1.オレと結婚してくれないか?
あるところに王様の愛を一心に受ける女性が居ました。
その女性はイエア人と呼ばれる大陸北部では嫌われている人種で、色々な人から暴言を吐かれ暴力を振るわれることが当たり前で日常茶飯事の人達。
イエア人とは人にしては長命で、活動する時間帯が基本的に夜であり、日を嫌う人間です。
そんなイエア人の女性でしたが、そんなことをされても笑い続け、誰にでも優しく接し、決して人を馬鹿にしたり恨んだりしない。
完璧で理想的な女性。
そしてイエア人の特徴である黒い髪と黒い瞳を持っていながらも、それは誰もが見惚れる程綺麗な女性でした。
その女性が気になり始めた王様は、こっそり女性と会うようになり、最後に身分を明かし、そして結婚するまでに至りました。
貴族や平民達から反対されましたが、好きだという気持ちで、皆の反対意見を押し切って結婚したそうです。
娘にも恵まれ、幸せな生活を送っていた最中、女性が病に伏せすぐに亡くなってしまいました。
その悲しみから、王様は引きこもるようになり、やがて亡くなりました。
王様と女性の娘は、2人亡き今、疎まれる人となり、離宮へと移動させられ、そこで半ば幽閉のような状態にされていました。
離宮に人は近付かず、週に一度食材が運ばれ、その娘は一人暮らしな状態で暮らしていました。
それでも娘を殺さなかったのには理由があります。
大陸南部に位置し、この王国の隣国でもある帝国の存在です。
帝国はイエア人を『夜の守り人』と呼び、皆から愛される存在だったからです。
『夜の守り人』とは夜の間、邪悪なものから人々を守る存在。
帝国と王国では武力の差があり過ぎ、イエア人を殺したなどと知られれば、戦争に発展しかねない程のことなのです。
帝国と王国は平和条約を結んでいますが、イエア人を殺したことを知られてしまえば、条約は破られるでしょう。何故なら条約を結ぶ条件としてイエア人を殺さないというものがあるから。ただその穴を突いた王国の人々がイエア人に暴力を振るうのです。
そして王国のイエア人代表と言える存在が娘なのです。
殺すことはできないので、せめて近付かせないようにと、幽閉されたのです。
娘の姿を確認した人はここ五、六年の間、一人も居ないようで、死んでいるのではないかと噂されています。
けれど食材は使われているので、それが唯一生きている証拠。
食材を届けて使われていないことは今まで一度も無いですが、もしもそんなことがあったらどうなるか。
王族貴族や王宮に勤めている者はその日だけは不安なようです。
そしてその娘というのが、わたしなのです。
「今日も同じですか」
わたしはリエリア・ウィース・ネプ。
ネプ王国の第一王女ですが、イエア人ということもあり嫌われている。
ここ数年の間、誰とも話していないまま、もう十七歳。
外に出ると、ドアの目の前に四角い大きめの木箱が置いてあり、その中には食材が入っていた。
食材はいつも野菜だけ。
偶にはお肉やお魚も食べたいんだけれど、わたしと話してくれる人は居ないので、無理なこと。
手紙か何かで伝えても、きっと読まれもせず捨てられるのがオチだろう。
わたしは木箱を持ち上げ、部屋の中へ戻った。
「今日も今日とて暇だな」
わたしはイエア人なので、活動するのは基本的に夜。
夜は昼に比べて、特にやることが少ないので、一日中寝る生活を続けている。
イエア人の特徴なのか分かりませんが、お腹もあまり空かず、週に一、二回程食べれば十分。
わたしが起きている時間は一週間で一日分あるかないかくらい。
起きていても仕方がないので、起きても必要最低限のことをやるだけ。
もう昼。
今日は珍しく昼間に起きたみたい。
でもやることはないので、もう一度寝るのだけれど。
「おい! ここに『夜の守り人』が居るんだろ! 開けてくれ!」
わたしが寝ようと思いベッドへ向かおうとした時、ドアがドンドンと強めにノックされ、大きな声で呼ばれた。
ここに居るのはわたしだけので、呼ばれているのは恐らくわたしなんだろう。
少し引っ掛かったのが、わたしのことを『闇夜の廃人』と呼ばなかったこと。
こちらのような大陸北部の国々では、イエア人のことを『闇夜の廃人』と揶揄し、侮辱の言葉として使われる。
『夜の守り人』と呼ぶのは大陸南部の国々だけ。
つまり今わたしのことを呼んだ人は、南部出身の人ということになる。
わたしは少し怖いと思いつつも、玄関へと移動した。
そしてドアを開けると、そこにいたのは銀色の髪を持ち透き通る紅色の瞳を持った男性だった。
銀髪は南部の人が多く持つ髪色、そして紅色の瞳は帝国の人が多い瞳。
ちなみに北部の人達は金髪が多く、この王国では碧眼が多い。
「君が、王国の『夜の守り人』の王女……いや『夜の守り手』か? まあそれは置いといて、君がリエリア王女か?」
「確かに、わたしはリエリアですけど、『夜の守り手』では無いですよ」
ドアを開けると、わたしのことをじっと見てくる。
特に髪と眼を。
やっぱり『夜の守り人』と言っていたから、髪と眼を確認してきたのだろう。
わたしが『夜の守り手』?
自分ではあまり分からないけど、それは無いと思う。
『夜の守り手』とは『夜の守り人』の上位互換的存在で、世界に一人しか存在しない。
その上『夜の守り手』が亡くなると、十年以上は次の『夜の守り手』は現れないと言われている。
「いいや、恐らくそうだ。『夜の守り手』は黒より黒い髪と瞳を持つ者。そして『日の助け人』の血を受け継いでいることの二つが主に挙げられる。ただそんな人物がまずそうそういない。それに本気で愛し合い授かった子でなければならないのだ」
『夜の守り手』の条件を初めて聞いた。
確かにわたしの髪と瞳は純イエア人のお母様よりも黒かった。
それに『日の助け人』の血を受け継いでるってことは、お父様の血筋には『日の助け人』の血が混ざっていることになる。
この人はそのことを知っていた。
『日の助け人』とは言わば『夜の守り人』の反対と言える存在。
日の照っている時間、神様の手伝いをし、邪悪なものを退治する。
『日の助け人』の特徴は、白い髪と瞳を持つ。
今思い返せば、お父様は白い瞳では無かったけれど、髪は白かった。
つまりお父様は『日の守り人』の血を受け継いでいることになる。
「これを見ろ」
「これは……ペンダント?」
「ああ、そうだ。これを触ってみてくれ」
男性はポケットから灰色のペンダントを見せられた。
わたしは言われるがままに行動し、灰色のペンダントを触った。
するとペンダントが光出す。
ペンダントの光が無くなると、ペンダントの色が変わっていた。
色が真っ黒になっていた。その色はわたしの髪と瞳の色と同じ。
「やっぱりか。リエリア王女、オレと結婚してくれないか?」