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1:追放

初投稿です。

「リュート。お前は追放だ」

「……え?」


アルクェシア伯爵家のしがない三男である僕リュート。

そんな僕を父が呼び出したかと思えば、突如告げられた一言。

聞き捨てならなかった。


「なぜですか、父上! 私は私なりに」

「リュート、もう一度言う。お前は追放だ。今日の内に荷物をまとめて家を出ていけ。明日になった瞬間、家の敷地を跨ぐことを禁ずる。これは当主命令だ」

「父上、理由を! 理由を聞かせて頂かないと」

「──()()()()()()()

「──ッ」


分かっていたのだ。固有能力──唯一神様より賜る力。それの強さが重要視されるこの世界に置いて、僕のような無能力者はこの父にとって必要ないのだと。


だが、それでも必死に行動した。

父の要求は出来るだけ受け入れたつもりだった。

それでもこの父は容易く切り捨てた。彼に情が残っていると勘違いしていた僕が悪いのか?


「……分かり、ました。失礼します」

「ふん、聞き分けも悪い。お前みたいなグズを育てたのは時間の無駄だったな。全く、予言者がお前を育てればこの家に幸運が向かってくると言われて育てたものの。あのインチキ予言者が」


毒を吐く彼を尻目に、僕は荷物整理の為自室へと向かった。








アドミニ王国の貴族の一つであるアルクェシア家。

この家は伯爵家でありながらかなりの権限を持つ王国の懐刀である。

それ故に目の敵にする他の貴族も多く、だからこそ父はより上の爵位へと成り上がろうとしている。

僕を育てたのもその一環だろう。


だが、僕は唯一神様より能力を賜ることが出来なかった。

この世界に置いて、無能力者とは()()()()()()()()()()()()()()()()と言う扱いをされてしまう。

そうなればたかが貴族の三男……どのような扱いをされるかは火を見るより明らかだろう。

寧ろここまで育ててくれたことに感謝すべきだ。


そんなことを考えながら無理やり自分を納得させようとしていたら、自室の扉が突然開かれた。


「ようリュート。久しぶりだな」

「……兄上、お久しぶりです」


彼はアルクェシア家の長男、名をラルズと言う。

唯一神様から能力を賜る神与(しんよ)の儀までは、僕によくちょっかいをかけてきた一番上の兄。

自分に次期当主の座を奪われることを憂いていたのだろうが、正直余り良い印象はない。


「お前、追放されるんだって? ははっ!」

「……はい。これも私の力不足故です」

「おいおい、滅多なことは言うもんじゃねぇな。分かってんだろ、なぁ? 不信心者ァ?」

「……」


この兄は相も変わらず、僕が言われて嫌な部分を的確に突いてくるなぁ。嫌がらせという固有能力でも持っているのではとすら思う手腕だ。


「オイオイ、黙ってねぇでナントカ言ったらどうだ?」

「……」

「……チッ、つまんねぇな。次期当主を狙っていたあの頃の威勢はどうした」

「……」


何を言われても無言を貫く。口を開けば直ぐに言い返してしまいそうだ。

次期当主最有力候補の彼を怒らせるのは悪手でしかない。


「まぁ良い。せいぜい頑張って生きろよ」

「兄上こそ。どうかお元気で」


お互いに皮肉を交わし、兄は席を立つ。


「……はぁ」


明らかに上機嫌な様子で鼻歌を歌いながら退出する彼を見送った後、僕はため息を吐いた。


「早く荷物をまとめないと」


何せまだこの家には僕を蔑む者が沢山居るのだから。












「リュート!」


家の玄関へ向かっている廊下の途中で遭遇した。

彼の名前はリシア、この家で唯一僕に優しく接してくれた優男だ。


「如何様でしょうか、兄上?」

「如何様って、リュート……君はそれで、いいのかい?次期当主になるんだって、あんなに意気込んで」

「いいんです」


早口で捲し立てるように説得する声を遮る。

昔は昔、今は今だ。


「私はもう、次期当主になるつもりはありません」

「そん、な。僕より君の方が、なんなら兄上より」

「それ以上は言ってはなりません!」


唐突に大声を出してしまった。

彼はビクリと身体を震わせる。


「……もし、それ以上を誰かに聞かれていたら不味かったですよ」

「……すまない。ありがとう、リュート」

「お気遣いなく。ですが、私と話していると良からぬ噂が立つ恐れがあります。これで話を切り上げましょう」


そう言うと、また彼は悲しそうな顔を浮かべる。

……何故僕のことをここまで気にかけてくれるのだろうか。


「リュート……これを」

「へ?」


その言葉と共に手渡されたのは、銀貨10枚。

これだけあれば1日分は凌げるであろう額。


「すまない、兄上ならともかく僕ではこの程度の金額しか出せなかったんだ」

「いえいえ!充分すぎますって!」

「すまない、すまない。リュート」


この兄はどれだけ優しいんだ。

素直にそう思わざるを得なかった。


「それじゃあ兄上。またいつか」

「……あぁ。どうか元気で居てくれ」

「はい、兄上の息災を私も願っております」


先程とは違う。皮肉無しの純粋な言葉を投げかけ、踵を返し外へと俺は向かった。





呼んでいただきありがとうございます。

「この話、良い!」「続きが読みたい」と思っていただいたなら、下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると嬉しいです!

よろしくお願いします!

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