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BEAST ARMS  作者: 下棲人
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 日も落ち始め、辺りの影も伸び暗くなってくる時間帯、人目が付きにくいだろう路地裏で数人の不良が重症を負い気を失っていた。骨の折れている者、頭から血を流す者、傷の程度は様々だが総じて言えるのはどれも『人間がつけた傷には見えない』ということだ。

 そのような凄惨な光景を、腕輪をはめた少年が興奮した様子で眺めていた。そんな少年の姿に満足げな表情を浮かべながら黒いコートの男が少年のもとへやってくる。


「調子はどうだい少年。私からのプレゼント、気に入ってくれたかな?」

「はい! まるで自分が自分じゃないみたいな、本当に生まれ変わった気分だ! こんなすごい物、なんてお礼を言ったら……」

「いやいやお気に召してくれたのなら結構。しかし礼を受け取らないのもまた無礼というもの、ならば一つ君に頼みたいことがあるんだ」


 男は一枚の写真を取り出す。写真には白衣を着た黒髪の女性が映っていた。


「こいつは私の勤め先から大事なものを盗んだ悪者でね、君にはこの悪者の退治をお願いしたいんだ。引き受けてくれるかい?」


 男の依頼に少年は力強くうなずき、写真を受け取って『悪者』を探しに去っていった。男はその背中を気味の悪い笑顔をしながら見送るのだった。



 ~~~



 変わらぬ日常をかみしめながらリョウが帰り道を歩いていると、道脇の土手に白いうずくまった人影をみつける。よく見てみるとそれは白衣を着た女性であった。

 女性は何かを探している様であり、服装などから怪しさを感じたリョウは早急に立ち去ろうとした……が、運悪く女性と目が合ってしまう。


「そこの少年! 探し物をしているんだが何か知らないだろうか? こう……」

「いえ、すみません知りません。それでは」

「まぁまぁ、そう言わずに話だけでも聞いてくくれないか」


 リョウは女性の言葉を遮りつつ断り逃げようとするも、腕をつかまれ引き留められてしまう。女性はリョウの顔を伺いもせず話を始める。


「名乗るのを忘れていたね、私の名は朽端くちは。とても大切な物を落としてしまってね。手のひらに収まるくらいの大きさで、何かしらの動物の絵が彫られた長方形の板状の物なんだが何か知らないかい? ビースト・レリーフといって大変危険な物なんだ。レリーフには描かれた獣の力が込められていて、ただ持って入るだけで悪影響がでるほどなんだ。しかも落としたのは特に強力なやつだから誰かに拾われる前に見つけないと大変なことになる!」


 朽端と名乗った女性は早口気味にそう語った。だがリョウはその話を理解できなかった。早口ゆえに聞き取れなかったのもあるが内容があまりに突拍子もなかったからだ。

 余計に怪しさが増すことになったが、朽端の見せる『何か大切な物を失くして困っている』姿までリョウは嘘だと思えなかった。


「信じられないかもしれないが本当なんだ。頼む!」

「……ハァ、正直なとこ話は信じられねぇけど見つけなきゃヤバい物ってのはわかった。探し物を手伝ってやる」


 リョウは自らが折れる形で手伝うことにした。変に逃げようとするよりもおとなしく手伝った方が早いと考えたのだ。


「感謝するよ少年! じゃあ私はあっちの方を探してくるから君はこの辺りをお願いしたい! 頼んだぞ!」

「ちょっ……行っちまった」


 朽端はリョウの協力に感謝すると彼が声をかける間もなく走り去っていった。


「探すつってもなぁ」


 朽端の探し物は要約すると手のひら大の小さな板。そのうえどこで落としたかは具体的には言わなかったので下手をしたら町中を探すことになる。

 やっぱり助けるべきではなかったかと少し後悔しながら朽端の居た土手に沿って歩いていると、視界の端で何かが光ったような感覚がした。

 金属か何かが反射したのか、気になったリョウはその周辺を漁ってみたところ銀色に輝く物を発見した。それは中央に翼をもった怪獣のような絵が彫られており、手のひらに収まる程度の大きさの長方形の板であった。


「マジか……こんなことあるのかよ」


 動物の絵が彫られた手のひら大の板、朽端の出した情報と合致する。最悪夜までかかると覚悟していた物をリョウは彼女と別れた直後に見つけてしまったのだ。

 ただ目的の物をみつけたはいいが、探していた本人に渡そうにも大雑把に場所だけを指して去ってしまったので詳しい居場所がわからない。


「まぁそれなりに目立つ格好してたしそのうち見つかるだろ」


 そう思いながらリョウは朽端が走っていった方向へ歩き始めた。



 ~~~



「ぜんっぜん見つからねぇ……」


 件の板を発見し朽端を探し始めてから一時間弱、板の時とは真逆にリョウは成果を得られていなかった。

 目立つ格好をしていたからと高を括っていたもの束の間、町中をいくら探してもそれらしき人影は見えない。呼びかけもしてみたが帰ってくるのはその場にいた人たちの痛い視線のみ。

 途方に暮れつつも探し続けていると路地裏の方から何かが呻くような音が聞こてくる。恐る恐る覗いてみると、そこにいたのは数時間前にトオルをイジメていた不良達だった。

 しかし不良達はただ屯しているわけではなく、何者かに襲撃を受けたのか各々怪我を負って動けない様であった。


「いったい何があったんだよ……!」

「げぇ! 辰飛!?」


 思わず声を上げてしまったリョウに数人の不良がその存在に気づき逃げようとするも引き留められる。


「見てわかるだろ? このザマだ。だから見逃してくれよ」

「さすがに怪我人相手に喧嘩する趣味は無ぇよ。それよりもいったい何があったってんだ。その怪我、どう見ても普通じゃないだろ」

「お前の方が何か知ってんじゃないのか? お前が助けたヤツにやられたんだぞ!?」

「俺が助けた……? まさか相馬が?」


 リョウは耳を疑った。臆病で争いごとを嫌うあの友人が相手を返り討ちにするなど彼には考えられなかった。


「バカ言え、あいつに限ってこんな事できるわけないだろ」

「あぁ、俺もまだ信じられてねぇよ。でもなんか様子がおかしかったんだ。急に突っかかってきてよ、やけに息が荒くて独り言も多くて変な腕輪はめてたし。それから板みたいの? を取り出して……」


 不良はそこまで言うと何かに怯えるように身震いをはじめた。


「おい、大丈夫か? それから相馬がどうしたんだ?」

「どうせ信じられないだろうが言ってやる。腕輪をはめたとたん、あいつは怪物になったんだ! 冗談でもなんでもねぇ、正真正銘化け物の姿に変わっちまったんだ!! まだ信じられないってんなら周りをよく見てみろ!」


 不良達ばかりに気がとられていたリョウは改めて周囲を見回し、そこで彼はようやく気づいた。辺りの壁や地面には到底人がつけたとは思えない、荒々しく抉られたような跡があることに。得体の知れない不安がリョウを襲う。

 リョウはその場を後にしトオルの捜索を始めた。不良は言った『板を取り出した』と。朽端や彼女の探す板との関係性はわからないが、友人の身に何かが起きていることだけは確実だった。

 必死に走り回っていると聞き覚えにある叫び声が響いた。


「見つけたぞ悪者!」


 リョウの悪寒は当たってしまった。声の方に向かうとそこには朽端と彼女を指さすトオルの姿が。さらにトオルは妙な腕輪をはめており、かなり興奮している様子。


「どういう状況だ……?」

「少年!? 逃げるんだ!早く!」

「はぁ!?」


 リョウに気づいた朽端が逃げるように言うも、状況が飲み込めていないリョウはその場で立ち尽くすしかできなかった。


「辰飛君、ちょうど良いとこに来たね! 今から僕がもう君に助けられるだけじゃないってことを見せてあげるよ!」


 トオルはポケットから小さなプレートを取り出すと腕輪にセットした。プレートに自分の拾った板と似た絵柄の馬の絵が彫られているのを遠目からだが確認したリョウは、それらが同質の物だと確信した。


「なんでお前がそれを持ってんだよ!?」


 リョウの疑問はもはやトオルには届かず、トオルはそのまま腕輪を操作する。


「僕は、僕はヒーローになるんだ!!」


〝Change Horse〟


 トオルがそう叫ぶと歪んだ機械音と共に彼の身体は馬の化け物のような姿へと変貌した。


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