終章
ぱたりと本を閉じる音が暗い室内に響く。
蝋燭に照らされた爪の黒く塗られた白い手は本の背表紙を軽く撫ぜてから、本棚へと本を戻した。慣れている様で、その動作は暗い部屋の中でも迷いがない。
何処からか風が吹き、炎が揺れると、その明かりで本棚が浮き上がった。
本棚には複数の本が整然と並べられており、その背表紙には『回顧録』の文字とその下には『《森の魔女》』、『《無名の魔女》』、『夢見の魔女』……と魔女達の名前の記載がある。
白い手はその本を一冊ずつ撫でていく。
揺れた灯りが本棚の全体を照らし出すと、同じ本が無数に並んでいた。
ただ、一箇所を除いて。
白い手は、本棚の黒くぽっかりと空いた隙間で止まった。
「──一体何処へ行ったのやら」
暗い室内に男とも女とも取れない声が響いた。
その声は僅かに笑いを含んでおり、そこに本がない事を嘆いているというよりも、ただ面白がっている様であった。
「てっきり、あの忌々しい《精霊女王》が絡んでいると思っていたが……。ガゼルを捕えてみても、未だその行方は知れないとな」
白い手がその隙間をなぞった。
「《精霊姫》も復活したし、暫くは動けない。ならば、新しい策を練ろう。時間は十分にある」
「くくくっ」と笑い声が響いた。
「本当に興味深いな。《魔女の女王》よ」
白い手の主がふっと息を吐くと、蝋燭灯りが消え、室内は暗闇に包まれた。