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2.考えたいので

 ……?

 結婚?


「あの、どういうことでしょうか?」

「そうだったな、まだ自己紹介していなかったな」


 男性はわたしの話を聞かずに、自己紹介を始めてしまった。

 もしかしたらわたしの質問が名前を教えてって意味に捉えられたのかもしれない。


「オレはラディウス・ルア・サン。サン帝国の皇太子だ」

「帝国の、皇太子様……!? な、何故、そんな凄いお方がこんな場所に!?」


 なんで帝国の皇太子様がこんなところに来ているの。

 王国に来ていること自体はおかしくないのだけれど、ここに来ていることがおかしい。


「今晩のネプ王国の建国パーティーに招待されてな。だから来たのだ」

「そう、なんですね。それで、何故ここに?」


 今日が建国パーティーのある日なんて、全く知らなかった。

 ここに閉じこもってから、日付感覚など完全に無くしてしまい、今が何日なのかも全く分からない状態で暮らしてきたから。

 分かるのはおおよその時間くらい。

 時間といっても朝昼夕夜の区別だけ。


 皇太子様が答えたのは、この場所に来た理由では無く、この王国に来た理由だった。

 わたしが本当に聞きたいのはそちらじゃ無いので、この場に来た理由をそのまま聞いた。


「ここに『夜の守り人』が幽閉されていると聞いてな。それがまさか『夜の守り手』だとは思わなかったが、これは運命だろう」


 どこでわたしが幽閉されていることを聞いたのかは知らないけど、まだわたしが『夜の守り手』ということの実感が無い。

 でも多分、皇太子様が言うのだから、本当のことなのかも。

 だけど運命っていうのは大袈裟だと思う。


「だから、オレと結婚してくれないか?」

「何故、最終的にその発想に至るんですか」


 わたしが『夜の守り手』だとして、何故そこから結婚という発想に飛ぶのかがさっぱり分からない。

 それに会って本当に間もない相手に求婚するなんて、言ってはいけないかもしれないけど、常識外れなのではないか、と思ってしまう。


「ラディウス様!」


 皇太子様の名前を呼びながら、一人の男性がこちらへやってきた。

 その男性もまた銀色の髪に紅色の瞳を持っている人だった。

 この人も恐らく帝国の人で、皇太子様の護衛役か執事なのだろうか。


「おっ、ギアル。オレの妻が決まったぞ!」


 やってきた男性はギアルという名前らしい。

 その男性が来ると、皇太子様が手を掴んできて、わたしを抱き寄せた。

 そのままわたしは、皇太子様の胸の中へと入っていった。


 恐らくだけれど、皇太子様が言った妻というのは、わたしのことだと思う。

 自意識過剰なのかもしれないけど、恐らくは。


「ラディウス様、また突拍子も無いこと、を……」


 ギアル様はわたしと皇太子様の近くまで来ると、わたしを見て足を止めた。

 その上、話し声も途端に止まり、わたしをじーっと見つめる。


「ラディウス様、まさか……」

「ああ、そうだ。これを見てみろ」


 皇太子様はあのペンダントをギアル様に渡す。

 するとギアル様はじっくりとそのペンダントを見て、こくんと一度頷いた。


「貴女様の名前を聞いても?」

「……わたしは、リエリア・ウィース・ネプです」


 わたしの名前を聞いてくるギアル様。

 少し考え、名前くらいならいいかと思い、わたしは言った。

 わたしの名前を聞いたギアル様は、皇太子様の顔を一度見て、何かを決めたようだ。


「是非、ラディウス様と結婚してくれませんか?」

「え……?」


 混乱してしまった。

 ここは絶対に止めるべきところ。

 わたしは一応王女だけれど、長年幽閉されている身。

 そんな王女だと恐らく分かっていて、皇太子様との結婚をお願いしてきたのだろう。

 その行動の意味が、やはり理解できなかった。


「えーっと、何故ですか?」

「貴女様が『夜の守り手』だからです。『夜の守り手』はここ十数年、現れていなかったんです。『日の助け手』は他国の王と結婚していますから、貴女様しか居ないのです」


 それってつまり、わたしがただ『夜の守り手』だからっていう理由だけで、結婚を申し込んできたの。

 これは外に出られるチャンスかもしれないけど、ただそれだけで結婚などしたくない。

 そんな理由で結婚するくらいなら、ずっとここで幽閉されておく方が何倍もマシ。


「帰ってもらっていいですか?」

「なっ、何故だ!?」

「そうです! 何故ですか?」


 皇太子様はわたしの発言に驚き、ギアル様は動揺しつつも理由を聞いてきた。

 何故って、理由が分からない時点でダメでしょう。


「考えたいので」


 わたしは咄嗟に嘘を吐き、二人を追い出した。

 そしてドアを急いで閉じて、鍵も閉めた。

 何か言ってくるかと思ってきたけど、何も言ってこなかったので、わたしは玄関から去って自分の部屋に引きこもった。

 二階に戻りベッドへと行き、眠りについた。


###


 トンっ、トンっと、窓から何か変な音が聞こえた。

 そのせいで目が覚めてしまい、立ち上がって外を見てみると、そこには一人の男性が居た。


「皇太子、様?」


 皇太子様はわたしが起きたのに気付き、手を振ってきた。

 わたしは二階にいるので、皇太子様は上がってこれないのだろう。

 だからそこら辺にあった、小石か何かを投げて、わたしを起こしてきたのかもしれない。

 ジェスチャーを始める皇太子様。

 わたしは何のジェスチャーか分からなかったので、とりあえず窓を開けることにした。


 この時開けたのは、何をしているのか気になったからだと思う。

 きっとそうだろう。


「何をしているのですか?」

「リエリアと話したくてな」


 いきなり呼び捨てで名前を呼んできたことに引っ掛かったけれど、まあそのくらいはいいかと思った。

 皇太子様という偉い身分の人だから、仕方ないことなのかもしれない。

 そう思った。


「オレはリエリアのことを妻にしたいと思っている」

「その話ですか。それは今考え中ですから、待っていただけたら、いずれ返事をします」


 ただそれだけのために来たのかと思い、わたしははぁと思わず溜息を吐いてしまった。

 外を見ると王城の中は賑やかな様子。つまり今は建国パーティーの真っ只中のはず。

 そこから抜け出してまで、ここに来るとは物好きな人だなと思った。

 それと本当に『夜の守り手』が欲しいだけで来たんだなとも思い、もう話すことはないかと考えた。


「リエリアは、断るだろう」

「っ、なんでそう思うんですか?」


 わたしは一瞬ドキッとしたけど、その驚きを隠して普通の態度で接した。

 確かに断ろうと思っていた。

 今日話した時から。

 でもそれが何故分かったのか。


「やっぱりか。今、一瞬驚いただろ? 確実に断る気満々なことが分かる」

「もしもそうだとして、どうにもできないでしょ」


 わたしはもしもという言葉を使って、断ることが確定していないように見せつつ、その場合どうするのかを聞いた。

 でも皇太子様はわたしが断ることを確信しているように見える。

 まあそう見られても、断ること自体は確定しているのだから、別にいいけど。


「オレは一週間、この国に滞在する予定だ。来たのが一昨日だから、今日入れてあと五日。その間にリエリアにオレのことを好きになってもらう」

「そうですか、頑張ってください。でもわたしが毎日この時間に起きているとは限りませんよ」

「大丈夫。絶対に起こしてみせるから」


 その言葉を聞いた後に、わたしは窓を閉め、再び眠りへとついた。

 本当に翌日の夜も来るとは思わずに。

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