Prologe
女神は言った。
「愛する人間に力を授けます。
それは、歴史を綴る力。
はじめは何も持たずとも。幾千年。幾万年の時を超えて、
それらはきっと、繁栄の導となるでしょう。
千年の樹から生まれる申し子。
それらと寄り添い、その身を捧げなさい。
きっと、人間達を導く糧となります。
忘れないで。
これは慈愛の力。
歴史から過ちを汲み取る力。
もし、あなた達がこの力を他者を蔑むために使うのなら、
私は白い鯨になってあなた達を滅びへと導きます。
私は見ています。千年の樹を通して。
どうか、愛しい人間達に幸がありますように。」
――中世、未だ十分に技術が発達しておらず、世界が大きく五つの国に分かれていた頃。人々が文字を書き記し、歴史を読み解くことが十分に叶わなかった時代。人間達の(その)一部には「籍拠」と呼ばれる存在があった。それらは、生まれ落ちたと同時に「言霊」から祝福を授かり、生まれ落ちたその日から「文字」を書き記すことが出来たという。それら一部の存在によって書き記されてきた歴史は、その国の権威と繁栄の象徴とされ、その余りある知識故、それらは多くが国の中核を担う存在であった。
知識を持ったそれらは、一方では敬慕と崇敬の対象であったが、また一方では畏怖の対象でもあった。曰く、それらは異形の形を成していたことにも起因すると言われる。ある者は拍斑点の皮膚を持ち。またある者は毒々しい赤色の爪を持ち。そしてまたある者は、絹よりも真っ白な髪を持っていたという。
何より、それらはその立場故、その知識故、そしてその見目故に、多くが数奇な運命を辿り、短命であったとされる――。