通用しませんよ。そもそも他国に来ておいて客人を招く行為自体非常識ではありませんか」

「オレが招いたのは王城内の帝国が所有する離宮に呼んだのだ。つまり自分の家に他人を呼んで何が悪い? それに『月光の王』であるリエリアをそのように扱うのならば、戦争を仕掛けてもいいんだぞ」


 国王陛下が言ったのは尤もなことだけど、皇太子様の方が一枚上手だった。


 王国の王城は各国とは比べ物にならないくらい広い。

 その理由が各国が所有する離宮を王城内に設置しているからだ。

 つまり皇太子様が呼んだのは帝国の所有する土地だから問題ないということ。


「戦争ですか? ラディウス皇太子にそんな権限があるのですか?」

「あると言ったらどうする?」

「へぇ、面白いですね。戦争をするならこんなところではなく公の場で宣言しなくてはなりませんね。折角なので明後日のパーティーにでも教えてください。『闇夜の廃人』を連れて、ね」


 そう言って国王陛下達はこの場から去っていった。

 わたしはずっと怖いと思いながらも我慢して立っていたので、その反動からか腰が抜け勢いよく座った。

 そんなわたしを見て皇太子様は慌てて駆け寄ってきてくれる。


「大丈夫か、リエリア」

「大丈夫……で、す……」


 わたしは震えながら声を出した。

 けれど気が抜けたせいか疲れて意識を失った。

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