屋上で、あまりに良い風が吹いたから、
与えられた仕事が嫌になったぼくは、建物をつなぐ粗末な後付けの渡り廊下に出る。そこの間にある外付けの階段を登り、メンテにしか使われない装置がミッシリと詰まった、趣のない屋上へ登頂したのだった。
普段は施設メンテナンスの人しか訪れない。
監視カメラの黒い涙滴型の目が、ぼくをじっと見ている。ような気がする。
こんなところでサボったところで、何のお咎めもないのだが。涙滴の視線は少し気になる。
今日は日が出ていて明るい。
気温も高めで過ごしやすい。風に頬を叩かれても、不快じゃない温度だった。
空には雲が多くあり、日が照ったり翳ったりする。すこし翳っていたほうが、心地よい。マシということだ。
翳りのほうから、ぬるりとした風が吹いた。
たかが4階の高さだが、少し風は強く吹く。
足元で、小石がじゃりと鳴った。
ぼくは、神様が信じられない。
なんか誰かが、神を信じられないのは一番さいあくの状態だとか言っていた。なら、ぼくは最悪なのだろう。最悪ならば、だれかぼくを救ってくれないかな。救う義務、救われる権利はあるのかい?
でも、救いは無い。ぼくは風が好きだ。雲が好きだ。壮大な空を見上げてその色の変わりゆく様を、また、雲が生まれて育ったり、育てなかったりするの様を、眺めるのが大好きだ。
でもそれの何一つ、ぼくを救いはしない。ぼくが生きる理由にはならない。たまに煙草を吸う。美しい夕焼け空を眺めているときに吸う煙草はまた良い。夕焼けの光を吸っている気分になるが、ほんとうはその副流煙で空を汚している。最悪だ。
大好きなもの、ぼくの心を震わせるものが頭上に無限にとこしえにあって、それでもぼくは、それに生きるほどの価値を見出せない。これのために生きようと思わない。だからきっと、そういう、救いになるものなんかこの世の外まで行っても無いんだろう。ぼくには。
人間に生まれたせいで、そんな事ばっかりだ。
ぼくは左手に穴を開けた。身体が嫌になったからだ。
人の体は脆すぎるし、力もない。産まれ、生きるための根源となるこの肉体を、どうすればいいか考えた。というか、ぼくはずーっとずーーーーっとそれしか考えてなかったんだ。
勉強も、仕事も、趣味も、みなぼくに脅迫し、ぼくの脆弱な体と心はプレスで押し潰される。グシャ、と。
お前らなんか単なる暇つぶしなんだ、そいつらに心を潰されてジュースにされてテイクアウトして 家に帰りベッドに腰掛ければ、救われることのない人生が永遠にテレビに映し出される。チャンネルは救いと同様に無い。
この放映される人生から目を背けたいっ…ぼくはテイクアウトのジュースを飲んだ 薄ピンクのグチャグチャだった
ピンクのグチャグチャだった。ぼくもそれになった。
きれいな雲と風と空の日 ぼくが救われる理由
ぼくが救われる理由は
鳥のように、落ち葉のように人は落ちれないということ。
水たまりの跡の、丸く湿った地面のなかにぼくはいて。
建物の影がぼくのうえにのしかかっている。
フェンスなんかない。
ほんとうに空が綺麗だ いい風きてる。だからさ。




